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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第三十一話 レッドヘリング

 ―参加者――――――所持コイン――――――――

 硝成        189(+101)

 デント       114(+50)

 朝霧        51(−50)

 ラニサ       26

 ―――――――――――――――――――――――


 モニターにコインの推移が表示される。

 朝霧の不正、フィオナとの糸電話が看破された。

 二人目の犠牲者が出たことで動揺していた朝霧は

 不正発覚の展開にすっかり放心してしまっていた。


「おや、朝霧様? 糸は外さないのですかな?

 別に付けてても構いませんが、万が一!

 もう一度指摘されればそれもカウントされますぞ?」


「――っ!」


『外すんだ……桃香。』


 朝霧はゆっくりと耳から糸を離した。

 その光景をフィオナたちは悔しそうに眺めていた。


「フィオナさん……! このままじゃ朝霧さんが!」


「もし脱落することになれば私が何とかする……

 それに……私の考えの一部は桃香にも伝えられた。

 まずは、彼女が勝利することを信じよう……!」


 その言葉を聞いてもなお、

 アリスたちは不安の表情が隠せなかった。


(頑張ってください……! 朝霧さん……!)


 そんな想いを一身に受け、

 朝霧は――


(むぅ――――りぃ――――っ!!!!)


 ――内心で発狂していた。

 コイン百枚獲得はもちろんのこと、

 この状況から二位以内に入ることも難しい。

 だが無情にも五ターン目が開始された。


(落ち着け、私! 私、落ち着け!

 とにかく今は……ゲームに集中しなきゃ……!)


 朝霧はフィオナが最後に伝えた内容を思い出す。

 内容はこのゲーム、主にイカサマの傾向だった。

 朝霧は舞い降りるカードたちに目を向ける。


(アリスの眼は空中のカードたちに靄を視たみたい……

 つまり……イカサマは既に始まっている。)


 朝霧の手元に来たカードはまたまたパッとしない。

 スペードの四、ハートの七、クローバーのニだ。

 これではイカサマを使う相手に勝てはしない。


(まずは『空中のカードを操作するイカサマ』!

 そして……配られた後にも不正は行われる……!)


 朝霧は手元のカードを見つめながら思考を巡られた。

 フィオナ曰くカード配布後に行われるイカサマは一つ。

 自らの手札を何らかの方法で強化するというものだ。


(つまり対戦相手の手札はイカサマ対象外。

 あるのは『強い手札を手に入れるイカサマ』。

 カードを決めるこの時間に行われているのはそれだ!)


 朝霧は手札で一番強いハートの七を出す。

 裏側にして前へと突き出し、残りを捨て札とする。


(アリスの眼はこの捨て札に一番靄を視た……らしい。

 ここで行われるのは『捨て札を隠し持つイカサマ』?)


 朝霧はイカサマの候補を整理する。

 空中操作、手札強化、捨て札隠匿の三つ。

 無論それ以外の不正が行われている可能性もあるが、

 これらの不正が確定しているのもまた事実だ。

 オーナーの掛け声で開示が行われコインが移動する。


(まぁ肝心の『誰が?』が分かんないんだけどね!!)


「おーとデント様ここでジョーカーです!

 そして最下位は――朝霧様!」


 ―参加者――――――所持コイン――――――――

 硝成        139(−50)

 デント       158(+44)

 朝霧        49(−2)

 ラニサ       34(+8)

 ―――――――――――――――――――――――


「うひゃー! ここでジョーカー持ってくるかぁー!

 おっさん実力隠してたでしょ?」


「……ふん。」


 上位陣二人は余裕そうに会話をしていた。

 対して、そんな気持ちの余裕など全く無い朝霧に

 突如オーナーが語りかけた。


「ふーむ? 朝霧様。またも賭け金は一枚ですか?」


「……それが、何か?」


「いえね。ルール上問題は無いのですが……

 せめて所持金のある間は一枚賭けは……ちょっとね?

 遅延行為ですし、何より観客が見ていてつまらない。」


 そんな事は朝霧の知った事では無い。

 だが朝霧はオーナーのこれまでの奔放な行動を鑑みる。

 突如として課せられたコイン百枚ルール。

 あんなのはオーナーの気分でしかない。


(ここで従わなかったらまた面会を断られるかも……)


 朝霧はそんな思いから提案を飲む事にした。

 その時――


「おい、不正の指摘だ。

 俺一人で二つ連続で追求しても構わないのか?」


「それはお控えください、デント様!

 お一人様、(イチ)成功までとさせていただきます。」


「チッ、まぁ他の奴も気づいているか。」


 デントはニヤリと笑う。

 彼がその指を向けたのは……なんと朝霧だった。


(え……? 私?)


「朝霧。貴様、連れにカードを覗かせているだろ?」


 朝霧を再度光が包み込んだ。

 だが、朝霧はデントの顔を眺めてキョトンとしていた。


「いや……してないけど?」


「…………」


「『敬虔なり(イノセント)』! 追求失敗でございます!」


 光は朝霧の潔白を証明するように青白く輝いていた。

 観客たちからは彼を嘲笑する声が聞こえる。

 対するデントはまだ、動揺は表に出さずにいた。


「…………じゃあアレか。

 音の暗号で外部と連絡しているな??」


「『敬虔なり(イノセント)』。違うようですな。」


「おい、じゃあ何してんだ? あの()使()()たちは!」


 デントはステージの外の二箇所を指さした。


 釣られて朝霧も片方に目をやるとそこには、

 両手から見えるか見えないかギリギリの細さの糸を

 大量に腕から天井に放っているフィオナがいた。


 そして、少し離れたもう一箇所には

 指の間に鉄器を生み出しカンカンと意味ありげに

 音を奏でるアランの姿があった。


(あれは……何を?)


