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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
序章 ようこそ愛しき共犯者
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第十三話 箱庭姫

 ――都市ミラトス・湾岸倉庫――


 時は少し遡り、今にも降り出しそうな雲の下。

 波の高い濁った海が間近に見える湾岸倉庫に

 ミストリナが率いる精鋭部隊はいた。


 隊長を含め人数は五名。

 倉庫の外から息を殺して中を伺う。

 すると隊員の一人が彼女に報告を入れた。


「隊長、()()()です。中に約十名の集団がいます。」


「十? 思いのほか敵は大所帯だな。」


「隊長、指示を。」


 ――突入の号令は即座に下る。

 直後、扉をこじ開けて先頭の三人が侵入。

 残り二人は外に残り警戒を続けた。


 そして突然の襲撃に慌てて、

 倉庫内にいた男たちは浮き足立った。

 その隙を逃さず、ミストリナが先陣を切る。


「ガキが! しゃしゃり出てんじゃねぇ!!」


「ガキとは心外。私は()()()()()()男は嫌いなんだ。」


「は?」


「淑女の戦闘だ――エレガントに行こう!」


 刹那、ミストリナは次々と男たちに触れる。

 その姿はまるで舞踏会で踊る令嬢のよう。

 打楽器を叩くようにリズムよく接触音を鳴らした。


 やがて彼女は男たちの間を通り抜ける。

 直後、彼女に触れられた全ての者に

 共通の異常事態が発生した。


「な、なんだ!? 体が、()()()()()!」


「あ、あいつの祝福だ。あいつミストリナだ!

 六番隊隊長――≪箱庭姫≫ミストリナだ!」


 ミストリナの祝福は『収縮』。

 触れた物の大きさを最小約三センチまで縮小出来る。

 元の大きさによって縮みきるスピードが変化し、

 解除の際はほぼ一瞬で元の大きさに戻る。


 その驚異的な異能によって、

 小指程度の大きさまで縮んだ男たち。

 彼らを見つけ、残りの仲間に戦慄が走る。


 そして箱庭姫は恐怖する彼らへと

 酷く歪んだ不敵な笑みを見せ付けた。


「分かったかぁー? 君らは触れられたら終わりだ!」


「ひっ……!」


「きゃはは! さぁ逃げないと? 鬼ごっこだぞ!」


 立ち向かう者、逃げ出す者。

 一人残らず触れて、縮ませる。


 ――瞬殺。突入から一分も立たずに敵は制圧された。

 やがてミストリナは慣れた手付きで

 小人と化した男たちを瓶に詰めて確保する。


(さて、ここは終わりかな?)


 ミストリナは呼吸を整え周囲を見回す。

 するとその時、倉庫の奥から一人の男が現れた。

 彼女はすぐさま臨戦態勢を取るが、

 それと同時に異変にも気付き手を止めた。

 男の手の中に幼気な少女が拘束されていたのだ。


「よくもやってくれたなぁ! ミストリナさんよぉ!」


(ちっ、人質か! ……え?)


 刹那、ミストリナは驚愕した。

 男が自分を守る盾であるはずの少女を

 ミストリナの方へと押し倒したのだ。


 彼女はすかさず少女に駆け寄り抱きかかえる。

 少女は拘束で塞がれた口から涎を垂らし、

 何かを激しく訴え続けているようだった。

 ミストリナは急ぎ少女の猿轡(さるぐつわ)を取り除く。


「安心しろ。もう大丈夫だ。」


「ちがっ、逃げて!!」


 悲痛な声で少女が叫んだ。

 それと同時に男も無線に向かって叫ぶ。


「ボガート様、今です!」


「ボガート……まさかっ!?」


 少女の体が発光する。

 ――その直後、激しい爆発音が生誕した。

 やがて倉庫を内側から壊し、魔獣が出現する。



 ――――


 時は流れ、雨降る空の下。

 倉庫の周りは徹底的に崩壊していた。


「っ……ミストリナ隊長!」


 外で待機していた隊員の一人が

 倉庫の中で負傷したミストリナを発見する。

 幸い五体満足だがその意識は朦朧としていた。

 すると彼女は小さく口を動かし始める。


「……状況は?」


「倉庫の中から魔獣が一体。倉庫の外で魔獣が二体。

 計三体が出現! 倉庫にいた隊員は二名とも死亡!

 敵も瓦礫の下敷きにっ、現在ジャックが一人で応戦中!」


「そうか、また死なせてしまったか……うぐっ!」


「隊長! 動かないでください!

 援軍は既に呼んであります。今は治療を!」


 隊員が応急手当を始める。

 その間、ミストリナは壁にもたれ掛かり、

 無線を取り出してハウンドに繋げた。


「こちらミストリナ。聞こえるか?」


『隊長! こちらハウンド。よくご無事で!』


「森泉に伝えろ。第九席ボガートを探し出せ、と。

 奴を捕らえない限り、無尽蔵に魔獣は生み出される。

 そして……六番隊隊長ミストリナの名において、

 ――朝霧の魔力制限解除の権限を与える、と。」


『なっ!? っ……了解!』


「二人とも危ない!!」


 直後、上空から声がした。

 魔獣の一体がミストリナたちに牙を向けたのだ。

 しかしミストリナは動けない。


 やがて雄々しい殺意の衝撃が、

 固いコンクリートの大地を叩き割る。


「ぅぐ……!?」


 ミストリナは何かに突き飛ばされていた。


 魔獣の足下を見ると、

 先ほどまで手当をしていた隊員が

 手だけが見える形で押し潰されていた。

 直後空中から交戦中だった隊員が降りてくる。


「隊長! 無事ですか!」


「……いや、どうやら動くのはムリそうだ。

 ジャック、君だけでも逃げろ。」


「しかし!」


 そうこうしている内に他の魔獣も二人に気づく。

 即座に三体に囲まれ、二対三。

 否、ミストリナは動けないので実質一対三だ。


 そして魔獣の一体が恐れを知らず突進した。

 二人を噛み殺そうとその大口を開きながら。

 咄嗟に隊員はミストリナを庇うように覆い被さる。


(ここまでか……!)


「いつに無く、しおらしいじゃないの?」


 刹那、二人の頭上を炎が空中を横断する。

 周りの景色を染めるほどの火柱が魔獣の体を直撃した。

 やがて燃えた魔獣は海へ落ち、そのまま浮かび上がった。


 驚く隊員が屋根を見上げる。

 雨が降る中、倒壊している倉庫の屋上。

 其処には三番隊隊長のドレイクが立っていた。


「遅いぞドレイク!」


「制圧の早さで勘弁してくれ。

 そっちは終わったか、フィオナ?」


「既に。」


 その声に反応し隊員は残った魔獣へと目を向ける。

 だが二体とも既に首を切断され絶命していた。

 隊員が一人呆気に取られる中、隊長たちは話を続けた。


「魔王軍の配下がいる。

 また魔獣化された人間が出現するかもしれない。」


「また、じゃ無い。既に二ヶ所、計四体魔獣が出た。」


「ッ! 既に森泉にボガートを探させている。

 私は森泉に合流する! ジャックも来い!

 君ら三番隊は魔獣の制圧を行ってくれ。」


 その時ミストリナの無線が鳴った。

 (くだん)の探偵と行動するハウンドからだ。


『こちらハウンド。探偵がボガートを発見した!』


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