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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
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第六十三話 『祝福』

 ……ずっと見てきた。

 学生時代からふとした瞬間視界に入ってきた。


 厳しい訓練の後に独り残って汗を掻く姿。

 それでいて、一切の弱音も無く毅然と構える姿。

 人一倍の苦労を重ね、当然のように首席を取った。


 それは封魔局員になってからも変わらない。


 学生時代とは比べ物にならない地獄の日々でも、

 彼は変わらず自らを鍛え続けていた。

 来る日も来る日も、ただ上を目指して……


 ……ずっと()()きたのだ。


 当時の彼女には、

 自身に芽生えた()()()()を理解出来なかった。

 しかし……今ならハッキリ理解出来る。


 そうだ。彼女は彼の事が凄く、凄く――



(――大っ嫌い。)



 青龍(ルドラ)の蹴りがアランの脳天を狙う。

 回避出来るほどスタミナに余力は無い。

 今の彼に出来るのは鉄刃の創造による反撃のみ。


 しかしそれは自壊覚悟の魔力解放。

 破滅的な『暴風雨』の反動により、

 アランの肉体はこれ以上の負荷には耐えられない。


(んなモン構わねぇッ! せめて一矢報いて……!)


 アランは呼吸を整え覚悟を決めた。

 残りカスのような魔力をその『呪い』に込める。

 その時――


「――バカッ!!」


 アランの体を衝撃が貫いた。

 しかしそれは殺意の籠もった敵の攻撃では無い。

 背中から飛び込んだ、ひ弱な少女の突進だった。


「ッ……アリス!?」


 押し倒され、二人は地面に這いつくばった。

 そのお陰でルドラの蹴りは空を切る。

 と、同時に数人の隊員がルドラへと飛び掛かった。


 倒れる二人からルドラを引き離す。

 その間にアランはアリスを睨みつけた。


「っ……何余計な事をッ!?

 蹴りに刃を合わせればアイツの片足は持っていけた!」


「でもそれをしたらアラン君死んじゃうじゃん!!」


「それで死ぬなら本望だ!」


 男は怒鳴りつけた。それは正に心からの叫びだった。

 数秒してすぐにアランはハッとする。

 キツく言い過ぎたのでは、と不安になったのだ。

 恐る恐るアリスの顔を覗き込んだ、その時――


「っ〜〜〜〜!!!! このバカッ!!」


 ――頭突きが炸裂した。


「いッッてぇ!?」


「私はずっと視てきた……貴方の()()()()()を!

 いつも誰かと比較して! いつも誰かを敵視する!」


「ア……アリス?」


「道場の名声がどうとか詳しい事情は分かんないけど!

 君のそういう姿が毎回視界の端に入って来て……!

 視てるコッチは――すっごくウザいんだよッ!!」


 女は怒鳴りつけた。それもまた心からの叫びであった。

 しばらくアリスは肩を揺らしながら呼吸を荒らす。

 そして面食らうアランにさらに畳み掛けた。


「……けど、それがアラン君だったでしょ!?

 バカみたいに鍛えて最後には首席にまで登り詰めた!

 それが君! 最後まで諦めなかったのが本堂アラン!」


 アリスは胸ぐらを掴み上げる。

 決して力は強く無いが想いだけは籠もっていた。

 それは彼女の潤んだ瞳が物語る。


「だったらそんな貴方が……!

 途中で死んでも良いなんてキモい事を()かすな!」


 それは彼を見続けた彼女だからこその説教。

 アランはアリスのその瞳に目を奪われた。


 緑色に煌めく――『厄視の眼』。

 それは自制の効くアランの祝福よりもよっぽど()()

 アリスの瞳に常にこの世の闇を見せつけるのだから。


 だが彼女の瞳は輝いていた。それはそれは美しく。

 きっとアリスは自身の能力を呪いなどとは

 思っていないのだろう。


 ――彼女の『呪い』は既に『祝福』へと逆転していた。


「……強いな、アリスは。」


()()アラン君の方が強かったですよ?」


 自嘲気味にアランは笑った。

 ――その時、取り巻く隊員たちを薙ぎ払い

 二人の真横にルドラが飛び込んだ。


 ルドラの着地、と同時に地面は悲鳴を上げる。

 轟く崩壊音。走る亀裂。割れる大地。

 二人のいた床が爆音と共に崩れ始めた。


「――! 掴まれ、アリス!」


 崩落の最中、アリスはアランの腕にしがみ付く。

 だがもう彼に出来る事などほとんど無い。

 崩れる瓦礫と共に死に向かって落下するしか無かった。


(マズい……! このままじゃ!)


