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最後の異世界人  作者: ピエール鈴木
1章 ラスタフォンの騎士
9/9

第8話 果たされることのない約束

 ルシュフォールさんは馬車に乗らなかった。

 この客車の定員が6人で、中には僕を含めて異世界人の3人と土男と異世界人達を毒殺した眼鏡の人、両目の潰れたお爺さんの計6人がいる。

 御者を合わせて全員で12人だから6人は客車に乗れない計算だ。

 後ろの荷台か、前の御者席にいるのだろうか?

 話が通じる現地人が現状、ルシュフォールさんしかいないから、どうしても不安になる。


 馬車が動き出した。

 窓から外を見るとあっという間にスピードが上がっていく。

 改めて乗ってみると、慣性で席に体が吸い付くのが分かる。

 時速80キロは出てるだろうにシートベルトがないから危険だ。

 事故が起きたら死んでしまう。


 正面の窓には、御者らしき人とお婆さんがいる。

 お婆さんは多分、龍仙部隊の人だ。

 正面でぐうぐう寝てるお爺さんを見ていても思うのだが、日本だと年金で生活していてもおかしくない人が平然と兵士をやっている。

 この国、或いはこの世界には、社会保障の概念がないのかもしれない。

 死ぬまで働くのか。


 でも、ルシュフォールさんは兵士に定年があると言っていた。

 ……定年は100歳とか?

 笑えない。


 やっぱりルシュフォールさんがいないと不安だな。

 流石にルシュフォールさんの仲間の人が僕達に攻撃するとかはないにしても、ほぼほぼ初対面だ。

 緊張はするし、この人達が僕達のことをどう思ってるか考えたら不安だ。


 昨晩は、彼等の仲間の人が1人死んだ。

 僕が勝手に飛び込んだせいかもしれない。

 今更になって昨日の愚行を後悔する。


 あれに何の意味もなかった。

 リリアーレさんを助けられなかった上に、失くなった女性にとっては邪魔な壁だったに違いない。

 僕がいなかったら生きてたかもしれない。

 土男の時も木偶の坊みたいに、突っ立っていただけだ。


 それに古屋さんや、ホワードさんまで危険に晒した。

 古屋さんは無効化魔法の異世界人に殴られたんだ。

 僕が連れていかなければ、あんな痛い思いしないですんだ。


 ホワードさんは、風使いを助ける時にぶん投げた。

 四肢が骨折してる人に対して僕は何てことをしたんだ……

 怒られても殴られても何も言い返せない。


 良くは思われてないだろうな…………


 ルシュフォールさんは後ろの荷台なんだろうな。

 後ろには窓が着いてないから見えない。


 僕はこれからもこんなことを繰り返すのだろう……

 繰り返せるならまだいい。

 どこかで馬鹿みたいに死んでるんだろうな……


 はぁぁぁぁ


空木(うつろぎ)さん。どうしたんですか?」


「えっ。あー。何でもないです。」


 隣に座ってた古屋さんが声をかけた。

 うるせぇよって思ってるんだろうな。


 ……隣。

 臭いって思われてたどうしよう……

 今朝、軽く川で水浴びはしたし、服も着替えた。

 血の臭いはとれた筈だ。

 でもその後、ずっと動きっぱなしだ

 汗臭いかも……


「あんな大きな溜息してて何もないはないですよ。何ですか?相談に乗りますよ。」


 マジか……

 聞いちゃうか?

