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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
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第四十九話 いつか越える

 ――数分前・近海上空――


 雲一つ無い快晴。青い空。

 目を射るような鋭い日光を海面が照り返す。

 その青一色を背景に黒い機体は飛行していた。


「もうすぐゴエティアが見えてくるはずだ!」


 操縦桿を握りしめたままデイクは叫ぶ。

 ベーゼが造り出した試作旅客機の中、

 開発途中で剥き出しの席に座る六番隊員に向けて。


「速いな。法定速度を余裕で超えていないか?」


「非常事態につき勘弁してくれ、隊長さん。」


 デイクの返答にミストリナは鼻で笑う。

 地下都市から続く激戦の絶え間。僅かな休息時間。

 最低限の緊張感のみを残し彼らはリラックスしていた。


「そういえばミストリナ隊長。今いいですか?」


「ん? どうした朝霧?」


「エヴァンスさんから聞きました。

 私を隊長に推薦してくださったって。

 ありがとうございます。私それで頑張れました。」


 朝霧は感謝の言葉を述べる。

 対テスタメント戦からずっと、

 期待されているという気持ちが心を押してきた。

 対するミストリナは「何だそんなことか」と零す。


「これまでの戦果を考えれば妥当な提案さ。

 まぁ……局長はこの提案を真っ向から却下したがね。」


 ミストリナは当時の事を語った。

 それは今後の特異点勢力との戦い方を決める会議の事。


 朝霧に地位を与えたいというミストリナの願望と、

 実働隊不足という封魔局の弱点を補うために出した案。

 それを局長は二つの理由で却下した。


 一つはやはり人員不足。

 新たな部隊を新設出来るだけの人員がそもそも無い。

 そしてもう一つの理由は、朝霧の若さだった。


「局長曰く、朝霧(きみ)はまだまだ経験不足で未熟だと。

 それに、順番で言うのならフィオナの方が先だと

 ドレイクまでゴネだす始末。案は通らなかったよ。」


 ミストリナはやや申し訳無さそうに失笑する。

 だが当の朝霧本人には別段残念な気持ちは無かった。


「それは仕方無いですよ!

 経験不足なのもフィオナの方が適任なのも事実です。」


 朝霧は何の気も無しにそう語った。

 しかしそれを聞いたミストリナはムッとしだす。

 口をへの字に曲げながら朝霧の両肩を掴んだ。


「そんな訳があるか! 君は既に二人のサギトと出会った。

 一人とは真っ向から対決し一人とは共に戦った!

 こんな体験をしておいて、なーにが『経験不足』だ!」


「へ!? あ、あのミストリナ隊長?」


「それに私は、フィオナにも負けていないと思っている!

 だって魔王軍の最高幹部を二人も撃破しているのだぞ?

 十分だろ!? 年齢という話なら私もまだまだ若いぞ!」


 言葉に熱が入っていた。

 突然の昂りに朝霧はすっかり動揺していた。

 だがそれと同時に、ミストリナが自分の事を

 それほどまでに高く評価していると知り高揚した。


「朝霧。お前はもっと胸を張るべき逸材だ。

 それを今日! 厄災の撃破を以て証明してやれ!」


「分かりました……! 私いつか!

 フィオナも、ミストリナ隊長も越えてみせます!」


 朝霧は宣言した、その瞳に希望を灯しながら。

 集まる仲間たちの注目。彼らは面白がった。


「言ったな? ちんたらしてると俺が先に隊長になるぞ?」


「朝霧さんならすぐすぐですよ!」


「若い衆に負けてはいられねぇな?」


「もちろんだ。俺もいずれミストリナに並ぶ……!」


 朝霧に引っ張られるように六番隊員たちは活気づいた。

 その様子をミストリナは心底嬉しそうに眺める。

 まるで子供の成長を見守り喜ぶ母親のように。


(大丈夫さ朝霧。君は既に、私よりもずっと強いさ。)


