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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない

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第六十二話 『呪い』と

 ――――


 時に……『祝福』と『呪い』の違いは何であろうか?

 多くの神話に目を向けてみればどちらも、

 人間の遥か上位存在『神』に与えられる事が多い。


 日に千人を殺す呪い。日に千五百人を産む祝福。

 蜘蛛へと転生させる呪い。偶像を人にする祝福。

 代々引き継ぐ死の呪い。星座へと昇華する天の祝福。


 多くの者が呪われた。多くの者が祝われた。

 この違いに()る老剣士は一つの答えを出した。


「当人の得となるのが祝福。損となるのが呪いだ。」


 若き日の少年は、その答えに納得した。

 特に否定の言葉も思いつかない。

 ただ納得して、自分の腕を強く握った。


「そうだアラン。お前の能力は『呪い』だ。

 剣の創造までなら許そう。だが()()は二度と使うな。」


 老剣士は縁側にて外を眺める。

 広い庭には竹刀を振るう若人たち。

 エイ、エイと青い声が晴天に響く。


「見よこの晴天を。空は青く晴れ渡るべきだ。

 しかしそれでは地が渇く。故に空には()も必要だ。

 では、この大空を世界とするならば我らは一体何だ?」


「はい師範。我ら本堂一刀流は――雨です。」


「然り。剣とは人を殺める凶器にすぎない。

 されど世界を回すためには、時にソレが必要となる。

 言うなれば我らが本堂一刀流とは『必要悪』なのだ。」


 アランは口を閉ざす。

 この後に続く説教が何かを悟ったのだ。

 出来ることなら、耳を閉ざして聞き流したい。


「だが必要悪にも限度がある!

 行き過ぎた悪性とは周囲を壊す災害に等しい!

