第二十七話 異物混入
先日ブックマークが一件増えました。
とてつもなく励みとなっております。
ありがとうございました。
また、この場を借りて今までブックマークおよび
評価を付けてくださった方々にも感謝したいです。
ありがとうございました。
読者がいるという事実が燃料となり、
無事今回の話を以て『総話数百部』に到達しました。
まだまだ続けていきますので、
今後とも応援よろしくお願いします。
朝霧の隣に座っていたのは森泉彰だった。
ミラトスで起きた魔王軍との衝突から約二ヶ月。
人によっては早いと感じるかもしれないが、
少なくとも朝霧にとっては懐かしい相手だった。
「お久しぶりです! 森ず……」
「――遠山。」
「え?」
「宝石商の遠山涼。それが僕だ。
さっき言ってた森泉とは……探偵の彼か?」
朝霧はしばらくキョトンとした後、意味に気づく。
森泉は魔法世界唯一の探偵であり名は知れている。
そして、ここの客層は世界中の金持ちたちだ。
(探偵と知られるのは避けたいってことね……!)
朝霧は森泉の意図を汲み取った上で会話を続ける。
「えと……名前を間違えていました、遠山さん!
お久しぶりですね! 今日はお仕事ですか?」
「そうだな……市場調査といった所だ。」
(――! これは探偵の仕事をしてたってこと……?
流石に仕事の内容までは聞かない方がいいよね。)
「所で……お前の方こそ、この街で何を?」
「あ、えと……観光です。」
森泉はジッと朝霧の目を見つめた。
どうやら隠し事をしている事はバレているようだ。
当初はどうあれ今は魔王軍と緊張状態にあるという事を。
だが彼はそれ以上詰め寄る事はしなかった。
「そうか。予定は順調に進んでいるのか?」
「えと……そうですね。」
朝霧は真面目に考え込んだ。
結論からいえば予定は全く順調では無い。
魔王軍もアンブロシウスの守護者も、
まだ大した情報は得られていないのが現状。
行動も行き当たりばったりの後手後手だ。
「あの……依頼をしても……いいですか?」
朝霧は目を反らしたままそう呟く。
すると森泉は少し驚いた後、紙とペンを渡す。
(依頼の内容はコレに書け。)
周囲に目を配りながら小声でそう呟いた。
朝霧は慌ててその紙を受け取る。
書く内容は決まっていた。
アンブロシウスの守護者については自分たちで調べる。
魔王軍についてはアーサー隊長が追っている。
なによりそれらは封魔局員では無い森泉に対して
朝霧の裁量一つで頼める物ではないだろう。
ならば……依頼すべきはただ一つ。
朝霧にとって助けになり、
なおかつ封魔局の管轄から既に外れた事案。
朝霧はペンを走らせた。
『二日前にアンブロシウスの守護者に殺された男。
ニック、という人物について調べて欲しいです。』
「そうか、分かった。」
「……迷惑じゃ無いですか?」
「頼んどいて何だそれは?
もちろん迷惑甚だしいに決まっているだろ。」
いつもの嫌味だ。やはりコイツは嫌な奴だ。
朝霧はむぅ、と不貞腐れるように眉を寄せる。
「だが、顔なじみの頼みだ。断れまい。」
「……!」
あぁそうだったと朝霧は思い出す。
ミラトスで見た、人々に囲まれる森泉の姿を。
彼女にとっての理想であり目標だ。
「さて、僕はそろそろ行くとしよう。」
「あ、あの……!」
立ち去ろうとする森泉の手首を掴む。
すると彼が振り返った勢いで体が引っ張られ、
朝霧はそのまま体勢を崩してしまった。
「わっ! ちょ――」
バランスを崩した朝霧はそのまま前へと倒れた。
しかし、体が地面に着くことは無かった。
「――滑稽だな。それで戦闘職が務まるのか?」
(へ? え!? え!? これって……!)
朝霧の体は森泉によって支えられていた。
薄い布だけの両肩に森泉の両手が添えられている。
「あ、あ、あの! す、すみません!」
「問題無いなら良い。所でなんだ?」
「……へ?」
「呼び止めただろ? 用事は何だ?」
朝霧はハッとし要件を思い出す。
まだ少し震える唇を動かし言葉を紡ぐ。
「ミラトスでは、ありがとうございました……!
あの時のお礼……まだ直接言えて無かったから!」
「なんだ、そんな事か。
礼をしたいなら事務所に菓子でも送ってくれ。」
そう淡白に呟くと森泉は再び背中を向ける。
朝霧はそんな彼を見送りながら顔の熱を冷ます。
「あぁ、それと。」
ふと、森泉が思い出したかのように振り返る。
「……中々似合っているな。そのドレス。」
「――――!!」
じゃあな、と今度こそ森泉は立ち去った。
それと丁度入れ違いになるようにアリスが戻る。
「朝霧さーん! 飲み物貰って来ましたー!」
「…………」
「それと、本当にすみません!
私が選んだ服のせいで……風邪を引かせるなんて……」
「ねぇ……アリス……」
やや放心状態のまま朝霧はアリスに顔を向ける。
そこにあった表情にアリスはギョッと目を見張る。
「素敵なドレス選んでくれて……ありがとう!」
「――――!!!?」
――――
突如、カジノ内でベルが鳴る。
騒がしさのあった会場の他の音がピタリと止んだ。
カランカランと鳴り響く音は
周囲の静寂を聞き入れた後でようやく止まる。
皆の視線が音の方へと集約されていた。
注目を集めやすいテラス状の場所。
そこには一人の男が立っていた。
金髪のロングヘアーに髭を蓄えた老人のような男。
腰はまっすぐで目もキリッとしているが、
その顔に張り付いたシワが苦労を語る。
アンブロシウスに詳しいなら彼を知らない者はいない。
「皆様! えぇそう! 皆々様!
今宵もお集まり頂きたき誠にありがとうございます!!
私当ホテルオーナー兼、当カジノにおける
メインゲームのディーラーを務めさせて頂いてます、
アウレリアウスでございます!」
オーナーの後ろには巨大なスクリーン。
彼の顔をでかでかと映している。
「あれが、このカジノホテルのオーナー……!」
「あぁ、そして。守護者の手がかりを持つ人物。」
朝霧は既にフィオナたちとも合流し
四人でスクリーンに映る男の顔を見据えた。
その間もオーナーは小粋なトークで会場を盛り上げる。
「さて! 小話はこのくらいにして……
始めますかな? 夜の部を!?」
会場からは歓声と拍手が鳴り響く。
その喝采をオーナーはお辞儀を以て収めた。
「結構! しかし今宵のゲームは一味違う!
なんと! スペシャルゲストに来ていただきました!」
突如会場の照明が全て落ちる。
そして、複数のスポットライトが人を探すように動く。
(……? スペシャルゲスト?)
朝霧は純粋に誰だろうと思い首を傾げた。
――すると彼女の周囲をスポットライトが照らす。
直後、その表情がスクリーンの全面に映し出された。
「え?」
「今夜のゲストは封魔局のスーパールーキー!
なんとあの強欲のサギトを撃破した女!
これを機に顔を覚えて貰え! ――朝霧桃香ァア!!」
再び歓声が鳴り響く。
今度は朝霧を囲むように轟いた。
「え……えぇ――――ッ!!!?」