 ミストリナはその言葉を敢えて心に留めた。

 それを口に出せば朝霧は気を使ってしまうだろう。

 今はただ……彼女たちの笑顔を見ていたかった。

 だがその願いはすぐに中断されてしまった。


「――話し中悪いッ! ゴエティアから戦闘機だ!!」


「ッ! 総員、臨戦態勢を整えろ!!」


 此処にいるのはミストリナ自慢の精鋭たち。

 デイクの声に反応し指示よりも速く動いていた。


「デイクさん! 敵の数は!?」


「数は二つ! たぶん連合の自律迎撃機だ!」


「ミストリナ! 俺が飛んで迎え撃つぜ!」


「やめておけ、ジャック! あの速度の戦闘機。

 小虫が鷹やトンビに挑むようなモノだ!」


 そう言うとミストリナは操縦席へと身を移す。

 設備を一通り目を通し、デイクに問い掛けた。


「この機体に何か武器は搭載していないのか!?」


「旅客機想定だぞ!? ある訳無いだろ!?」


「探してみろ! 製作者はベーゼだろ!?」


「そんな探した所で…………あったッ!!」


 デイクが隠されたトリガーを引くと、

 自動ロックオン機能が作動した音が響く。

 直後、前方の迎撃機に向けてミサイルが発射された。


 数年前の未完成品であるはずなのに、

 その性能面は現役の迎撃機にも負けていなかった。

 二発のミサイルがそれぞれ敵機を叩き落とす。

 が――


「ッ! 今ので機体がイカれた!」


「はぁ!? 自分の攻撃でダメになるのか!?」


「試作機なのに無茶しすぎたんだ!

 もうすぐエンジンが止まるぞ!」


 ゴエティアの上空で黒い機体は黒煙を上げる。

 バキバキと装甲が剥がれながら高度を落とした。

 朝霧たちは必死に何かに掴まり衝撃に備える。


「うわぁあぁぁあ!! ………あ、フィオナだ。」



 ――大通り――


(あれ? このままだと此処に落下しないか?)


 壁に張り付きながらフィオナは機体を眺めていた。

 そんな彼女に白虎ことゴーズは不満を零す。


「おーい、何処を見てんだよー!

 その一個しか無い眼の前にこの俺っちがいるんだぞ!」


(……さてはコイツ、気付いて無いな?)


 フィオナは視線をゴーズに戻す。

 ゴーズはまだ何やらゴチャゴチャと語っていた。

 その間も機体は真っ直ぐ彼女たちの元へと落下する。


「ん? 何か背後がうるさいな?」


(――今だ!)


 ゴーズが気付くと同時に、

 フィオナは彼の両足に糸を巻き付けた。


「嘘!? 待て待て待て待てェッ!!」


 フィオナは物陰に隠れる。

 直後、ゴーズは機体の落下に巻き込まれた。


「ぎゃぁぁぁああッ!!」



 ――――


 数秒後、フィオナは機体に駆け寄った。

 炎上する黒い機体。彼女にはその所属は分からない。

 すると機体の真横に一人の封魔局員が降り立った。


 ――朝霧とジャックだった。

 手に小さな瓶を持ちながら脱出したのだ。


「桃香!? それに六番隊員の……!」


「やっぱりフィオナだ。……!? その眼どうしたの!?」


 朝霧はフィオナに飛びついた。

 それと同時に彼女の背後で何かが起き上がる。


「このぉ……! 俺っちを……!!」


 ゴーズだ。

 炎上する機体の中、憎悪に呑まれた虎が立ち上がった。

 朝霧は瞬時にこの人物が敵であると理解した。


「そうか……! コイツがフィオナを!」


 怒気を露わにしながら朝霧は飛び出した。

 狂気限定顕在・≪(ザ・セカンド)≫発動、および赫岩の牙、抜刀。

 燃えて黒くくすんだ白虎に狙いを定める。


「舐めるなよ……! 俺っちは隊長どもと同格だぞ!?」


「お生憎様、私もそうよ!」


 飛ぶ打撃――『草薙』。

 ゴーズの身体を炎上する機体まで吹き飛ばす。

 刹那、機体はさらなる豪炎を拭き上げ爆発した。


「私は今日――≪厄災≫を倒し隊長になるッ!」


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