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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
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第四話 未完の戦闘術

 ――封魔局本部・屋外訓練場――


 十数分の休憩を挟み、

 朝霧たちの解析結果をエヴァンスは順に解説する。


「まずはアラン。君は少し……()から外れるべきです。」


「型? それはつまり本堂一刀流の型から、ですか?」


「そうです。」


 その応答に朝霧とアリスは冷や汗を掻いた。

 何せそれは彼の『今まで』を否定するのと等しいからだ。

 だがアランは、今回は冷静にその指摘を受け入れる。


「やはり、もう時代遅れでしょうか?」


「違う違う! むしろ逆だろ、エヴァンス?」


「ええ、もちろん。彼の剣術とその型は十分な戦力です。

 地の力、というのであれば三人の中で最も高い。」


 擁護、というよりも純粋な解析結果であった。

 しかしそれはアラン本人を一番驚かせた。


「ですがその『実直さ』が『単調さ』となっています。

 搦め手、騙し討ち、隠し玉。それらが一切無い。

 そう言う()の要素の無い相手は――全く怖くない。」


 アランは思わずハッとした。

 過去栄光を極め、多くの剣士に愛された本堂一刀流。

 それは騎士道にも似た正々堂々さを持っていた。

 しかしそれでは、道場剣術では戦争で命を落とす。


「例えば最初の僕の蹴り。

 あそこで君が鉄器を創造して攻撃を防いでいたら?

 いえ、むしろ刃を生やし、逆に斬りつけていたら?

 全身から刃物を生み出されたら、僕は困ります。」


「搦め手ばかり鍛えても戦場じゃ死ぬだけだが、

 そこに()の要素である地力が加われば恐ろしいだろう。

 良かったな! お前はまだまだ強くなれる!」


 アランの奥底から自信が湧いて出た。

 目指すは搦め手の強化。陰陽のバランスを整えること。

 すると次に、隊長たちの視線はアリスに向けられた。


「次はアリス隊員ですね。

 貴女は何よりも先に攻撃手段の確保です。」


「あー、はい。自覚はあります。」


「そうでしょう。でなければ降参なんてしない。」


 アリスの最大にして唯一と言える火力源は

 身近に集約した厄のカウンター『死を想え(メメント・モリ)』だ。

 しかしそれは自身へ向けられた厄か、

 或いははっきりとした厄溜りにしか発動出来ない。


「ふむ。厄として捉えられる対象範囲は広いですが……

 発動条件が些か、というよりかなり困難ですね。

 毎回死にそうになるまでダメージを受けますか?」


「私はそれでも別に――」


「「ダメでしょ!?」」


 アリスの冗談を同期たちが止めに入る。

 朝霧に至っては割と本気で怒っていた。


「……とにかく、攻撃手段を捻出してください。

 こういう場合は大抵、銃を手に取る局員が多いです。

 無視出来ないカウンター持ちは厄介そのものですから。」


「そんな奴を相手にするなら真っ先に無力化したいが、

 もし重傷だけで終われば、特大カウンターの餌食か。

 良かったな! お前はまだまだ強くなれる!」


 アリスは大きく頷いた。

 目指すは攻撃手段の獲得。能動的な火力の確保だ。

 そして隊長たちの視線は遂に朝霧に向けられた。


「さて、お待たせしました朝霧隊員。」


 ごくり、と朝霧は唾を飲む。

 そんな彼女にサラリとエヴァンスは告げた。


「貴女のことはどうすればいいか知りません。」


「…………ん?」


「申し訳ないですが、僕からは以上です。」


「? ………??」


「お手上げか。エヴァンスで無理なら無理だろう。

 良くなかったな! お前はどうやら強くなれない!」


「はぁぁあああ――――ッ!?」



 ――本部・食堂――


(桃香の声が聞こえたような? むぐ!?)


「お、珍し。フィオナがラーメン食ってむせたぞ。」



 ――仮眠室――


「だぁーうるせぇ。戦士の休息を邪魔するな。」


「見つけました劉雷隊長。貴方のソレはサボりです。」


「レティシア、夜這いなんてイケない子だぜ?」


「死ね。」



 ――局長室――


(……やかましい。)


