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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者
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第四十三話 乱麻

 封魔局が有する最高戦力『魔導戦闘部隊』。

 その入隊方法は大きく分けて二種類ある。

 支部での功績が認められて昇格する『内部入隊』。

 そして、封魔局員以外から徴兵する『外部入隊』だ。


 その外部入隊には更に二種類のルートがある。

 相応の実績を隊長格に認められて与えられる推薦枠。

 朝霧の入隊方法はこちらだ。


 もう一方は年に二回、春期と秋期に行われる

 入隊試験に合格するというルートだ。

 アランやアリスはこちらでの入隊となる。


 この試験に参加する者たちのほとんどは、

 魔法守護大学と呼ばれる学舎で育った者たちだった。

 未来ある若者たちが、魔法世界を守るために志願する。

 ……五年前までは。


 戦争終結。

 天帝は消失し残党たちは魔王軍となった。

 或いは、各々で組織を作り闇社会を形成した。


 時代が大きく変動する最中、

 封魔局という組織が持つ『人気』も変化していた。

 数少ない自由な魔法行使が可能な政府組織から、

 隊長と呼ばれる実力者でも死ぬ、自殺集団と見られた。


「封魔局? やめとけ! 死ぬぞ?」


「実力者が何人も死んでいる。俺たちじゃ無理だ。」


「バカだよ! 今から封魔局に入る奴はな!」


 戦争直後の混乱期。

 弱った魔法連合に勝てるかもと錯覚した愚者は暴れる。

 愚者が一人なら残存戦力でも何とかなるが、

 愚者とは得てして数が多いものだ。


 人手が足りない。圧倒的に、絶望的に。

 外部からも内部からも新規入隊者が減った。

 そもそも魔法守護大学がどこも入学者不足。

 卒業生すら封魔局には入ろうとしない始末だ。


(だからこそ、私の入隊は簡単だった。)


 試験を受ければほとんど誰でも入れるような状況。

 それは『ただ糸を生み出し操るだけの祝福』である

 フィオナにとっては幸運なことだった。


 祝福とは天恵。後から変えられる物では無い。

 もし弱い祝福を持って生まれたのなら、

 戦闘職として活躍するのに不利が働く。


 魔術方面を極めるという手もあるが、

 簡単な魔術なら誰でも扱えてしまい価値が無い。

 複雑な魔術なら結局修得するための才能がいる。


「封魔局? うーん……卒業後の進路は幾らでもあるぞ!」


「試験を始めます。まずは祝福を見せてください。

 おー…………あー…………はい、では次の受験者。」


「入隊おめでとう。しっかし糸使いねぇ……いや何でも。」


 それはもう聞いた。何度も何度も聞いた。

 糸なんて弱い能力では苦労するぞ、と。

 何人もの人間がそう言うのだ。事実ではあるのだろう。


(苦労する、か……安いデメリットだ。)


 フィオナは鍛えた。自棄にならず、冷静に。

 フィオナは極めた。自尊心に拘らず、謙虚に。

 向上心を持ち、それでいて高望みはしない。

 高望みはしないが、限界までは諦めない。


 真正面から己と向き合い取捨選択を繰り返した。

 伸ばせる才能を見極め、最大限に利活用した。

 いつしか封魔局のエースと呼ばれるまでになった。

 その報酬として――『ソレ』は与えられた。


「何ダ? 黒イ……筒?」


 五本の筒が宙を舞う。直径は約二十五センチ。

 大きめのテレビリモコンのようなそれらには、

 側面に空いている謎の穴とニ、三ヶ所の返しがあった。

 フィオナはその穴や返しに糸を引っ掛ける。


「――全隊整列。」


 それまでバラバラに舞っていた筒が、

 フィオナから生み出された糸で繋がった。


 ――瞬間、意思を持つように舞い光弾を放つ。


「ヅッ!? 銃カ、ソレ!?」


 フィオナはソレらを糸で巧みに操る。

 頭上から側面から背後から、五丁の拳銃が閃光を放つ。

 それは正に縦横無尽。輝く弾丸の乱反射。

 鞭のように糸を振り、無数の光弾が敵を貫く。


 黒い砲身が列を成す光景はまるでペンギンの(むれ)