 僕のことどう思ってるか……


 特効野郎。(進んで戦地に飛び込む。)

 キチガイ。(めっちゃ発狂。)

 火傷怪人。(臭い。汚い。危険な奴。)

 汗臭い。(一番辛い。)


 あー。

 絶望的な答えしか返ってきそうにない。


 テキトウに話を作るか……


「米が食べたい……」


「あー、この国、パンが主食みたいですからね。米派なんですか?」


 話を引き伸ばそうとしてる。

 今は、あまり話したくないんだけどな。

 テキトウに返しとこ。

 窓を見ながら話を続ける。


「はい。少しだけ固めのやつが好きです。」


「私と好み一緒ですね。祖父の家が農家で毎年秋には新米をもらってたんです。話してたら私も食べたくなってきました。」


 女性だったら実際米派でも、あえてパン派って言うよな。

 普通……


 なるほど。

 この人、僕に嫌われないように必死なんだな。

 万が一、僕が約束を反故(ほご)にしたら、死刑だもんな。

 当然のことだな。


 申し訳なくなってきた。


「この世界にもパンがあるなら、どこかに米もあるかもしれませんね。」


「きっとありますよ。」


「あったらいいです。」


「もし米が手に入ったら鍋で作るので、食べます?」


 鍋って……

 古くないか?

 ……この世界に炊飯器無さそうだもんな。

 古屋さんの手作りごはんか……


 いいなそれ。


「是非、お願いします。その時は僕も適当に何か作ります。」


 やべ。

 ちょっとニヤついてたかも……

 気持ち悪いって思われてないか?


 恐る恐る古屋さんを見る。


「ありがとうございます。料理してるんですか?」


 機嫌は悪そうじゃない。

 いや、そういう風に装ってるだけかも……


「独り暮らしなので人並みには。味噌汁と目玉焼きも食べたくなってきました。作るのそれでいいですか?」


「あー。それだと栄養が偏るんで、サラダと漬物も追加で作りますね。」


 なんか、理想的な朝ごはんになってきた。

 僕の朝ごはんとか、食べないかカップ麺か米にごま塩かけるの三択だったんだけどな。


 古屋さんと一緒に作るご飯か。

 実現したらいいな。


 まあ、ないけどな……


「お願いします。」



 ようやく、話が終わった。

 外を見ると、既に森の中だ。

 あれ?

 馬車のスピードが落ちてるような……


 森の中に何人か人が見える。

 これから町に向かうのかな?


 バヒュン!!


 水!!?


 シュッ


 ドン!!!


 相殺した。

 ホワードさんじゃなくて、土男が石の弾で冷静に対処した。

 目の前の窓が割れてる。


 敵襲だ!!!!!!!!!


 異世界人だ!!!!!!!


 古屋さんの背中を押してすぐに伏せる。


 ドゴン!!

 バキバキ

「◆◇▼〇£▲!!!!!(ぎゃーーーーーー!!!!!)」

 ボカッ

 バキッ

 グシャ!!!

「▲◇!!!(ウゲ!!!)」

 ドーン!!!!!!!


 1つだけ分かることがある。

 顔を上げて外を見たら地獄絵図だ。


 ガンガンガンガンガン!

 ヒューーーーーーーー

 ドカーン!!!!!

 シューーーーーー

 ドカーン!!!!!

