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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない

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エピローグ 青い鳥の終わり方

 ――――


 暖炉に火が灯る。パチパチと小気味よい音と共に、

 冷めきった肌を溶かすように熱が伝わった。

 男は光に笑みを溢し吐息を反動に立ち上がる。


「マスター。何故いつも男に変装を?」


 炎の明かりのみが灯る部屋の中、背後から声がした。

 マスターと呼ばれた男は振り向き小さな笑みを溢す。

 そして上着を脱ぎ去り自身に掛けた魔法を解いた。

 直後、彼の髪は伸び肉付きは女性の物へと変化する。


「権力の差が強かった時代の名残りかな?

 そっちの方が何かと動きやすかったからね。」


 男……否、マスターと呼ばれた女はまたも笑う。

 そして脱いだ上着をくるりと纏め、

 年季の入ったハンガーラックに掛けた。

 まるで日常。女の眷属は溜め息混じりに呟いた。


「左様で御座いますか。

 ……して、地下都市には一体何をしに?」


「ソピアーの領主家は元々()の系譜なんだ。

 だから弟子の子孫を一目見ておこうかと思ってね?」


 女は振り向く事なく質問に答えた。

 服を仕舞い終えると今度は指を振るう。

 直後、机の上でティーカップが動き出した。


 女が椅子に着く頃には紅茶が出来上がり、

 彼女は深々と座ってその香りを愉しんだ。

 そんな女をしばらく見つめ眷属は眉をひそめる。


「…………気になる方がいたようで?」


「お! 気づいちゃう? やるね〜!」


 気付かれたのが嬉しかったのか、

 女はスプーンを回しながら声を弾ませた。

 そして、水面を眺め寂しげな顔を見せる。


「……領主の娘、ミストリナ・クレマリア。

 とても可哀想な子だったよ……彼女の運命は()()だ。」


 女は水面にキスをした。

 そのままグイッと飲み干し喉を潤すと、

 頬杖を突きながら溜め息混じりに呟いた。


「長生きはするけど真の幸せは得られないAルート。

 そして本人的には幸せだけど短命になるBルート。

 ……お前はどっちがマシだったと思う?」


 投げかけられた問いに眷属は考え込む。

 顎に手を当てポーズを取るが、正直どっちでもいい。

 本心ではそう思いつつ眷属は何とか答えを捻り出す。


「ふむ? 幸せで無くとも生きている者は大勢います。

 私としてはAルートを歩むべきだと思いますが?」


「相変わらず優しいねー、()()()()()()。」


「んーっ! 心外! 大真面目に答えたというのに!」


 眷属は立ち上がり叫び声を上げる。

 その容姿は悪魔のイメージそのもの。

 悪ノリに似た発狂を終え悪魔は再び冷静になった。


「……して、貴女の事です。既に種は撒いたのでしょう?」


「うん。Bルートに行きやすいようにした。

 選択の余地は残したけど……私はそっちが良いと思う。」


 だって、と呟き女は立ち上がった。

 楽しそうな……それでいて寂しそうな笑顔と共に。

 そして暖炉の明かりを背に手を広げる。


「それこそが――()()()()()()のあるべき姿だからね!」


 燃え盛る焔を背に女は謳う。

 その姿はまるで……火炙りに遭う魔女の如し。



 ――――


「――……と? ちょっとサマエルー? 聞いてる?」


 悪魔はハッとし眉間に当てた指を離す。

 慌て周囲を見回すとそこには火の消えた暖炉と

 年季の入ったハンガーラック、空のティーカップ。

 そして悪魔の顔を覗き込むアンドロイドの少女が一人。


「どったの? なんか考え事?」


「んーっ! 失敬! ワタクシことサマエル!

 どうやら少しの間、呆けていたようで!」


「ウチの話、聞いてた?」


「パードゥン? ですぞ!」


 はぁ、と深い溜め息を溢しながら、

 アンドロイドの少女は通信端末の画面を見せた。

 そこに映し出された文字列をしばらく眺め、

 悪魔はニヤリと思わせぶりな笑みを浮かばせた。


「読んだ? ()()()からの指示書。」


「んーっ! 確認!

