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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第四十九話 敗戦

 ――戦艦内部――


 朝霧たちに先行して戦艦内に突入した二番隊員たちは

 瞬く間にその戦線を押し上げていった。

 特に最前線で活躍していたのはケイルだった。


「――我が魂より祈り給う。天と大地のロア。

 悠久と久遠を越えしラダの霊! 出でよ『アザカ』!」


 詠唱と共に煙草を吹かす。

 異常な量の煙が周囲に広がり緑に染まった。

 直後、煙は巨大なヨコーテの姿を模した。


「精霊!? コイツ祈祷師(シャーマン)か! ぐわぁあ!!」


 獣が魔王軍兵士たちを吹き飛ばす。

 戦艦の内部を駆けずり回り敵戦力を減らす。


「おのれ……! 五雷官や人工怪異(スケアクロウ)だけが

 こちらの戦力だと思うなよ!!」


 敵三人が隙を突いてケイルに襲いかかった。

 召喚士というのは魔力の大半を使い魔に消費する。

 そのため接近戦が得意な召喚士は稀なのだ。

 ケイルもその例に漏れず接近戦は不得手である。


「だが何も俺は一人じゃない。」


 迫りくる敵三名。薙刀を携えた女性が振り払った。

 二番隊員メアリー。三対一だが圧倒した。


「封魔局だって隊長だけが戦力じゃないわよ。

 魔導戦闘部隊二番隊……その時点で全員精鋭よ。」


「ッ! 接近戦はダメだ、一旦距離を……!」


「取ったら俺の精霊が喰っちまうぜ?」


 近付こうとする者たちを薙刀で振り払い、

 遠退いた者たちを精霊が蹂躙した。


 戦艦内部の戦況は大方既に決していた。

 突入部隊のみでも十分制圧可能であった。


「よし、このまま艦橋を制圧しに行くぞ。」


「了解。この調子なら楽勝ね。」


 突入部隊は先へ先へと進んで行った。

 このまま行けば問題なく魔王軍を倒せる。

 彼女さえいなければ、であるが。


「――ッ!? 伏せろぉおおおッッ!!」


 青黒い魔力の塊が戦艦内を駆け巡った。



 ――市街地――


 戦場に海が生まれる。

 一部倒壊した市街地が水に呑まれる。

 そのあり得ない水域の中心には二つの泡。

 シャボン玉のように浮かび、中に人を閉じ込めている。


(……! この中も呼吸が……!)


 泡の中でアランは苦しむ。つい先程まで天狗と殺し合い、

 直後激流に呑まれた彼らは体力を激しく消耗していた。


(ッ!? マズイ、アリスの意識がもう……!)


 もう一方の泡の中でアリスが朦朧としていた。

 カウンターを撃つ判断能力はもう無いのだろう。

 虚ろな目で一点を見つめていた。


 また、アランの方も動きが鈍る。

 負傷した体。魔力も既に底を付いていた。

 次第に藻掻き苦しみ出した。


「キャハハハ! イイ! 凄くイイ!

 お前らが死ぬ瞬間をもっと見せテ!」


 その光景を水面からクウォンダが観賞していた。

 三叉の槍を回しながら悪趣味な悦に浸っている。


(クソ……! 逆転は……無理……だ……)