 シュルシュルシュルシュル

「@£∩!!(あべふ!!)」

 ボコボコボコボコ

 ドドドドドド

 メキメキメキメキ

 …………




 暫くしたら音が止んだ。

 決着したのだろう。

 顔を上げて窓から外を見る。


 えらいことになってた。


 ホワードさん、地味に外に出て普通に戦ってる。

 腕の骨が折れてる。

 痛そう。


 あ、リリアーレさんがホワードさんに魔法をかけた。

 ホワードさん、めっちゃ痛そうにしてるけど、骨が治ってる。

 治癒魔法なんだろうな。

 傷を治すのって痛みが伴うんだな。

 出来る限り、怪我しないようにしよう。


「空木さん、今回は怪我しなくて良かったですね。」


 古屋さんからだった。


「なんか、出遅れちゃった感は否めないですけどね。」


「ホントに良かったです。空木さんが半身火傷を負って倒れた時はもうダメだと思いました。死地に飛び込むようなことは、もうダメですよ。」


 あの時は、古屋さんまで巻き込んだんだ。

 返す言葉がない。


「その件は……申し訳ありませんでした。」


「あ、いや…そういうつもりで言ったんじゃ……」


「いや、いいです。もう、あんなことはしないので……」


 …………



 全員が再び馬車に乗り込んだ後、馬車は動き始めた。

 寝ていたお爺さんも外に出ていたと気づいた時はビックリした。

 その当のご本人は、席に座って数十秒とせずに再び眠った。


 土男に代わって馬車に乗り込んだリリアーレさんもあっという間に寝た。

 昨日から一睡もしてないのだろう。

 疲労が顔に出てる。

 寝顔も綺麗だな。


 僕と斜向かいに座る眼鏡の人は僕ら3人を見ている。

 念のため、監視しているのだろう。


 古屋さんとは話さなかった。

 さっきの一件で、決定的に彼女と距離があることは分かった。

 無理に話す必要もない。


 窓の外を見る。

 ただ、森の中の道を馬車が駆け抜けていく。

 木々を見ていると心が落ち着く。


 この世界で僕に優しいのは、何も言わないこの景色だけかもしれないな。

 他に誰もいなかったら、愚痴を言ってるに違いない。


 ……魔法ってなんだろうな。

 昨日は普通に使っていたけど、今思うと不思議だよな。

 ルシュフォールさんは生活を豊かにするためにあると言ってたけど、果たして人の手に負えるものだろうか?

 この世界では、魔法の力を使った戦争が幾度もあったのだろう。目の前の兵士達を見ていると、そうとしか思えない。


 僕にとって、この力は手に余る。

 今は、精神を安定させるだけの無害な能力だが、順当に進化してしまったら、いずれ人を傷つけることになる。


 魔法を使わないで生きていけないだろうか?


 無理だな。

 この馬車だって馬を強化してるか、風を起こして荷台や馬を押しているだろうし、今朝の消火作業や、炊き出しのおばちゃん達を見ていても魔法を使っていた。


 この世界に魔法は深く絡みすぎている。

 それから、僕1人が外れることなんて出来ない。

 だったら……

 僕は出来る限り、人を傷つけない魔法使いを目指すしかないんだ。

 そうしよう。


 僕は兵士にならないといけないみたいだけど、きっと戦闘に関わらない部署だってある筈だ。

 そこで静に生きてこう。


 コン


 肩に何かが当たった。

 古屋さんの頭だった。

 すやすやと眠っている。

 僕より早く起きていたんだ。

 彼女も疲れていたんだな。


 古屋さんは僕にもたれ掛かるように眠っていた。

 僕は何もせずに再び外を見る。


 静かな時間が流れる。


 たまたま近くに転移しただけの、あってないような信頼関係。

 彼女と僕はそう遠くない未来、バラバラの道を行くのだろう。


 でも、今は…………


 少しでもこの時間が続いて欲しいと思っている。



 眠かったけど一睡もできなかった。

 君のせいだ。






 ガラガラガラガラ


 町が見えた。

 昼間までいた町と比べて少し小さい印象を受ける。

 既に夕暮れだ。今日はここで夜を迎えるのだろう。


 木で作られた高さ2メートル程のボロい塀の前で馬車は止まる。

 止まった時の馬車の揺れで古屋さんが起きた。

 彼女が離れてく。

 肩がほんの少しだけ寒く感じた。


 御者席のお婆さんが衛兵と何かを話している。

 衛兵はすぐに門を開けた。

 門も木でできている。


 馬車はゆっくりと町に入る。

 暫く移動した後、建物の前で停車した。


 馬車から外に出る。

 ルシュフォールさんがいない。

 どこに行ったんだろう?


 リリアーレさんが二階建ての建物の方へ行く。

 僕らにも着いてくるように促した。

 異世界人3人は彼女に付いて歩く。


 建物の中は小さなロビーがあって、そこに見た目が40代の男が1人いた。

 なんとなく、ホテルのフロントだと分かった。

 ここが今日の宿か。

 僕の世界の基準で見ても、それなりに綺麗なところだった。リフォームしてない築30年のホテルくらいの綺麗さだ。


 リリアーレさんが手早く受付を済ませている。

 古屋さんは部屋の中をキョロキョロと見回している。

 彼女の基準だと微妙なのかな?


