伝説のスキル【好感度操作】でも手に入らなかった、たったひとつのモノ
また天啓が降りてきてしまった…自分の才能が怖い(バカ)
この世界では15歳になると、スキルをひとつ授かる。
それによって生き方を決める人がほとんどだ。
例えば【剣術】なら町の衛兵に、【運転】なら御者に、といった具合。
そんな世界で私が手に入れたのは、【好感度操作】。
このスキルは自分に対する好感度を可視化して、それを操作することができる。
かつて愛の女神が所有していたとされる伝説のスキルだ。
最初は人の感情を弄ぶことに抵抗なんかも感じていたのだけれど、私は意思の弱い人間なので頻繁にこのスキルに頼ってしまい…今ではすっかり慣れてしまった。
今住んでいるこのエクルの町だと大体8割くらいは私に好意的なんじゃないかしら?
ある日、町を歩いているとものすごい美少女を見つけた。
気だるげな瞳、さらさらの髪。正直言って一目惚れだ。
目が離せない。こんな美少女…この町に居た?
いや、そんなことはどうでもいい。この子は―私のモノだ。
さっそく好感度操作を使うが…手応えがない?
どういうことだろうか。
今までこのスキルが効かなかった相手など1人もいなかったのに…
私がじっと美少女を見ていると、ふと目が合う。
「さっきからこっちを見てるみたいですけど、どうしたんですかー?」
「あなたがあんまり綺麗なもので、見惚れてたのよ」
そう言うと、彼女は首を傾げる。
「ナンパですかー?でも私には女性の趣味はないので、ごめんなさいねー」
私もさっきまでそう思ってたんだけどね?
絶対に惚れさせてみせる…っ!
「まぁまぁそう言わずに。この後お暇かしら?この近くにおいしいパンケーキのお店があるの」
「あー…時間は大丈夫なんだけど、今ちょっと持ち合わせが少ないんですよー」
「ふふっ、誘ったんだからそれくらい出すわよ」
「…じゃあお言葉に甘えてー」
勝った!デートの始まりよ!
にしても、間延びしたような不思議な喋り方ね…そういう所もかわいい!すき!
「こ、声に出てますよー?」
「あら、私としたことが…あ、そうだ。私はディアよ。改めてよろしくね」
「私は、帆波夏鈴。カリンって呼んでくださいねー?」
「カリン…かわいい名前ね!それじゃあいきましょうか!」
それにしても家名があるなんて…どこかの貴族かしら?
一緒にパンケーキを食べる。
なんなら目の前に座ってるカリンちゃんだけでごはん3杯いけるんだけど、それはそれとして、流石人気だけあって美味しいパンケーキだ。
「驚きました。ディアさんってすごく人気なんですね」
「ん?どうして?」
「どうしてって…町を歩いてるだけでみんなから挨拶されてたし、露店の人から商品もらったり、すごいと思いますけどー?」
あぁそんなことか。当たり前だから気づかなかった。
「まぁね。それよりカリンちゃんのことを聞きたいわ?」
「見ない顔だし、この町には最近来たのよね?何しに来たの?」
「うーん、頼まれて探し人?をしてるんですけど…なんだか聞いた話と食い違っていて…」
「どういう話を聞いたのかしら?」
「この町が悪い人に支配されかけていて、だからその人を探し出して討伐するようにって…でも町の様子からもそんな印象は受けないんですよねー」
おかしいわね…この町がそんなことになってたら私が気づかないはずないし、悪いことをする人なんてここにはいないと思うのだけど。
「私はそれなりに長くこの町に住んでいるけど、そういう話は聞いたことがないわね…それ違う町だったりしない?」
「そんなことないはずなんですけどねー…なにせ直接ここに転移してきたし」
「ん?何か言ったかしら?」
わたしが聞き返すと、カリンちゃんはごまかすように首を振る。
「いえー、気にしなくて大丈夫ですー」
「…まぁ事情は分かったわ。そういうことなら拠点が必要よね?しばらくうちに泊まらない?」
「いいんですかー?」
「宿代にカリンちゃんのこと教えてくれるならね」
「…どうして初対面なのにここまでしてくれるんでしょうかー?」
クスッと笑みがこぼれる。
「そんなのカリンちゃんに一目惚れしたからに決まってるじゃない」
「本気…だったんですねー」
「もちろん!もうカリンちゃんにぞっこんよ?」
「夏鈴…カリンでいいですよー?」
「カリンがデレた!」
「デレてないです…まったく」
そう言った彼女の頬は硬直していて、まんざらでもなさそうな手ごたえに笑みがこぼれた。
それから数か月、結局何も手掛かりが見つからず、今もカリンは私の家で過ごしていた。
「もうその人の間違いか何かだったんじゃないの?諦めて私と結婚しちゃいましょうよ」
「最近それもいいかもと思い始めてる自分がいるのが…ディアさんいい人ですしねー」
「そうよー?私ほどいい人もなかなかいないんだから!」
しかし、彼女はかぶりを振ってこう言う。
「…最後に依頼人と連絡がとれるか試してきてもいいですかー?」
「いいけど…どこに行くの?あんまり遠くはいやよ?」
「教会です」
「…ディアさん」
どこか真剣な様子のカリンに、気を引き締めて問う。
「おかえりなさい、どうだった?」
「一つだけ正直に答えてください」
「…何かしら?」
「ディアさんのスキルのことです。それをわたしに…使いましたか?」
なんだ。そんなことか。
「使ったけど、効果なかったのよねー。そういえばあれはなんでだったのかしら?」
「わたしのスキルのおかげですね」
「そうだったのね。それで、そのことがどうしたの?」
「そのスキルのこと…どう思ってますか?」
「これは便利よね。15歳になったあたりからみんな私のことを避けるものだから、すごく過ごしにくかったのだけれど…おかげでだいぶ過ごしやすいわ」
「…私とどこかの森の中にでも行ってゆっくりスローライフでも送りませんかー?」
「いきなり話が変わったわね。でもとっても嬉しいわ。さっそく準備をしなくちゃ」
「私が…好感度操作でも手に入らない愛を、満ち足りるまで与えようと思います」
2人はいつまでも幸せにくらしましたとさ
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