「そう言う時は先輩を頼れ! バカ共!」


 二人の体をジャックが持ち上げた。

 瓦礫の暴雨を華麗に避け展望台へと上昇した。


「ジャックさん!? す、すみません!」


「突っ走った罰だ。もう少し働け!」


 そう言うとジャックは敵を見上げた。

 ルドラの方も迫る敵の姿を目視し舌打ちをした。


アラン(あのガキ)だけは今の内に殺さねば――)


「――させないよッ!!」


 ジャックを狙うルドラを薙刀が襲う。

 それは二番隊員メアリーの攻撃であった。


「邪魔だ、雑魚がぁ!!」


「はん! 後輩があんなに頑張ったんだ!

 私たち先輩が命張らないでどうするんだい!」


 祝福発動――『武芸模倣』。

 数時間以内に見た動きの模倣が出来る。

 今彼女が真似ているのはルドラ本人だ。


「アンタの運動性能、貰うよ!」


「模倣系か。だが……!」


 数回に渡る打ち合いの後、

 ルドラはメアリーの動きに対応し始める。

 それも当然。なぜならソレは劣化模倣。


「スタイルが全く合っていないようだな!」


「ッ……別に良いさ!

 だって欲しかったのは、アンタの()()()()だからね!」


 その台詞を言い切る前に、

 メアリーはその場を飛び退く。

 直後、ルドラの両足を弾丸が貫いた。


「――ッ!! なんだとッ!?」


「ふぅ……やっと当たった。」


「ビューティフォー! レティシアさん!」


 ルドラは苦悶の表情を零し跪く。

 が、間髪入れず背後に巨大な影が浮かび上がった。


「――噛み付け! 『アザカ』!」


「精霊か……!」


 現れた巨大なヨコーテがルドラに噛みつく。

 低い風切り音を上げながら左右に振ると、

 そのままレティシアの元へと投げ飛ばした。


(マズい……! 何故急に押され始めた!?)


「祝福発動――『跳弾膜(バウンドウォール)』。」


「ぐふっ!?」


 レティシアの前に半透明の膜が現れた。

 それはルドラの体を更に大きく跳ね上げる。

 そしてその先には、拳を握るハウンドが迫っていた。


(――()()か! コイツら急に連携し始めた……!)


「俺たちは別に連携している訳じゃ無いぜ?」


「!?」


 連携出来るほど彼らは互いの事を知らない。

 噂や名声は聞いたことがあったとしても、

 連携に足るだけの訓練は積んでいないのだ。


「だったら何故……!」


「若輩に感化され、それぞれが最適を選んだだけだ!」


 ハウンドの拳に熱が籠もった。

 それは地下都市で溜まった怒りを乗せて、

 龍の強固な装甲(ウロコ)をも爆散させる鉄拳となる。


「――『怒髪天(レイジパンク)』!!」


「ゴッ……ハァッ!!」


 爆音、続けて衝撃。

 その鎧は砕け青い龍は地に墜ちた。

 それと共に青い鳥が飛び上がる。


「ぜぇぜぇ……! アラン! トドメは任せる!」


「――!? けど……俺はもう体が……!」


「私がくっついている間に治癒しました!

 一撃くらいなら大丈夫です、多分、恐らく!」


 不安だな!とジャックはツッコむ。

 だがアランには一抹の不安も無かった。


「ありがとう……ずっと側にいてくれて。」


「何それキモい。……まぁ、けど。

 もう私の好感度を下げるような事しないでくださいね?」


 そう言うとアリスは手を離し離脱した。

 彼女に聞こえるかどうかの声でアランは頷く。

 そしてジャックは攻勢に向け体制を整えた。


「なぁアラン、俺たちは似た者同士だったみたいだな。

 勝手に強い女性に惹かれて、勝手に落ち込んで……」


「いや、俺は別に惚れた訳じゃ……!」


「でもなぁアラン。どうやら俺たちは……

 まだまだ折れる訳には行かないらしい!」


 加速する、青龍目掛けて。

 ジャックはアランごと己の体を回転させた。

 そして、技と共にアランを撃ち放つ。


「廻天螺旋――『アルバトロス』!!」


 弾丸のように放たれたアラン。

 ルドラは震えた体を必死に持ち上げた。

 そして残る魔力の全てを拳に込める。


「チッ! せめて貴様だけでも!!」


「はいはい。もういいから、そう言うの。

 蓄積呪厄、七十二パーセント……『死を想え(メメント・モリ)』。」


「ゴブッ!? ゲホッ……これは!?」


 お膳立ては終了した。

 この勝利は決してアランの強さを示す物では無い。

 多くの者に助けられての勝利。

 しかしそれでも彼にとっては誇れる一勝であった。


「本堂一刀流居合――『時雨』ッ!!」


 ――決着。

 中央電波塔の戦い。()()()の勝利。



 ――評議会――


 何かが砕ける音が響く。

 やがてそれが仮面であると彼女は理解した。

 親友から貰った、大切な贈り物であると悟った。


「膝をついたな、≪箱庭姫≫。

 ハァハァ……! 負けを認めろ、勝負は決した。」


 ミストリナは抜け落ちる気力を必死に留める。

 しかし、ついに途切れてその場に倒れ込んだ。


(すまない……みんな……)


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