 受付を終えたリリアーレさんが通路の方を指差したので、僕らは付いていく。

 階段を上って一番奥の部屋が僕とホワードさんで、その1つ手前に古屋さんが入るように言われた。

 そして、3人にそれぞれ手紙を渡した。

 リリアーレさんは急いで部屋の前を後にする。


 僕は部屋に入った。

 ホワードさんも来た。

 古屋さんも自分の部屋に入っただろう。


 手紙を開くと多分、ルシュフォールさんからの物だった。


 ……

 部屋から出るな。

 騒ぎになると面倒だ。

 魔法も使わないように。


 お前の状況を簡単に説明すると…

 異世界に来る。

 カピトル監獄に投獄。

 検査に合格。

 カピトルの警察署に移送。

 戦闘及び消火作業。

 現在は首都に向かう途中。


 首都までの経路や移動手段は下記のとおりだ。

 四等都市カピトルから三等都市ワンラまで馬車で移動。

 今日は途中のどこかの町で泊まる。

 明日の午前中にはワンラに着く。

 ワンラからは鉄道で首都ラスタフォンまでいく。

 明日の夕方には着くだろう。


 俺は一足先にワンラに向かう。

 俺の仲間はほぼ全員この町に残る。

 仲間の指示には従いなさい。

 自分の立場を自覚して問題事は起こさないように。

 以上だ。

 ……


 自分の名前すら書いてない。

 急いでいたんだな。

 首都到着以降の予定までは書いてないが、まだ決まってないってことか?それとも、次あった時に話すつもりか?

 聞いてみないと分からないな。


 問題事には気をつけないとな。

 ルシュフォールさんの仲間の人からの心証が悪くのは困る。

 そもそも、この世界での異世界人の扱いはかなり難しい筈だ。

 言葉が通じない。この世界の簡単なマナーを無視するようなこともしかねない。

 ルシュフォールさんみたいに活躍する異世界人もいれば、昨日の2人のように敵に回ることだってあり得る。

 改めて一挙一動が自分の運命に関わることを自覚しないとな。


 手紙を読み終えて周りを見渡した。

 ホワードさんも手紙を読み終えたようだ。

 僕の方に近づく。

 そういえば、昨日の投げた1件が……

 殴られるな。


 僕は殴られた時を想定して身構えたが、意に反して彼は僕の肩をポンポンと軽く叩いて笑っていた。

 一瞬何がなんだか分からなかったが、僕に対して攻撃的ではないことは理解した。

 昨日は、殺されかけた後に殺しかけた仲。この人とは、なんとも言えない関係性だ。

 軽くお辞儀をしてそそくさと離れる。

 ホワードさんは僕へ何かを言うことはなかった。


 この部屋は六畳程で二段ベッドが2つで4人寝られる部屋になってる。

 扉と反対側の壁には窓があって夕暮れの町並みが見える。

 この町も農業が盛んなようで、家と家の間から畑が見える。


 部屋はベッドの他にクローゼットや棚があるくらいで、本当に泊まるためだけの部屋だ。

 4人寝られるから龍仙部隊の人達もこの部屋で寝るのだろう。


 どのベッドで寝ようか悩んだが、こういうのは下っ端が上のベッドで寝るのが普通なので、扉から左の上のベッドに上って腰かける。

 ホワードさんも同じように考えたのか、右上のベッド寝っ転がる。


 明日は、列車に乗るのか……

 馬車のことを考えると列車も魔法の力で動くのだろう。

 新幹線ばりに速かったりしてな。

 流石にそれはないか。


 列車……

 何もないよな……

 西部劇みたいに銃撃戦とかにならないよな……

 この世界なら魔法か……


 トントン


 扉がノックされた。

 龍仙部隊の人かな?