 貴様のソレはそう言う類いだ! 例えるならそう――」


 ――暴風雨。

 雨は雨でも周囲を破壊し尽くす大災害。



 ――中央電波塔・展望台――


 振動が塔を目で分かるほど揺らす。

 それは青年から溢れ出た魔力も原因の一つだが、

 何よりも大きいのは、彼の生み出した鉄器の質量だ。


「ッ!? 退避しろ!」


 ハウンドは危険を察知し声を上げた。

 揺れ動く地面に両の足で立ちどまり、

 他の封魔局員たちの避難を助ける。


「おいアリス! お前もだ! 下がれ!!」


「でも……! アラン君が!!」


 アリスは吹き(すさ)ぶ魔力の風に逆らいながら、

 ルドラの前に立ちはだかったアランを見つめた。


 その姿を一言で形容するならば……禍々しい。


 上半身を中心に全身から鉄剣が突き出していた。

 まるで刺々しい鉱物が人の形を成しているようだ。

 顔の周りにも棘。まるで鉄仮面。人相が見えない。


「アラン……君?」


 無言で佇む彼に恐る恐る語りかけた。

 その時――


「――離、レロッ!! ガァァァアッッッ!!!!」


 アランは、否、そこにいる生物は咆哮した。

 と同時に鋭利な刃物が周囲へ向け解き放たれる。

 正に無差別。敵だけでなくアリスにもその凶刃が迫る。


「ッ! 出でよ『アザカ』!!」


 アリスの体を半透明の狼が弾き飛ばす。

 それはケイルが呼び出した精霊であった。


 アリスらが飛び退くと同時にアランは飛び出す。

 刃の突出を回避したルドラに襲い掛かり、

 まるで猛獣の爪のように斬り付けた。


「アラン君……!」


「下がってろアリス! 彼は今、理性が()()()()()()()!」


 魔法使いにとって暴走とは身近な存在。

 その多くは魔力の過負荷が原因である。


 現状、アランもそれに近い状態だ。


 生み出した鉄の棘は過密な魔力の塊。

 それが彼の全身を満遍無く覆っている状態。

 長時間この状態でいよう物なら体に毒だ。


「チッ、厄介な隠し玉をッ!!」


「此処でェ……倒スッッ!!」


 今の彼は正に全身凶器。

 青龍の装甲に幾度となく打ち合っても折れる事は無く、

 逆にルドラの体を徐々に後方へと押し退けていった。


 堪らずルドラは室内を広く使い始めた。

 防御と回避を織り交ぜる事で打開を図ったのだ。

 速やかにアランの背後に回り込むと拳を突き出す。

 しかし――


「――ヅッ!? ぐぉ……!」


 血飛沫を出したのはルドラの拳であった。

 殴られると同時に鋭利な刃を創造したのだ。

 そしてアランはカウンターの蹴りを叩き込む。


「す、凄い。隊長格の実力を持つルドラを押している!」


「アランの奴……こんな奥の手を隠していたのか。」


 鳴り響く鉄同士の衝突音。

 それを封魔局員たちはただ聞いているしか無かった。

 それほどまでに苛烈。二人の間に割って入れない。


「けどアイツ何で……今まで黙ってたんだ?」


 ジャックは浮かんだ純粋な疑問を吐露した。

 その答えを知っている者は一人もいない。

 いないのだが……アリスだけがその思考に至った。


「もしかしてアラン君……死ぬつもりなんじゃ……?」


「「――!?」」


 アリスの眼だけがその不快な厄を捉えていた。

 猛毒のような魔力に苛まれるアランの精神が、

 苦しい、苦しいと叫んでいるのを理解した。


「なら止めろ! アランを助けなければ――」


「――来ル、なッ!!」


 防壁のような鉄塊が味方の手を拒む。

 突如現れた超重量。地面には亀裂が走った。


「アラン……君。」


「グゥガァァァアッッ!!!!」


 やがて刃はルドラに向かう。

 無数の拳で殴るようにいくつもの刃が繰り出された。

 ルドラは装甲を巧みに操り必死に防ぐ。

 だがその体はすぐに壁にまで追い詰められた。


(俺は……心の何処かで理解していた……!

 もう一生、朝霧には()()()()んだろうなって……!)


 狂い、弾ける理性の一部で

 アランは自身の本心と向き合っていた。

 それは彼の内心に溜まっていたドロドロの感情。


(アイツはあっという間に隊長格の強さになった!

 ミストリナ隊長も……俺じゃ無くアイツを推薦した!) 


 口ではいずれ追いつくと吠えた。

 が、それは精一杯の強がり。無謀な願望。

 それを一番理解していたのは他ならぬアランだった。


(それだけなら良い……! 才能の差だ、仕方無い。

 だがどうやら……()()は他にもいたらしい!)


 それこそが、目の前に現れた四方守護たちだ。

 彼らは魔導装甲を持つとはいえ、

 アランたちを圧倒するほどの実力を持っていた。

 それがアランにとって――この上ない屈辱だった。


(俺は……! 俺はもう理解しちまった……!

 そのステージには上がれないと……! ならせめて……!)


 繰り出された鉄塊。ルドラの両腕を弾く。

 ガラ空きとなった胴体。血走る目が狙う。


朝霧(アイツ)の足手纏いにダけはなりたく無ぇッ!」


 溢れんばかりの気迫。ルドラは身構えた。

 だが身構えた所で彼に逃れる術は存在しない。

 ルドラは自らの死期を悟った。しかし――


「…………?」


 ――アランの追撃は来なかった。

 代わりに鼻と口から滝のような血が流れていた。

 時間切れ(タイムオーバー)。決着より先に肉体に限界が来たのだ。


「あ……」


「ふ、フハハハ!! 惜しかったな、若造!!」


 ルドラは装甲に魔力を込めた。

 それは最大限の警戒と敬意を乗せた蹴り。

 直撃すれば頭蓋骨でも容易く砕くほどの一撃だ。


 アランは再び鉄器を創造しようとした。

 しかしそれは導火線に火を点けるような行為。

 今の彼の肉体は限界をとっくに超えていた。


(嫌だ……! 嫌だ……! )


 使えば死ぬ。魔法使いなら誰もが理解出来ることだ。

 しかしそれより恐い物がアランにはあった。


「足手纏いだけは嫌だッ!

 そうなるくらいなら俺は――()()()()()()()()ッ!!」


「なら死ね!」


 ルドラの一撃がアランに向けて放たれた。


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