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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない

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第十話 厳格の都市

 ――ソピアー領主邸――


 裕福層による都市中心街。金色の建物がぐるりと囲い

 下の下に溜まる貧民街など目にも留まらない。

 図書館。博物館。時計塔。その他宮殿のような装い。

 そんな威厳に威厳を重ねた街の中心に領主邸はあった。


「やっと来たか……我が娘、ミストリナ。」


 白い髭を蓄えた男が、その鋭い目を彼女に向けた。

 対するミストリナは何も言わずに椅子を動かす。

 そんな様子にため息を溢しながら男は続けた。


「全く……昨夜には着いていたのだろう?

 今の今まで、一体何をしていた?」


「可愛い部下が事件に巻き込まれてね、クレマリア公。

 ()()()、の隊長としては無視できない。」


 ミストリナの態度は父親へのそれでは無かった。

 あくまで封魔局員と領主という他人行儀の振る舞いだ。


「…………その仮面を外せ。」


「これはマナちゃんからのプレゼント。

 別に、今この場で外す必要など無いと思いますが――」


「――外せ、早く……!」


 父親の威圧にミストリナはたじろぐ。

 命令に従う自分に嫌悪感を抱きながら、

 彼女は顔の左半分を隠す仮面を取り外した。


「……それが噂の火傷か。何故治療を頑なに拒んでいる?」


「…………」


「ふん、私への当て付けか? 傷は戦士の勲章……

 つまり……自分はもう領主の娘では無いと?」


「さてね。ご想像にお任せしますよ。」


 険悪な空気が部屋を覆い尽くす。

 周囲から見守る使用人たちは息を飲んだ。

 そんな彼らをミストリナは申し訳無さそうに見回す。


「そういえば、じぃやは? 姿が見えませんが?」


「……死んだよ。二ヶ月前だ。」


「!?」


 ミストリナの表情から冷静さが消えた。

 相当ショックだったのだろう、呼吸が荒れる。

 そんな彼女に気遣う事も無く父親は畳み掛けた。


「突然病魔に侵されてな。最期まで嘆いていたぞ。

 孫娘のように可愛がっていたお前と、

 あの日で今生(こんじょう)の別れになってしまったことに。」


「……そうか。じぃやに不孝をしてしまったな。」


 俯き、拳を握り感傷に浸る。

 その様子を周囲の使用人たちは心苦しそうに見ていた。

 険悪な空気は最悪の空気へ変わっていった。


「分かるか、ミストリナ? 皆、不安なのだ。

 お前が家出した時も、顔を負傷したと聞いた時もな。」


「…………」


「お前は決して阿呆では無いはずだ。

 そろそろ身を固め、皆を安心させるべきでは無いのか?

 いつまでも――()()()なんぞ追ってはいられない。」


「――ッ! 失礼。どうやら長旅で疲れたようだ。

 しばらく部屋で休ませて貰おう……!」


 そう言うとミストリナは使用人を引き連れ席を立つ。

 そんな彼女の背中を父親は冷めた目で見送った。


「まったく……あの小僧に毒されおって……」



 ――――


 朝霧たちはデイクの元を車で目指す。

 道中車内から見える風景をアリスは写真に収める。


「知ってますか、朝霧さん!

 地下都市ソピアーは貴族文化の強い黄金都市です!

 観光名所は大図書館や博物館など色々ありますが、

 私のオススメはやっぱり――時計塔です!」


 そう言うとアリスは遠くを指差した。

 街の様式に合わせ見事に溶け込む巨大な時計塔。

 曰く、太陽の見えない地下都市において、

 時刻を認識する重要な施設であるとのことだ。


(見た目は……ロンドンのビック・ベンみたい。)


「また、過去には鉱山採掘も盛んだったとか!」


「へぇー……アンブロシウスとは何だか真逆だね。

 あそこが自由の都市ならここはまるで……」


「『厳格の都市』……そう形容する者もいますね。」


 助手席からエヴァンスが会話に加わる。

 厳格の都市。どこか堅苦しさも感じる評価だ。


「行政施設のほとんどはゴエティアにありますが、

 司法施設はソピアーに多いです。そういった点も、

 厳格の都市と呼ばれる由縁かもしれませんね。」


 なるほど、と朝霧は相槌を打つ。

 すると今度はアーサーが口を開いた。


「その厳格な都市にいる厳格な技術者に会いに行く。

 お前らのことはアンブロシウスで認知されているが、

 それでも協力してくれるかは微妙な所だ。」


(デイクさん……たしか空中バイクを直してくれた人。

 あの時はちゃんと話せなかったけど、どんな人だろ?)