 言葉は通じないけど、返事をするのが礼儀か。


「いいですよ。」


「はい。」


 古屋さんの声だった。

 部屋から出るなってお達しだったような……

 手紙を端から端までもう1度目を通す。


 ガチャリ


 そー


 扉から古屋さんが恐る恐る顔を覗かせた。

 とりあえず、用件を聞く。


「何でした?」


「特に何もなかったんですけど……隣の様子が気になってですね……」


 しどろもどろな返答が返ってくる。

 何もないなら、自分の部屋にいないと駄目じゃないかな。

 手紙を再読したが、やはり部屋に居ろとある。

 彼女の手紙にも同じことが書いてる筈だ。


「手紙に部屋から出るなって書いてたから、用がなかったら戻った方がいいんじゃないですか?」


「そうですよね。…失礼します。」


 そーっと扉が閉まっていく。


 ゴホンゴホンッ


 ホワードさんが突然咳払いをした。

 たまたまか?

 いや、何か意図がある筈。

 何だ?

 考えろ。


 ホワードさんは何が言いたいんだ?

 いや、今の場合、古屋さんと考えた方が自然だ。


 彼女は部屋に戻ろうとしている。

 戻ったら……


 やべっ。

 僕、冷たい奴じゃねぇか。


「あ、待って待って!」


「はい?何でした?」


 あーー……戻れって言った手前、適当に何か理由をつけないと不自然だよな。


「特に何もないんですけど、1人で部屋にいるのも退屈でしたら暫く居てもいいんじゃないですか?龍仙部隊の人達も乗ってきた馬車を置いてきたり、明日の準備があったり、僕達の明日の服を買ってくれてるかもしれないので、手分けしてやっててもすぐにはここに来ないですよ。」


 言い訳がましいかな。

 長くなり過ぎた。


「じゃあ、少しだけ。」


 ギィー


 扉を開けて彼女が入ってきた。

 この部屋は、椅子の1つすらない本当に寝る為だけの部屋だから、とりあえず、僕のベッドに彼女を座らせて僕は二段ベッドの梯子(はしご)に腰かける。

 部屋に入れたまではいいけど、特に話すことが思いつかない。


 ホワードさんも寝っ転がってるだけだ。

 僕に部屋に入れるように促したんだし、多少は何か考えててくれよ。


 ゴホンゴホンッ


 ホワードさんがまた咳払いをした。

 いや、ただの咳かも……

 ひょっとしたら、さっきのも……

 これは、僕の考えすぎだったか?


空木(うつろぎ)さんの手紙には何て書いてあったんですか?」


 古屋さんが僕の手紙掴んでいた。


「多分、古屋さんと同じだと思いますよ。」


「読んでいいですか?」


「いいですよ。」


 古屋さんは僕の手紙を読んでいる。

 多少は時間を潰せるだろう。


「空木さん。私と内容がかなり違いますね。」


「えっ……古屋さんの手紙にはどんなことが書いてました?」


「魔法はいくつかに区分されてる事と、この国についてです。」


「面白そうな内容ですね。」


「持ってきます?」


「お願いします。」


 古屋さんは床に降りて靴を履いて自分の部屋に戻った。

 すぐに戻ってきて、僕に手紙を見せた。

 手紙の内容を読む。


 ……

 部屋から出るな。

 騒ぎになると面倒だ。

 魔法も使わないように。

 ……


 ここまでは一緒だ。


 ……

 魔法について簡単に纏める。

 魔法は効果によって25種類に分類されてる。お前の光魔法や空木の精神魔法、ホワードの土魔法もその1つだ。

 更にそこから効果の大きさや発動のしやすさに応じて3段階に分けられている。これが低位、中位、高位だ。

 元々習得している分類以外の魔法を覚えることも出来るが、それは龍語を覚えてからの話だ。

 この世界に生きる上で自身の魔法の能力を上げることは極めて重要だ。そのためにも、国に背くようなことはするな。

 ……


「古屋さんって幻影って光魔法だったんですね。なんかヒーローっぽくていいですね。」


「私は、空木さんの魔法の方がいいと思います。昨日はどんな状況でも気持ちが折れてなくて凄かったですよ。」


 精神魔法ってどちらかと言うと、敵のそこそこ強い幹部が持ってそうな極悪能力だからな。

 かなり、言葉を選んで言ってそうだな。


「昨日ですか……僕、正直まだまだ魔法が上手く使えてるとは言えなくて、昨日も相当ミスがあったんですよ。二人組の一人が精神魔法を使ってる時なんて常に後手に回ってました。」