 我々もそろそろ……表舞台に顔を出しましょうや!」


 人外たちの嗤い声が談話室に響き渡る。

 彼らの前には巨大なスクリーン。

 そこに映し出されていたのは――アリスだった。



 ――二週間後・封魔局本部――


 鉄骨が幾重にも重なり白亜の城を覆う。

 厄災との戦闘により崩壊しかけた中央都市は、

 既に修復を終え元の姿を取り戻しつつあった。


 それは封魔局本部もほぼ同じ。


 着工の優先順位は下げられていたため

 まだ外壁が無く内部が剥き出しの部屋もあるが、

 それでも間違い無く復興へと進んでいた。


「…………ふぅむ。」


「どうしたマクスウェル。

 溜め息など似合わ…………幸せが逃げてしまうぞ?」


「せめて言い切ってくれよ、シルバ。」


 そう言うと再びマクスウェルは吐息を漏らす。

 もうそれが癖になっているのだろう。

 一呼吸置くたびに彼は溜め息を漏らしていた。


「悩み事か?」


「……もう何が悩みなのかすら分からなくなったよ。

 なぁシルバ? お前、私の変わりに局長に――」


「――来る所まで来たな。しかし断らせて貰う。」


 そう言うとシルバは窓際に移動した。

 眼下に広がる日常をその目に焼き付け、

 マクスウェルに対して言葉を発した。


「無様を晒したのなら挽回してから終われ。

 今回の責任を感じているというのなら、寧ろそうしろ。」


(むご)いな、君は。」


「成り行きだったから、仕方無かったから。

 そんな言葉では逃げられない責任もこの世にはある。」


 シルバの言葉にまたもマクスウェルは溜め息を吐く。

 しかしこれは憔悴しきっていた今までの物とは違う。

 決心、いや『諦め』がついたが故の物だった。


「…………貧乏くじだな。」


「後で行きつけのスパを紹介してやる。だから今は――」


「――あぁ、分かっている。()()()に向かうとしよう。」


 そう言うと二人は部屋を後にした。

 本部の外ではファンファーレの音が響く。

 新たな時代を歓迎するように、高らかに。



 ――魔法連合総本部・式典場――


 多くの人間がその場にいた。

 封魔局員、連合関係者、マスコミ。

 多くの人々が一人の背中を見つめていた。


「…………」


 仲間たちもその背中を見つめていた。

 女性にしては大きめで、それでいて儚げな背中。

 そんな背中で彼女は壇上に立っていた。


「ひっ! ひっ! ひっ! 緊張しておるのかのぉ?」


「いえ……問題ありません。進めてください。」


「ひっ! ひっ! ひっ! では。」


 老人はマイクをイジり口角を上げた。

 きっとこの放送を聞く多くの者は喜ぶだろう。

 彼女を知る者たちのほとんども祝福するだろう。


「朝霧桃香殿。貴殿を――六番隊隊長に任命する。」


 隻腕の朝霧は片手で令状を受け取ると深々と礼をする。

 その間もずっと、彼女の目は冷え切っていた。


「では朝霧隊長。民衆に何か一言。」


 百朧は朝霧を演台の前へと導く。

 大観衆の視線の中、朝霧は口を開いた。


「私が――全ての特異点を滅ぼします。」


 歓声が響いた。喝采が轟いた。

 特異点≪厄災≫を打ち払った勇者の宣誓。

 多くの者にはきっと希望に満ちて聞こえたはずだ。

 だがアリスは、朝霧の顔に靄を視た。


(朝霧さん……本当に……これで?)



 ――――


 任命式が終わり朝霧は風を浴びていた。

 冷たく寂しい風が美しい青空に吹きすさぶ。

 朝霧はただ……その風を浴びていた。


「お疲れ様、桃香。」


「……フィオナ。」


 フィオナは朝霧の隣に歩み寄った。

 手すりにもたれ掛かり朝霧と同じように風を浴びた。

 そして残った右目に彼女の横顔を入れる。


「義手の手配は済んだのか?」


「デイクさんに依頼した。フィオナの方は?」


「私はいい。義眼は好きじゃないんだ。」


「そっか……」


 会話が途切れた。フィオナは必死に話題を探す。

 しかし見つからない。無言の時間が続いた。

 沈黙に耐えれずフィオナは適当な話題を振ろうとした。

 その時――朝霧の方から沈黙が破られる。


「ミストリナ隊長とね、約束したんだ。

 いつか実力で越えて隊長になるんだって……

 でも実際はあの人が亡くなっての繰り上げ任命。」


 フィオナは反応を返せなかった。

 その先に待つ言葉を予感したからだ。

 ただ黙して親友の吐露を聞くしか無かった。


「こんなことで……! こんなことで私っ……!

 っ……隊長になんて成りたくなかったなぁ……!」


 悪意の炎は掻き消された。正義は此処に勝利した。

 しかし青い鳥は何処にもいない。藍の鳥は届かない。

 今は不服な答えの物語。苦しむ様こそ美しい。


 ――世界は今日も平穏だ。不穏なほどに平穏だ。

ここまでのご愛読ありがとうございました!


第四章の更新ですが、書き貯め等の準備期間が欲しいので5日間ほど休載します。次の更新は6/27(月)を予定しています。また次話以降は午後3時頃に毎日投稿しようと考えています。


今後とも『カルミナント〜魔法世界は銃社会〜』の応援よろしくお願いします!

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