第五十五話 四神再起
古くより、人々は大自然の脅威に畏怖し続けた。
人の身では敵わぬ災害。ただ過ぎゆくを願うしかない。
やがて人々は――その大災害の中に神を見た。
砂塵が渦巻く、近未来的な都市を飲み込みながら。
静電気を帯びながらゆっくりと行進を続けた。
巨大生物が歩いているのかと見紛うほどの大災害。
その中心で、百朧は戦況を見つめてほくそ笑んだ。
「ひっ! ひっ! ひっ! 大変そうじゃのぉ、封魔局。」
砂嵐の中、朝霧たちは百朧を見つめる。
地下都市で爆死したはずの老人がそこにいるのだ。
状況が理解出来ず、ただ困惑していた。
すると肩を抑え屈みながら黒幕が口を開いた。
『百朧ッ……! 聞いてた話とかなり違うようだな。』
「ひっ! ひっ! ひっ! 計画に狂いでも出たか?
ハプニングも楽しんでこその人生じゃよ、若造!」
『ッ!!』
黒幕は立ち上がる。その手には魔杖。
禍々しい魔力を込め、再びあの蒼炎を生み出す。
しかしその炎を瞬時に砂嵐が掻き消した。
「封魔局よ。此処は儂に任せてはくれんか?」
「!? そんな、無茶だ百朧殿! 相手は黒幕だぞ!?」
「ひっ! ひっ! ひっ!
儂の祝福『砂塵領域』は燃えない砂嵐の障壁。
奴の蒼炎を前に時間が稼げるのは儂だけじゃよ。」
しかし、とフィオナは抗議する。
だがそれをミストリナは止めた。
そして百朧の顔を見て頷いた。
「お願いします。くれぐれも無茶はしないよう。」
「ひっ! ひっ! ひっ! 分かっておるわい!」
そう言うと百朧は三人を見送った。
朝霧たちは砂嵐を抜け総本部へ走り出す。
その様子を黒幕は眺めていた。
「ひっ! ひっ! ひっ! さぁ手合わせ願おうかのぉ。」
『茶番だ、クソジジイ。』
「まぁそう言うな、クソガキ。」
衝突音が朝霧の背後から鳴り響く。
振り返ればそこには砂塵の中で渦巻く蒼炎。
高度な魔術戦が繰り広げられていた。
「振り返るな! 走れ!!」
「――! 了解!!」
朝霧たちは正面入口を駆け抜ける。
遂に魔法連合総本部へと侵入した。
――総本部・議長室――
「百朧だとッ!?」
ローデンヴァイツの声が響く。
帝王としての装いに着替えている途中、
シーラから外部の状況報告を受けていた。
「グラシャラボラスは何も成せ無かったようですね。
如何しますか? ローデンヴァイツ最高議長閣下。」
「ふ! ふふ!」
「……閣下?」
シーラは訝しむ。計画が狂いだしたというのに、
ローデンヴァイツは肩を震わしながら笑っていた。
気が狂った訳では無い。心から喜んでいるのだ。
「やはりあの爺は……この私自らの手で殺さねばなァ!」
(この人は何故あの老人にそこまで固執している?)
シーラの疑問も束の間、無線から通信が入る。
総本部内部で警備に当たる四方守護の玄武からだ。
『最高議長閣下。封魔局が猛スピードで侵攻中です。
その数三名。現在、第四フロアまで突破されました。』
「防衛しろ。それだけがお前の責務だ、玄武。」
『御意に。』
端的に命令を済ませるとローデンヴァイツは上を向く。
その手を目に当て深く溜め息を溢した。
「やはり……全てが計画通り、など存在しないな。
しかしそれこそが人生。結局は楽しんだ者の勝ちだ。」
溜め息混じりにそう呟くと、
ローデンヴァイツはシーラを侍らせ歩み出す。
向かうは新皇帝即位に相応しい舞台。
魔法連合総本部、その最上階に設けられた施設。
「では征こうか――『天極の間』へ。」
――同所・評議会――
円形の室内。政治の中心、評議会。
中央には最高議長室へと直通する昇降機。
議長室へ向かうのなら一番速いルートである。
(故に……敵は此処を通る。)
議会の中央、登りきった昇降機の前で玄武は瞑想する。
紫の鎧甲冑のような装甲に身を包み、槍を携えて。
「……来たか。」
彼がそう呟いた直後、議会の扉が吹き飛んだ。
迫りくる扉を弾き飛ばし玄武はゆっくり見上げる。
そこには三人の封魔局員、即ち朝霧たちがいた。
「――! ミストリナ隊長、あの人!」
「あぁ、一目で分かる……強いぞ。」
三人は瞬時にバラけ敵を囲む。
玄武はその動きの良さに思わず口元が緩んだ。
そして心底楽しそうな口調で語りだす。
「フハハハ! よく来たな、封魔局!!
