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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第三章 藍の鳥は届かない
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第二話 原石たち

 ――封魔局本部・屋外訓練場――


「いっくよー、アラン!」


「待て、待て、待て! まだミット構えて無――」


 爆音と共にボールがアランに向けられ放たれた。

 朝霧の強肩による弾丸のような投球。

 アランはギリギリのところで回避に成功する。


「殺す気か!?」


「ちゃんとセーブしてるって!」


「そうですよー、アラン君。ちゃんと取ってください。」


 椅子の上で足を揺らしながらアリスは朝霧を支持した。

 味方が居ないと悟ったアランはブツブツと球を拾う。


「ったく、そもそも何でキャッチボールなんか……」


「ウォーミングアップだよ、ウォーミングアップ!

 訓練前にしっかり身体を温めておかなきゃ!」


「張り切ってるな、朝霧……」


「当然ですよ、アラン君!

 何せ今日はミストリナ隊長が直々に

 私たち三人を指導してくださるんですから!」


 まぁそうか、と納得しながら

 アランはボールを投げキャッチボールを再開する。

 封魔局に入って一番と言えるくらいの平和な時間に

 朝霧の顔には自然と笑みが浮かび上がっていた。


「……にしても遅いな。ミストリナ隊長。」


「直前まで会議があるって言ってましたし、

 それが長引いてるとか? まぁそのうち――」


「――来ないよ、彼女は。」


 会話に聞き馴染みの無い声が混ざる。

 聞き馴染みは無いが、無いのだが……


「来ないってよ?」


「えー、何でですか?」


「何らかの急用が入ったようだったな。」


「急用かー……なら仕方無いか……」


 その声は会話の中に馴染んでいた。

 当人たちの意識に、違和感無く侵入する。


「わざわざ教えてくれてありが…………と? え?」


「いえいえ、どういたしまして。」


 三人はハッと我に帰った。目の前には見知らぬ男。

 白髪に黒縁眼鏡。歪みが無いので恐らく伊達だろう。

 その奥の瞳が、見透かすように三人を見つめている。


(全く気配がしなかった……!)


(服装からして……局員、だよな?)


 三人は反射的に距離を取る。

 ここは封魔局本部。敵が侵入している可能性は低いが、

 それでも彼女らの本能が「身を守れ」と警報を鳴らす。


「ふむ、僕に気付くまでの数秒は無様の一言だったが、

 一度警戒してしまえばしっかり隙が無い、か。」


「あなたは……一体!?」


「――そいつの名はエヴァンス・プレスティア。

 俺やミストリナと同じ、魔導戦闘部隊の隊長だ。」


 朝霧たちの元に今度は見知った男が現れる。

 スチームパンク風の服装に身を包んだ男。


「アーサー隊長!? どうしてここに?」


「ミストリナに頼まれた。――お前らを()()()ってな。」



 ――封魔局本部・駐車場――


 白亜の壁が反り立つ世界守護の要、封魔局本部。

 局員用の専用車両が並ぶ一角に彼女はいた。


「では、ハウンド。後のことは頼んだぞ。」


 やや焦った様子で彼女、ミストリナは車に乗り込む。

 それをハウンドは少し心配そうに見つめていた。


「任されるのは大丈夫ですが……

 ミストリナ隊長の方こそ気を付けてくださいよ?」


「危なっかしく見えたかな? なに、心配無いさ。

 少し面倒なことになってはいるが、すぐ片付ける。」


 八重歯を見せるようにニカッと笑う。

 しかしその笑顔が普段よりも固いことを知覚した。


「…………ジャックも連れて行っては?」


「余計拗れるだけさ。さて、私はもう行くとしよう。」


 話を切り上げるようにそそくさと車に乗り込む。

 窓を開けることも無く、さっさと発進させてしまった。


「滅多に無い()()だってのに……なんでかなぁ。」


 車を見送り本部に戻ろうとすると、

 数人の封魔局員の視線にハウンドは気付く。


 どうやら先方も気付いたようだ。

 バツの割るそうにさっさとこの場を立ち去った。

 ポツンと残ったハウンドは溜め息を漏らす。


「……ったく、面倒な事にならんといいが。」



 ――――


「つまり……アーサー隊長とそちらのエヴァンス隊長。

 お二人が俺たちに稽古をつけてくださるんですか?」


 アランの問いにアーサーはそうだ、と相づちをうつ。

 そして星剣(エクスカリバー)である杖をブンブンと振り回しながら

 三人の身のこなしを観察するように眺めて周る。


「どう見る、エヴァンス?」


「悪く無い、ですが良くも無い。正に『原石』ですね。」


 彼の評価にアーサーは同感だと頷いた。

 対して当人の一人であるアランはムッとする。


「俺たちそんなに弱く見えますか?

