表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
166/666

第三十四話 厄災へ向かう

新規ブックマーク登録ありがとうございます!お陰様で総合評価100ptの大台に乗りました!今後もこの調子で続けて行きますので、『カルミナント〜魔法世界は銃社会〜』の応援よろしくお願いします!

 ――同時刻・ソピアー領主邸――


 依然として慌ただしい邸内。

 しかし爆破事件の情報はまだ届いていない。

 慌ただしいのは挙式の準備のためだった。


 そんな忙しそうな使用人たちの中で唯一、

 大した重労働も割り当てられず、

 それでいて神経を尖らせているメイドがいた。


「こちらアリスです。……はい、周りには誰も。

 ……っていうか、通信でって事は緊急なんですよね?」


 潜入メイド、アリス。

 いくつものチェックマークがついたリストを片手に

 人の出入りが少ない部屋で仲間と連絡を取っていた。


「はぁ!? 爆破事件に……百朧が暗殺された!?」


 荒げた声。思わずサッと口を塞ぐ。

 周囲を警戒しながら口元に通信機を近づけた。


「それ本当ですか、アラン君?」


『あぁ。爆弾犯と思しき人物とも交戦した。

 フードと爆煙で顔は見えなかったがな。』


「……っ! 誰か追跡は?」


『事件の調査は支部局員に引き継いだよ。

 戦闘中、ソイツの片腕を斬り落としたから、

 そう遠くにまで逃げてはいないはずだ。』


 なるほど、と呟くとアリスは報告を脳内で整理する。

 そんな彼女にアランは更に情報を追加した。


『それと……戦場に袖口用(カフス)ボタンが落ちていた。

 爆発に巻き込まれたにしては綺麗なボタンがな。』


「ボタン……ですか? それが何か?」


『既に支部局員に渡したからもう実物は無いが……

 ――()()()()使()()()がつけているソレに似ていた。』


 袖口用の綺麗なボタン。

 綺麗な、という事は落ちたのは恐らく爆発より後。

 爆発後に落ちたものといえば――爆弾犯の片腕だ。


「じゃ……じゃあそのボタンって……!?」


『あぁ、気をつけろよアリス。敵は近いぞ。』


 ――その時、アリスは窓の外の人影に気付く。

 咄嗟に隠れゆっくりと眺めるとそこには、

 メイド長と執事のミゲルが会話をしていた。


(二人とも……腕はあるみたい。)


 安堵に似た表情を浮かべながら、

 アリスは再び通信機に話しかけようとする。

 が――


「あれれー? 誰かそこにいるのかなー?」


(!?)


 ほとんど人の来ないはずの部屋の扉が突如開く。

 アリスは立ち上がると後ろ手を組み通信機を隠す。


「やぁ、メイドさん。サボりかな?」


(……っ!! 隊長の婚約者……ラインハルトさん!)


 アリスは無線を切ると役を作る。

 サボりを疑われたのを利用しサボり魔の役を。


「も、申し訳ありません!

 どうか、どうかメイド長にだけはご内密にぃい!」


 設定としてはサボり癖があり、

 過去に何度もメイド長の叱責を受けた駄目メイド。

 中々上手く演じられているとアリスは自負した。


「うーん? それは良いけど……君はそうなの?」


「……? それはどういう?」


「君は本当にメイドなの? ……ってことですよ。」


 アリスの目つきが一瞬鋭くなる。

 それを見逃さなかったのか、彼はニヤリと笑った。


「いやね? 僕を見たとき手を()()に組んだでしょ?

 普通前じゃない? 領主邸(いいとこ)のメイドさんならね?」


(……ッ! まずい、この人! 意外に頭良い……!)


「もしかして何かを隠したかった?

 見せてよ。後ろ手に隠した――その『何か』を。」



 ――ゴエティア・封魔局本部――


 激務が続くのは遠く離れた封魔局本部も同じ。

 潜んでいた悪意が漏れ出るように、

 闇社会の組織は徐々にその凶暴性を見せ始めていた。


 隊長たちはほぼ休み無く各地を飛び回り、

 特異点勢力の調査、拠点の特定、制圧に動く。

 その多くが効率を重視し本部には戻らず

 近場の支部を拠点に活動を続けていた。


(彼らには激務を強いてしまったな……)


 局長室にてマクスウェルは項垂れる。

 ただでさえ人材不足の封魔局。

 ミストリナが動けない現状はかなりの痛手だ。


(支部局員に特異点勢力との戦闘をさせるのは不安だ。

 ここは……本部の戦力を更に吐き出すしかないか?)


 もちろん、そんな事をすれば本部は手薄になる。

 だが局長目線ではそれでも問題は無かった。

 何故ならまだ『ガーディアン』がいるからだ。


(衛士長シーラと『四方守護』たち。

 隊長たちに匹敵すると謳われる戦力はまだ残っている。)


 これがマクスウェル局長の考えだった。

 その時、局長室に一人の局員が入室する。

 その人物は頬に深い傷を遺した局員だった。


「失礼します! 魔法連合よりお届け物です!」


「連合から? 誰から? 中身は?」


「オルゴールと書かれています!