「着いたらまずは世間話からだな。

 いきなり装備開発の依頼をするのは避けるとしよう。」


 アーサーの言葉に皆は頷く。

 車は間もなく彼のいる工房に到着する。



 ――魔術工房――


「――断る。帰れ。」


「まだ何も言ってませんが!?」


 デイクはアーサーを見つけるや否やそう呟いた。

 そして身を翻し工房の奥へと逃げようとする。


「ちょ、ちょっとデイクさん! せめて話を……!」


「アーサー、アンタがアポ無しで来た。

 それだけで依頼を押し付けに来たのは明白だ。」


(バレてる……)


 たじろぐアーサーの背中に仲間たちの視線が刺さる。

 それを感じ取った彼は必死に交渉を試みる。


「いやぁ! デイクさんの腕を見込んで!」


「見込んだ上で、この無礼か?」


「アポ無しは申し訳無い! なら今度は正式に……」


「そうか、ではその時は正式に断るとしよう。」


 取り付く島もない。正にそんな様子だった。

 朝霧はエヴァンスに囁くように問いかける。


(なんでデイクさんは武器開発を拒んでいるんです?)


(……彼は元ベーゼの部下です。本性を見せる前のね?

 自分の開発した物で多くの無実の人が亡くなった。)


「――ベーゼ!? あのドクター・ベーゼですか!?」


 思わず声を上げた朝霧をデイクはギロリと睨む。

 しまった、と目線を逸らすが不快にしたようだ。

 チッと聞こえるか聞こえないかの舌打ちが鳴った。


「そうだ、朝霧桃香。俺はベーゼさ……ベーゼの元助手。

 世間じゃ『ベーゼチルドレン』なんて呼ばれている。」


「チルドレン?」


「あの人の技術を引き継いでいるって意味だ。

 街一つを殺してみせた……あの凶気の技術をな。」


 ベーゼの技術。朝霧は身を以て体験した。

 毒の雨、魔導戦車、巨大ロボ、そして流星襲落の弓(サジタリウス)

 あれらの技術の一端でも十分脅威に成り得る。


「ベーゼは当時、各分野の有望株を集めていた。

 薬学に強いおっさんや生物学に長けたガキみたいにな。

 その中で俺は……機械工学の知識を買われていた。」


「機械工学……? それってつまり……!」


「理解が早いな。

 ベーゼの開発した物の多くは機械と呼べる装置。

 つまり俺の知識の多くが……大虐殺に使われた。」


 朝霧たちは彼の苦悩を理解した。

 確かにこれではもう武器など作りたくも無いだろう。

 このまま引き下がろうか、そんな空気が漂う。

 しかしアーサーはまだ食い下がろうとした。


「待ってくれ! 今回は装備を依頼したいだけだ!」


「聞いていなかったか? 俺はもう武器は作らん――」


「――そう、()()! 『武器』じゃなく『装備』だ!

 コイツらが強くなれる専用装備が欲しいだけ!

 それは別に、敵を殺す攻撃手段じゃ無くていい!」


 これならどうだ?と言わんばかりに

 アーサーはデイクに詰め寄った。

 しかしデイクは屁理屈だと吐き捨てる。


「戦闘に使うことは変わらん。殺すための戦闘にな。」


「――それは違いますッ!」


 声を上げたのは朝霧だった。

 真っ直ぐとした目でデイクを見つめていた。


「私たちは秩序のために戦っています……!

 この世界に生きる人々が安心して暮らせるように!」


「……そんな綺麗事を、お前は本気で?」


「本気です。私がこの世界に来て最初に願ったのは、

 この世界から――悲しむ人を無くすことです。」


 その目はどこまでも真っ直ぐだった。

 そんな朝霧の想いにアーサーは便乗する。


「封魔局の戦いは、護る戦いです。

 確かに戦いである以上死者は出てしまいますが、

 少なくとも! 無実の民衆を虐殺したりはしない!」


「しかし、俺の技術など……」


「思い出してください、アンブロシウスを。

 闇社会は強い! 特異点はもっと凶悪だ!

 護るためには強さがいる。虐殺を止めるためには!」


 アーサーの言葉でデイクは目線を落とす。

 確かにアンブロシウスは朝霧たちのお陰で護られた。

 その後の街は以前よりも明るく活気がある。

 メセナを始め、人々の顔には笑顔があった。


「武器では無く装備……それで納得するとしよう。」


「デイクさん!」


「作る必要があるのは若手組だな? 詳細を教えろ。

 専用装備を作ってやる、秩序を護るためのな。」


 そう言うとデイクは工房内に火を灯す。

 朝霧たち三人はその背中を追った、が――


「あぁ、だが朝霧桃香。お前のは作らん。」


「…………え?」


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