俺は四方守護の玄武! お前らを殺す者だ!」
「言ってくれるな、武士!
だが生憎と、お前に浪費してやる時間は無いんだ!」
ミストリナの掛け声と共に三人は三方向から攻撃を放つ。
その全てが狂いなく玄武の肉体に直撃した。
巻き上がる粉塵。ミストリナたちは立ち止まる。
「よし、先を急――」
「――ぐ必要は無いぜ? どの道お前らは詰んでいる!」
(!? あの猛攻を受けて……無傷だと!?)
朝霧たちは再び構えた。
どうやら敵は防御特化。一筋縄では行かなそうだ。
頬に汗を掻きながらミストリナは問いかける。
「詰んでいる、と言ったか? どういう意味だ?」
「戦況の話だ。気付いているか?
お前らが参戦してから状況は何一つ好転していないぞ?」
「な、何を言って……?」
「ガーディアン幹部、四方守護。
その生体反応はまだ一つも途絶えていないという事だ。」
――大通り――
炎上する機体の中から一人の男が立ち上がる。
まるでゾンビのようにユラリユラリと歩き出す。
「――『王虎再臨』ッ!」
四方守護ゴーズ。祝福は『自己治癒能力向上』。
本来は傷の治りが少し早い程度の弱能力であるが、
魔導装甲『白虎』はその力を増幅させる。
「ハァハァ……! 殺して……やるぞ! 封魔局!!」
――封魔局本部――
瓦礫を押しのけ一人の男が起き上がる。
失った両足を見つめ、憔悴した表情を浮かべた。
「――『鳳凰天威』ッ!」
四方守護レイブン。祝福は『念波』。
彼はその念波を使用し疲労しきった身体を動かす。
魔導装甲『朱雀』。これがあれば足などいらない。
「ふ、ふふっ! 見掛け倒しだったな……ドレイク!」
――中央電波塔・展望台――
比較的広い空間でアランの体が吹き飛んだ。
地面に転がる六番隊員たち。彼らを男が見下ろした。
「――『龍神逆鱗』。」
四方守護ルドラ。祝福は『無限体力』。
彼が疲れを知ることは決して無く、
魔導装甲『青龍』による異常強化を最大限発揮する。
「四対一では、まだ俺を倒せないようだな。」
――――
「分かったか? 四方守護は健在だ!
そして海岸には厄災の配下がもうじき上陸する!
もたもたしていればサギトへの覚醒も始まるぞ!」
「ッ! ならそれより早く倒すまで!」
「無理だな、何故なら此処には俺がいる!
――『亀甲要塞』ッ! 誰にも俺は倒せない!」
玄武が魔力を放出すると同時に、
彼の纏う装甲は更にその硬度を増した。
そして迫る朝霧の攻撃を容易に弾く。
(……! 耐久が売りの幹部……か。)
ミストリナは少し離れて戦闘を観察する。
朝霧もフィオナも攻めあぐねている。
このまま時間を浪費するのは最悪手だろう。
ならば――
「――ハードアスペクト・『スクエア』!」
ミストリナは得意の結界を生み出す。
それは黒幕戦でも見せた結界の足場。
玄武の真上、昇降機の出入り口へと続いていた。
「ミストリナ隊長!?」
「二人とも先を急げ。コイツは――私が撃破するッ!」