 えー送り主は……ローデンヴァイツ最高議長閣下です!」


 ふむ、とマクスウェルは納得する。

 封魔局の激務を労っての計らいだろうと考えたのだ。


「後で開ける。その辺に置いておけ。」


「了解しました! では――――失礼します。」


 頬に傷を持つ男は、

 局長に背を向けるとニヤリと笑った。



 ――――


 場面は戻りソピアー領主邸。

 大きなソファで気だるそうに(くつろ)ぐのはミストリナ。

 その真横で苦々しい表情をするのは朝霧だった。


「なぁ霧亜。状況を整理してくれないか?」


「はい、お嬢様。」


 そう言うと朝霧は向かいに座る人物たちに向け、

 ゆっくりと丁寧に説明し始めた。


「私たちはラインハルト様に会うべく彼の部屋に。

 しかし不在でしたので、仕方無く午前中は

 挙式に向けての段取り等の確認作業に移りました。」


「うむ、そうだな。

 私も腹を括って前へ進もうとしたんだ。」


「昼食後も当日着るドレスを始め、多くの確認作業を。

 それらがやっっっと終わり、お疲れのお嬢様は

 こちらの部屋で休憩を取ろうとしました、が――」


 朝霧は正面の人物たちから目を逸らす。

 その行動に男は苦笑し、女は慌てふためいた。


「丁度、ラインハルト様が

 アリスを押し倒している所でした。」


「ゴミが。」


 今まで見たことも無い表情と共に、

 ミストリナは部屋に響くほどの舌打ちをする。


(待ってぇー! 違うの、隊長ぉ、朝霧さぁあーん!!)


「落ち着いてって、ミストリナちゃん!

 僕は止めたんだけど、メイドさんがどうしてもってね?」


(はぁ!? 何コイツ何コイツ何コイツ!?)


 流れるような責任転嫁。アリスは必死に否定する。

 だがむしろラインハルトはこの状況を面白がっていた。


「何でも、結婚直前の男性が好みなんだって?」


「クソですね。お嬢様。」


「全くだ。霧亜。」


「何でぇぇえーー!?」


 半分涙目になりながらアリスは抗議した。

 すると流石に彼女が可愛そうになったのか、

 ミストリナはフッと笑みを溢す。


「冗談だアリス。そこのクズに乗っかっただけさ。

 で、婚約者殿。結婚前に使用人に手を出すとは……

 どうやら私の見込み違いだったようだな?」


「あれれ? 一転して僕が悪者かな?」


「当然だ。この件で婚約破棄にしてもいいぞ?」


「嫌だよ。僕は本気で君に惚れたんだ。

 始めてだよ。写真だけでここまで好きになったのは。」


 フン、と鼻で笑うとミストリナは顔を逸らす。

 どうやらかなり怒らせたようだ。

 ラインハルトは観念したようにため息を吐く。


「全く、婚約者より一人のメイドを信じるか。

 二人は随分厚い信頼関係なんだね。」


「当然だ。君より長い付き合いだからな。」


「長い? そんなに変わらないはずでしょ?」


「?」


「だってミストリナちゃんは()()()()()()()んだよね?

 でも見たところ……このメイドさんは二十代前半。

 なら君たちの付き合いは精々数週間じゃないの?」


 ミストリナはハッとする。

 自らが掘った墓穴に気付き悔しさが滲み出た。

 一転する攻勢。そんな中朝霧は別の感想を抱く。


(森泉さんより探偵やってるなー。)


「フフ、意地悪はこのくらい!

 そろそろ正体を見せてよ、ねぇ朝霧桃香さん?」


「あー、そうですねー。…………へ?」


 朝霧、アリス、ミストリナの三人は

 瞬時に飛び退き、咄嗟に臨戦態勢に入った。

 その様子を満足そうにラインハルトは眺める。


「領主邸潜入組はこれで全員かな? 封魔局員さん?」



 ――数日後・貧民街――


「――! アンタか。」


 ホーネウスは人影に顔を向ける。

 暗い暗い貧民街。その暗さは彼の顔に影を落とす。


「聞いたぜ。アンタの家族……」


「あぁ、()()()。」


「そうか……辛かったな。」


 露悪は極まる。既に引火し巨大な火花を散らす。

 暗部に蠢く闇。復讐と怨嗟を糧に力を得る。


「決心はついたんだな?」


「先日の製薬会社爆破事件。

 領主邸使用人のボタンが現場から発見された。

 もう疑う余地も無い。この事件の裏には領主がいる。」


 なんだと?とホーネウスは呟いた。

 彼の眉間には何層にも重なる怒りのシワ。

 報復の業火は人々の心の中に宿る。


「……そういえば、ジャックは?」


「来ない。アイツには黙って来た。」


「そうか。まぁ仕方ないな。」


 此処は見捨てられた者の墓。

 世界は徐々に厄災へ向かう。


「アルガー・ハウンド。革命軍は君を歓迎する。

 作戦決行は明後日。――――結婚式当日だ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