 先頭に続き後続たちが連撃を浴びさせる。

 故に――


「連結式群体バレル『フロック・オブ・ペンギンズ』。」


 攻撃は確実にトロールたちの体を貫いた。

 無数の糸の上を滑走する拳銃の挙動は予測不能。


「グ! 動キガ……読メナイ……!」


 一体。また一体とトロールは撃破されていく。

 残るトロールは早くも三体だけとなっていた。


「全滅……ハ! サセナイ!」


 トロールの一体が文字通り腕を伸ばした。

 人体の動きを大きく逸脱し拳銃の一本を掴み取る。


(! 桃香が言っていた腕の伸縮か!)


「取ッタ! 拳銃! ……ア? 何ダコレ?」


 トロールは筒を観察する。

 せっかく奪ったのだ。使いたいのだろう。

 しかしその拳銃は砲身のみで()()()()()()()()


「ドウ、撃ツンダ? 撃テ、ナイ!?」


「それは……こうだ。」


 フィオナが奪われた拳銃に糸を伸ばす。

 謎の穴の中にスルリと通すと、魔力を流した。

 その時――


 ドォン!!


 ――重たい銃声。トロールの顔面が吹き飛んだ。


「この拳銃は使用者の魔力を弾丸に変え射出する。

 そしてその魔力は……この小さな穴からしか流せない。」


 弾丸はフィオナ自身の魔力。

 即ち彼女の魔力が尽きるまで残弾は無限。

 加えて、引き金を引けるのは糸使い(フィオナ)のみだ。

 ――正にフィオナの、フィオナのための専用武器。


「コノ!」


 トロールの一体が急接近した。

 糸と銃。接近すれば応戦は困難と思ったのだろう。

 両手から刃を生やし斬り掛かった。


「モウ、銃ノ間合イ……ジャ無イ!」


「銃ではないさ。()()()群体バレルだ。」


 フィオナは糸を引き絞る。

 先頭に続き動くペンギンの群のように、

 黒い砲身たちは一列に彼女の手元に連なった。


「連結一式――刺突剣(レイピア)。」


 五本の砲身が変形する。

 糸に導かれ接合し護拳付きの握り部分を形成。

 さらに魔力で形作られた光り輝く刀身が生み出された。


「銃ガ……剣ニ、ナッタ!?」


 トロールの剣撃をフィオナは捌く。

 さらに返す手で目、首、眉間を連続で貫いた。

 やがて怪異は血を吹き出しながら沈黙する。

 それを見た残る一体は背を向けた。


「マズイ! マズイ! 退避!」


「ッ! 飛行能力か!」


「銃ノ威力、脅威! ダケド射程、長クナイ!」


 背中から翼を広げ加速する。

 周囲のガラスを割るほどの速度で逃げに徹した。

 だがそれすらも、フィオナは対処する。


「連結ニ式――狙撃銃(スナイパーライフル)。」


「ナッ!?」


 脳天を一撃。トロールは脱力し墜落する。

 トロール七体、制圧完了。

 ライフルを担ぎながらフィオナはクールに呟いた。



 ――――


「ふー……やはりピーキーな武器だ。

 慣らしをして良かったですよ、デイクさん。」


 工房に向かいフィオナは声をかけた。

 この超兵器を作った男に感想を述べようとした。

 しかし――


「? デイクさん?」


 返事が帰ってこない。声が聞こえない。

 背中に悪寒を感じフィオナは工房内に駆け込んだ。

 そこには、今正に()の中へと

 引きずり込まれているデイクの姿があった。


「!? 影の中か!」


 淀む影に向け銃を放つ。

 だが一切の手応えは無かった。

 やがてデイクの体はすっぽり消えてしまう。


「――ッ! 間に合わなかった……ッ!

 デイクさん! 何処だ……何処に行った!?」


 返事など無い。追跡の手掛かりなど無い。

 多くの兵器を生み出す開発者が攫われた。


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