『そちらから叫び声が聞こえるようだが?』


「いやいや……! あはは、外です、外!」



 ――――


 朝霧の絶叫はかなり遠くまで轟いていた。

 それほどの衝撃が彼女に襲いかかったのだ。

 駆け寄った局員を追い返すとアーサーが話す。


「まぁ待て、強くなれないってのは半分冗談だ。」


「半分!? ここでの半分は致命的では!?」


「ふむ、では順序建てて説明しましょう。」


「……強くなれない理由をですか?」


 朝霧は涙目になりながらエヴァンスを見つめる。

 しかしエヴァンスは少し楽しんでいるのか、

 少々笑みを浮かべながら話を続けた。


「まず貴女の長所はその卓越した身体能力でしょう。

 なんでもあの赫岩の牙を片手で振り回すとか。」


「はい、それが強みです。」


「であればアラン同様、陰陽のバランスを取るべきです。

 しかし朝霧隊員。貴女はどの程度()()()使()()()()()?」


 その質問に朝霧は小突かれたような声を上げる。

 魔法世界に来てから裏で魔術の訓練は行っていた。

 しかし術式や魔法陣の理解が追いつかず、

 戦闘で活用出来るほどの仕上がりとは為らなかった。


「えっと、軽い精神回復魔術(メンタルケア)なら……」


((それ、今こそ使い所なのでは?))


「ふむ、であれば魔術の習得は効率が悪い。

 ならば長所を伸ばすべきなのですが……これが無理だ。」


 またもやキッパリとエヴァンスは切り捨てた。

 そして今度はしっかりとその理由を述べる。


「なぜなら――貴女の身体能力が()()()()からです。

 超重量の大剣を片手で振り回し、跳躍で空に届く。」


「それが……私の長所なのでは?」


「はい。間違いなく活かすべき長所です。

 ですが考えて見てください? 

 その常人離れした肉体用の戦闘術はありますか?」


「それは……無い?」


「えぇ、ありません。そして有り得ません。

 何故なら技術とは――()()()()()()()()()のだから。

 武器術にしろ、格闘術にしろ、暗殺術にしろ、

 たった一人のために技術が生み出される事は無い。」


 その言葉を聞き、朝霧はようやく理解した。

 以前アランが大剣にも型はあると言っていたが、

 それも所詮は両手で振り回すための型である。

 そとそも片手で扱える朝霧には些か不足だ。


 そしてそれは格闘術にしても同じ。

 世間一般の身体能力を元に構成された技術の型では

 超人とも言える朝霧を逆に制限してしまう。

 長所を伸ばすどころか、長所を潰してしまうのだ。


「じゃあ……私には格闘訓練なんかは無意味?」


「無意味では無い。安定した強さは手に入るさ。

 だが最大限を活かせないのもまた事実だ。

 想定されている枠組みがそもそも違うからな。」


「けど……! 私だって強くなりたいです……!」


 朝霧は切実にアーサーらを見つめた。

 すると待ってましたと言わんばかりに

 エヴァンスは伊達眼鏡をクイッと上げる。


「僕は先程どうすればいいか『知らない』と言いました。

 ですが具体案を知らないだけで、分かってはいます。」


「!? じゃあ私は何をすれば……!?」


「単純です。貴女自身で――作ってしまえばいい。」


「…………え。それってまさか……?」


 不安そうな声を出す朝霧に、

 エヴァンスはニコリと営業スマイルで答えた。


「はい。貴女の貴女による貴女のための戦闘スタイル。

 後世には語り継げない、朝霧桃香のためだけの技術。

 言うなればそう――()()()()()!」


(!? 固有……戦闘術!!)


「オリジナルの格闘技なら、誰もが初見になる。

 独自の動きで大剣を振り回してくる戦士か、怖いな。

 良かったな! お前はまだまだ強くなれる!」


 脳死したようなコメントをアーサーは添えた。

 目指すは自身の身体能力に見合った戦闘術の確立。

 朝霧の心には計り知れない不安もあった、が――


(私の全力を引き出す固有戦闘術……!)


 ――それよりも多くの期待に似た興奮があった。

 思わず強く握った拳からその決意が感じ取れる。


「やる気は充分ですね。では早速始めましょうか。

 三人とも、ここから先は掛けた時間が物を言います。

 ミストリナの期待に答えられる宝石となるにはね?」


 身を翻し訓練設備にエヴァンスは向かった。

 その背中に引っ張られるように三人は踏み出した。



 ――食堂――


「おい、それより聞いたかよ? ミストリナさんの話?」


「ん? 何の話だ?」



 ――仮眠室――


「さっきミストリナさんがお出掛けされていました。

 隊長もあのくらいフットワーク軽くなってください。」


「……あいつと局長との会話を聞いたんだが、

 あれは何だか面倒な事に巻き込まれているようだぜ?」


「? 面倒とは?」



 ――局長室――


「しかし……事実なのですか? クレマリア公?」


『事実だ。我が娘ミストリナの――()()が決定した。』


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