 既にガイエスを始め闇社会との実戦経験は豊富です。」


「ちょ! アラン君!?」


 アランの目には不快感に似た苛立ちが見える。

 朝霧らの制止も聞かず隊長らに異議申し立てた。


「おいおい待て……俺たちは別に――」


「――待ってください、アーサー。

 彼が本堂道場出身の本堂アランですよね。」


 そんなアランの苛立ちを面白がるように

 エヴァンスは間に入り伊達眼鏡を外した。

 不敵な笑みを浮かべアランを見据える彼の瞳には

 黒目に当たる位置で回転する幾何学模様が浮かんでいた。


(!? この人の祝福か!?)


「本堂一刀流。一度その剣術を修めた君としては

 今の評価は確かに不服でしょうね。それなら――」


 続いてエヴァンスは朝霧、アリスの順に瞳を向けた。

 それぞれを視た時間はほんの数秒。

 何かを確信したかのように男は口角をつり上げた。


「――手合わせ、してみましょうか、()()()()()。」


「ッ!? いくら何でも舐めすぎじゃあ……」


「問題無いですね。むしろハンデが足りませんね。

 僕は専用武器も使いませんので皆さんは全力でどうぞ。

 その方が……自分たちの『弱さ』に気付けますよ。」


 アランはギリッと歯ぎしりをした。

 するとその背後から朝霧が肩を叩く。


「朝霧……!」


「私も舐められっぱなしは不服。

 六番隊は凄いんだぞってとこ見せてやろ?」


「あぁ……! あぁそうだな!」


 三人のやる気に満ちた表情を見て

 アーサーはヤレヤレとぼやくと頭を掻く。

 そんな彼にエヴァンスは立会人を要求した。


「よろしく、アーサー。」


「はぁ、要は審判だな? わかったよ。」


 そう言うと大きな結晶の柱を生み出した。


「これが割れたら開始だ。」


「了解です。それじゃあエヴァンスさん……

 ご指導のほど――よろしくお願いします!!」


 結晶瓦解。三人は一斉に白髪の男に飛び掛かる。

 しかしエヴァンスは僅かな動きで攻撃を避けきる。

 そしてポケットに手を入れたまま距離を取った。


(相手は隊長。この程度は予想内。

 祝福はあの()だな。あれは一体何を視ている?)


 魔法使いの戦闘において最も警戒すべき要素、祝福。

 例え肉体が貧弱であろうと強力な魔法で戦況は覆る。


「アリス! エヴァンスさんを視ろ!

 アクションを起こす一瞬、厄が濃くなるはずだ!」


「分かってます! 今のところ、厄は一度も視えません!」


 アリスの眼はあらゆる負の要因を靄として映す。

 訓練とはいえ、臨戦態勢であれば厄が視えるはずだ。


(視えないのなら今は「待ち」の状態。

 恐らくカウンター狙いか? けどさっきは来なかった。)


(三人同時なら流石に隙が無かった?

 いや多分……観察してた! 私たち三人のクセを!)


(どうあれ、動く瞬間は私の眼が逃しません!

 下手に向かってくればコッチから反撃を――)


「――はい、隙あり。」


 一瞬。それは意識と意識の合間の刹那。

 三人の瞬きが丁度同時に重なった一秒で、

 さながら命のみを刈り取る死神の鎌のように

 アランの頭部を目がけた回し蹴りが炸裂する。


(≪自壊欲(アポトーシス)≫エヴァンス・プレスティア。

 奴の祝福はどちらかと言えばサポート寄りだが、

 こと格闘術においては俺や劉よりも何枚も上手。

 それこそ、その()()()()()()()()()()()()()ほどに。)


 意識を刈り取られたアランは膝を突き倒れる。

 そして幾何学模様の瞳が朝霧たちを見透した。


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