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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
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第四十六話 赤に染まる

 ――数日前・野営地――


 荒れる世界。各地で巻き起こる戦闘。

 封魔局の主戦力もその波に呑まれ疲弊していた。

 暴れる厄災の配下たちを手当り次第に撃破して周り、

 碌な休息も取れない日々が続いていたのだ。


「それは本当か、フィオナ?」


 三番隊もその例に漏れない。

 むしろ平均値の高い彼らは出ずっぱりであった。

 疲労の色を顔に浮かばせたまま

 ドレイクとアレックスがフィオナの話を聞いた。


「はい間違いないかと。封魔局本部に不穏な動きが。」


 そう言うとフィオナは手に入れた資料を渡す。

 それは封魔局本部へ向けて武器を密輸する計画書。

 すぐには見つからない場所に隠されていたのだから、

 恐らくここに書かれているのは本物の情報だろう。


「今、封魔局本部はガラ空きの状態……危険かと。」


「ガーディアンがいてくれるだろ? ねぇ隊長?」


 アレックスはドレイクの顔を伺った。

 彼は神妙な面持ちで顎に手を当て考え込んでいた。

 すると考えが纏まったのか、ゆっくり口を開く。


「武器を本部へ()()ということは、受取手(うらぎりもの)がいる。

 信頼をおけるはずの封魔局員でその状態だ……

 ここは全てを疑うつもりでいるべきだろう。」


「ガーディアンに頼るべきでは無い、ってことですね?」


「あぁそうだ。身内の不始末は身内が解決しよう。」



 ――現在・封魔局本部――


 破れた天井。積み上がる瓦礫。

 そんな荒れた部屋の中にドレイクは佇む。

 空から見下ろす赤い鋼の鳥を睨んで。


(まさか……本当にガーディアンが敵だとはな。)


 思いの外近くに潜んでいた悪意。

 半ば自責の意味も込めドレイクは額を抑える。

 そんな彼の背後にマクスウェルは伏していた。


「ドレイク! よくぞ戻って来てくれた!」


「遅れて申し訳ありません。本部のはもちろん、

 中央都市全ての転移装置がどうにも動いてくれなくて。」


「恐らく封魔局本部(このたてもの)の電気室と、

 連合総本部にある制御装置が抑えられたのだろう。

 何せ……敵の大将≪厄災≫はあの最高議長なのだからな。」


 その言葉にドレイクは目を見張る。

 しかし、意外ではあったが今は敵の眼前。

 最小限の反応のみですぐさま目線を戻した。


「なら俺たちは……目の前のコイツらを潰して、

 総本部のローデンヴァイツもぶっ潰せばいいわけだ!」


 言葉と同時に両腕を燃やす。

 直後、真っ直ぐ敵を目掛けて飛ぶ火柱。

 レイブンはそれを空中で華麗に避けた。


「ハズレだ、ドレイク。

 隊長の登場には驚いたが機動力ならこちらが上だ!」


 両手に赤い刃を取り出す。

 迫りくる火の周りを旋回しドレイクに迫った。

 その時――


「今だ、フィオナ。」


「了解!」


 レイブンの目の前に、

 無数に張り巡らされた網目状の糸が出現した。

 彼がそれに気付いた時には既に、

 真横を抜けフィオナが網を収縮させる。


「しまっ!」


「捕らえたぞ、朱雀!」



 ――――


 同時刻、封魔局本部内の廊下を三番隊の面々が駆ける。

 先頭を征くは自称ドレイクの腹心アレックスだ。

 真っ直ぐ人質が集められていると思しき場所を目指す。


(よし、止まれ! この先だ。)


 扉の陰に隠れながら様子を探る。

 感じ取れるのは異様な静けさと……大量の血の臭い。


(!? これは……!)


 アレックスは自分の目を疑った。

 そこに広がる光景は凄惨そのものだった。


 積まれた死体の山。全て封魔局員。

 その周りには武装した黒服の集団、ガーディアン。

 そして、山の上には軽装の男が座っていた。


「ふしゅー! 良い運動になった!」


 男は手の甲にこびりついた血を舐めながら、

 不気味なほどに純朴な笑顔を浮かべていた。


(ありゃ確か……四方守護の……ゴーズだったか?)


 アレックスは背中を汗で滲ませながら、

 敵勢力の動きに注視する。

 するとゴーズはスクッと立ち上がり背伸びをした。


「さて、と! じゃあ次は――()()()()()()()!」


 刹那、アレックスとゴーズの目があった。

 勘付かれたと察し仲間たちと共に逃走を図る。

 だがそれを見たゴーズは手首に付けたボタンを押した。

 直後、アレックスたちの逃げ道が隔壁で塞がれた。


「ッ!? 本部の防衛機構か!」


「ピンポーン! 今この建物にある主要システムは

 俺たちのこのリモコンと同期しているのさ!」


 退路は完全に塞がれた。もはや選択肢は無い。

 アレックスは敵を見据え無言で短刀を取り出した。


「やる気満々だね! けど僕たち四方守護は……

 君らの所でいう『隊長格』レベルで強いよ?」



 ――――


「う……っ! すまないな……ドレイク。」


 マクスウェルの手錠を破壊しドレイクは彼の肩を持つ。

 その身体は既にボロボロ。今にも気を失いそうだった。

 そんな彼らの背後ではフィオナがレイブンを見張る。


 彼女の強靭な糸で造られた網の中で、

 仰々しい装甲ごと拘束されたレイブン。

 両目を塞ぎ、一切の抵抗も見せなかった。


(……こいつ、一体何を考えている?)


 フィオナは最大限の警戒心をレイブンに向ける。

 少しでも動けばその首を糸で刎ねよう。

 そう考えながら彼の様子を観察していた。


「次期隊長候補……フィオナ。貴様がそうか?」


 突然の問い掛け。フィオナは何も答え無い。

 代わりに、より鋭い警戒心を向けるだけだった。

 それでもレイブンは語り続ける。


「祝福は糸か…………素晴らしいな。

 そんな雑魚能力で貴様はその名声を手にしたのか。

 きっとそこには、並々ならぬ努力があったのだろう。」


(……何だ? 何が目的だ?)


「少し俺の話をしよう。俺の祝福は『念波』。

 独自の特殊な電波を発生させるという()()の代物だ。

 別に既存の設備を操れる訳でも無い……雑魚能力だ。」


 フィオナは眉を潜める。

 レイブンが何を言いたいのか分からないのに加え、

 彼の目に宿った黒い感情に戦慄したのだ。


「――だが、あの方はそんな私に合う武器をくださった。」


 刹那、レイブンの背中から鋼鉄の翼が広がる。

 無数の鋭利な赤刃根を携えた翼は、

 フィオナの糸を容易に切り裂いた。


 立ち上がるレイブン。

 そんな彼の首を目掛けてフィオナは糸を出す。

 が―― 


「違うフィオナ! ()()!!」


 転がる死体の一つ。

 その肉体を引き裂き一本の真っ赤な凶刃が飛ぶ。


「しまッ!?」


 それは――死肉に隠した奇襲の一撃。

 避けられるはずも無い。防げるはずも無い。

 何よりフィオナは、敵の本体に集中しすぎた。


 ――ザシュ!


 音が飛ぶ。肉が飛ぶ。赤が飛ぶ。

 不快な刺突音と共に、フィオナの左目が抉られた。


「ッ! フィオナァァァッ!!」


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