 ――――


 数分後、戦艦内部。朝霧たちが追い付く。

 バチバチと配線を剥き出しにした艦内。

 その途中で倒れているケイルたちを発見した。


「ケイルさん! メアリーさん!」


「うっ……朝霧隊員か。悪い、ヘマしちまった。」


「一体何が!? 誰にやられたんですか!?」


「……アンブロシウスの守護者だ。」


 その言葉に朝霧と硝成は目を見張る。

 朝霧たちとしてはメセナとの戦闘は避けたい。

 しかし、やはり今の彼女は敵対している。


「メセナさんは今何処に?」


「上だ……苦しそうに、外を目指していた。」


 朝霧と硝成は頷く。

 ケイルたちを他の局員に任せ先を急いだ。

 目指すは甲板。魔王軍に操られたメセナの奪還だ。


「敵襲! 封魔局員がここまで来たぞ!」


「――邪魔だ。『村雲』!!」


 迫りくる敵兵たちを薙ぎ払う。

 艦内に朝霧を止められるほどの戦力はいない。

 ほとんど素通りで甲板まで辿り着けた。



 ――空中戦艦・甲板――


 そこはもはや雲より高い。

 空が、太陽が、何より宇宙がかなり近い。

 場所で言えば対流圏。成層圏の一つ下。

 そんな雄大な景色に真っ黒な戦艦が停泊している。


 戦艦の甲板には主砲のような装備は無かった。

 空中戦を想定していないのだろう。

 主要な砲塔は全て地上に向いている。


「硝成さん! 気を付けてください!」


 甲板の足場は非常に悪く、

 気を抜けば足を滑らせてしまいそうなほどだ。

 朝霧は大剣を杖にしながら安定する場所まで向かう。


「ッ……。メセナさんは見えますか?」


「見えはしないけど……奥の方から気配はするね。」


 この場所では街の気圧制御装置の効果が薄い。

 今の装備で長時間いるのは危険であり、

 まして戦闘を行うのはかなり厳しいだろう。

 朝霧は硝成の交渉術に賭けたかった。


「メセナさんの説得……行けそうですか?」


「何を今更。もちろん全力は尽くすよ。ただ……」


「ただ?」


「自信は無いね。今のメセナは魔王軍の術中にある。

 それに今日は協力者として顔合わせが出来ていない。

 最後に味方と認識されてから()()()()()だろうね。」


 メセナは寝れば記憶を失う。

 どれほどその一日で絆を育もうとも、

 寝てしまえばその思い出は全て消え去るのだ。


「……悲しい呪いですね。」


「だからこそ僕は怠惰のサギトを許せない。

 メセナの心を(もてあそ)び、暴食の魔王の駒にした事を。

 俺は、彼女を何としても救いたい……!」


 憎悪に満ちた硝成とは裏腹に

 朝霧は腑に落ちない表情を浮かべていた。


「………うーん?」


「どうしたの、朝霧さん?」


「……怠惰のサギトを憎んでいるみたいですけど、

 硝成さんが彼の言ってた()()()()じゃないんですか?」


「? ん、ん? 何の話?」


 朝霧はオーナーから聞いた過去を話す。

 怠惰のサギトの(あま)澪標(みおつくし)での発言。

 サギトが空中都市からの退去を決めた際の言葉。


 ――いずれ俺の……「知り合い」が君を尋ねる。

 その時はソイツの手を思う存分借りてくれ。


「怠惰が……そんなことを?」


「はい。オーナーは土地の記憶?からそう読み取ったと。

 だからてっきり硝成さんがその知り合いだとばかり。

 あれ? というか、この話知りませんでした?」


 硝成は少しの間沈黙した。

 しばらく何かを考え込むといつもの調子で口を開く。


「ふむ。僕が情報を仕入れたのは森泉さんからだから、

 恐らく彼のリサーチ不足でしょうね。」


「なるほど? 森泉さんらしく無いですね。」


 違和感を覚えながらも朝霧は納得した。

 逆に硝成は雇った探偵に対して疑念を抱く。


(情報の取捨選択、何かを隠している……?

 やっぱりあの探偵さんは真っ黒だな。ここは――)


「――伏せてッ!」


 突如、朝霧は叫んだ。

 前方より飛翔する青黒い閃光。

 もはや光弾というより光線と呼ぶべき殺意が迫る。


「来たか、メセナ!」


「……敵性個体補足。排除する。排除する。」


 より機械的な言動と共にメセナが迫る。

 憎悪をエネルギー源とした魔力は重く冷たい。

 不安定な甲板の上で朝霧たちは身を護る。

 やはり戦闘では勝機は薄そうだ。


「硝成さん! 説得を!」


「分かった。メセナ、俺の話を聞いてくれ!」


 硝成が前に出る。決死の交渉。

 アンブロシウスの守護者と言う巨大な戦力。

 その旗色によってこの戦いの雌雄は決する。


「聞いてくれ! 俺はお前の味方――」


 ――スパァン!


 極太の光線が硝成の上半身を吹き飛ばした。

 血と肉がグチャグチャに崩れその場に倒れ込む。


「え? 硝成……さん?」


 朝霧は眼前で起きた出来事に理解が追いつかなかった。

 硝成だったモノから発せられる死の異臭。

 警察官時代に何度も嗅いだ匂いを感じても

 未だに信じられずに膝を崩していた。


 ――俺は、彼女を何としても救いたい……!


「敵性、排除。」


「ア、ア、アアァァァァア――――ッッ!!!!」


 大剣を握りしめる。絶叫と共に()に迫る。

 殺す。アンブロシウスの守護者は敵だ。

 殺す。魔王軍に降った排除すべき悪だ。

 大剣をメセナの脳天に向け振りかざす。



 ――――


 アンブロシウスの中央通り。

 そこに繫がる路地裏を五雷官ハカシは進んでいた。


「ハァハァ……! 正直、かなりヤバかった……!」


 アーサーとの戦闘で片腕を失った彼は

 滝のような汗と死にそうなほどの激痛に苦しむ。

 度々喉を鳴らしては呼吸を整えた。


「他の五雷官からの連絡も無い……!

 自由行動をさせている半魚人(クウォンダ)を呼ぶか?」


 無線を片手に熟考した。

 既にクウォンダ以外の五雷官は敗北している。

 本来なら作戦の中止ないしは修正が必要だが……


「いや、必要無いな。何せ我々には守護者がいる……!」


 圧倒的な戦力とは時に戦略を無に帰する。

 民衆からの憎悪を受けたメセナはそれに値する。

 たった一人で戦況を覆す化け物。

 メセナがいれば五雷官など前座に過ぎない。


「もうじき作戦も第三段階へ移行する。

 第四席と私しか知らない本来の作戦に……!」


 ハカシはマンホールから地下へと降りる。

 そこは下水道では無く、この街の制御機構。

 四方の補助機構とは規模の違うメイン浮遊機構だ。


 その中には数人の魔王軍兵士と、

 ぐったりと倒れた少数の封魔局員。

 そして……フィオナの前で誘拐されたデイクだ。


「さぁ、貴方にも働いて貰いましょう。発明家殿。」


「……ッ! クソったれ。」


(順調とは言えないが、我々の作戦に狂いは無い……!)


 ハカシは天井を見上げ確信した。


(何人たりとも、今のメセナには勝てないのだ!)



 ――――


「ぐっ……ゴボッ……」


 甲板には血が塊となって零れ落ちる。

 貫かれた胸元と口からドバドバと吐き出した。

 既に致死量の血が流れていた。


「確認、致命傷。貴女の負けです。」


 血を流していたのは朝霧であった。

 大剣を握る力は既に無く、手から崩れ落ちる。

 足の力ももうすぐ抜ける。目は既に霞んでいた。


(しまった……恨んじゃ……ダメなんだった……)


「敵性個体、想定以上の生存を確認。

 不慮の事態に備え対象の殺害を実行。」


(ごめん、みんな……私、負けちゃった……)


 閃光、貫通。吹き出す血潮。

 ――狂いなく朝霧の脳天を撃ち抜いた。


「敵性個体、死亡を確認。」


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