「……は! 分かったぞ!

 糸で捨て札のカードを釣って隠しているのだろ!?」


「『敬虔なり(イノセント)』。」


「――!? なら……

 何処かから強いカードを引っ張っているのか!?」


「うーん……もう少し具体的にお願いしたい。」


 すっかりと動揺してしまったデントを

 フィオナはしたり顔で見つめる。


(我々の動作は……単なる目眩まし(ミスリード)だ。

 やはり強敵の減ったタイミングで仕掛けて来たな。)


 彼女はデントが仕掛けてくる事を読んでいたのだ。

 百枚を超えたデントは直ぐにゲームを終わらせたい。

 そのためイカサマのような動きに食い付いたのだ。


(そして指摘側にペナルティの無いルール。

 これによりデントは()()()()()()事が出来てしまう!)


 目の前で行われているイカサマのような『何か』。

 勝ちを急いだ男はその偽りの好機を逃すまいと

 何度も何度も間違え、次第に焦りも見えてくる。


(そして……気づいているか、桃香?

 デントは既にイカサマを自白をしているぞ!)


 フィオナの想いは図らずとも朝霧に届いた。

 朝霧はある事に気付きボソリと呟く。


「――あ、私分かった。」


「おや! イカサマの追求ですな?

 ではイカサマをした人物とその手段をどうぞ!」


 朝霧は少し躊躇いながらデントを指さした。

 彼の言葉を思い出しながら自分の中で何度も確認する。


「貴方はずっと……空中のカードを操作して、

 皆の手札を自分の思惑通りに設定していましたね?」


「――――」


 デントは何も言わなかった。無論弁明に意味は無い。

 勝敗を決めるのはディーラーであるオーナーの祝福。

 そして、その光は――


「『罪ありき(ギルティ)』。追求成功でございます!」


 朝霧の怒涛の追い上げに観客たちは熱狂する。

 雷鳴の如く轟く歓声は朝霧を讃える声一色であった。

 そんな周りの騒音とは裏腹に、デントは朝霧に問う。


「何で分かった? 俺の得意技なんだが。」


「私の中でいくつかイカサマの候補がありました。

 その中で唯一、貴方は空中のカード操作を()()()()()()

 フィオナの糸なら出来ても不思議じゃないのに。

 貴方が思いついても不思議じゃないのに……」


「なるほどな……俺自身がしているイカサマだったから、

 無意識のうちにソレを言うのを避けてたってわけか……

 素晴らしい読みだ。お見事、朝霧桃香。」


 デントは朝霧を称賛するように拍手した。

 そしてそのままドスンと椅子に倒れ込む。

 褒められた朝霧は照れくさそうにはにかんだ。


(……あれ? そういえば何で

 デントさんは途中で追求を辞めなかったんだろ?

 あの弱いカードならイカサマしてないってことくらい

 すぐに分かりそうなものなのに……?)


「――はーい! またまた追撃行きまーす!」


 余韻も束の間、何度も聞いた声が響く。

 これまで百発百中で追求を成功してきた硝成だ。

 彼の指先が、今度は後の無いデントに向いた。


「最初のターンの終わりに適当なカードを抜いといて、

 ニターン目以降に来た強いカードとチェンジしてた。

 つまり、強いカードを隠し持ってた。」


「『罪ありき(ギルティ)』! 三人目の脱落です!」


 無慈悲にデントの床が開く。

 落下の一瞬、僅かな時間でデントは朝霧と目があった。

 その目は今後の朝霧を応援しているかのような、

 励ましに溢れた熱い目であった。


「――! デントさんッ!」


「さようなら、ギャンブラー。そして……」


 ―参加者――――――所持コイン――――――――

 硝成        218(+79)

 デント       0(−158)

 朝霧        128(+79)

 ラニサ       34

 ―――――――――――――――――――――――


「残り三人だね。朝霧桃香?」


 飄々とした硝成の態度が気に入らず朝霧は睨み返した。

 だが硝成は顔色一つ変えずに応答する。


「睨まないでって……僕達は敵じゃないんだ。

 考えてみてよ? 二人とも百枚以上持ってる。

 後は数ターン掛けてそこのメイドを落とせばいい。」


 ラニサは人形のように微動だにしなかった。

 恐怖や不安といった表情は全く読み取れない。

 しかし、朝霧にはまだ若い少女を落とせ無かった。


「――オーナー、不正の指摘をします。」


 朝霧は薄ら笑いを浮かべる硝成の顔を指さした。


「さっきのターン。

 彼は空中で()()()()()()()()()()()()()()()!」


 判定は赤。罪ありき(ギルティ)

 硝成は痛くも痒くも無さそうに笑い転げた。


「正解! 正解! 大正解! 何で分かった?」


「これまでずっとデントさんが手札を操作していた。

 そして、さっきのターンではずっと私の不正を疑った。

 それはきっと私の手札が()()()()()()()()()から……!」


「へぇー。意外に頭良いんだね、君?

 でも『賢明』とは違うな。だって指摘は単発(それだけ)だろ?

 二回連続で討てなきゃ全く意味が無い。」


 ―参加者――――――所持コイン――――――――

 硝成        109(−109)

 朝霧        237(+109)

 ラニサ       34

 ―――――――――――――――――――――――


「――ッ!!」


「そして何より……君は僕を敵に回した。」


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