「魔法が上手く使えないのは私も同じですよ。あの幻とか消えるのとか集中力がかなり必要で、移動しながらだとどうしてもアラが目立ってしまって……」


「でも、昨日は何回もあれのお陰で助かりました。古屋さんがいなかったら、10回は死んでましたよ。ははは。」


 真面目にそれぐらい死んでるな。


「それは私も同じですよ……」


 まあまあ、そんなに謙遜しないで下さいよ。昨日、古屋さんが死にかけたシチュエーションの8割9割は僕と一緒に行動したのが原因だと思うので……


 手紙にもう一度目を向けた。


 ……

 お前達が現在いるこの場所は、ラスタフォン王国というこの世界で3番目に歴史の長い国家だ。その文化水準は世界でも最高クラスで、魔法に関する知識面、研究面で限定すれば世界で最も優れていると言って過言ではない。

 そして、その繁栄を支えた存在として異世界人は決して外すことが出来ない。世界中のあらゆる国家の中で、公式で最も多くの異世界人を受け入れているのは、この王国だ。

 今回はかなり状況が違うが、比較的異世界人に対して寛容な者が多い。

 あまり、疑心暗鬼になる必要はない。


 俺の仲間の指示には従いなさい。

 悪いようには扱わない。

 以上だ。

 ……


 なんか、「部屋から出るな」と「仲間の指示に従え」以外、ほとんど内容が違うんですけど……

 明日の予定より、こっちの方が知りたかった。


「ルシュフォールさん、凄くこの国を推してますね。」


 正直、推しすぎて軽く引くレベルだ。


「私も少し恐くなりました。空木さんの手紙と違う内容ですし……私ってそんなに逃げ出しそうに見えますか?」


 他の人もいるから流れでってのはあるにしても、監獄から逃げ出してるし、僕からも逃げようとしたし、今はルシュフォールさんの「部屋から出るな」って約束も破ってるしな……

 冷静に考えたら妥当な判断とも言えるな……


 まあ、今の状況は僕も同罪だな。

 あんまり言ってもあれだし、フォローしとくか。


「別に気にしなくていいと思いますよ。」


「それで済ませていいでしょうか?」


 この人、疑り深いところあるよな。「疑心暗鬼になるな」ってルシュフォールさん的確だな。


「仮に疑われていたとしても、これから挽回出来るじゃないですか。挽回出来ない程、信頼を失うようなことはしてないですよね?」


 殺しだけは挽回しようがない……


「多分。」


 短く一言だけだった。

 自信はないか……


「だったら大丈夫ですよ。ルシュフォールさんが僕と古屋さんに別々の内容の手紙を書いた理由は、この状況まで予測してたからですよ。あの人も異世界人です。自分が転移した時に置き換えて考えてくれたんですよ。」


 多分……

 時間がなくて書き忘れたとかないよな。


「そうだとしたら、凄い人ですね。」


「僕は凄いと思ってます。あの人の化物じみた強さを見た時……いや、最初会った時からこう……普通じゃないなと思わせるものがあったので……」


「…なんて言うか、高圧的じゃないですか?今朝、私を呼び出した時なんて殺されるんじゃないかと思ったくらいです。」


 それは初対面に至るまでの経緯の問題だと思うけどな。

 あの人に対して否定的な発言をするのは如何なものだろうか。


「そこまでだったかな。でも、古屋さんがそう思うならそうですね。僕も少し気をつけて見てみます。」


「お願いします……」


 なんか、僕と古屋さんで話してたら、どんどん暗い話題になるような気がする。どっちもそういう柄なんだろうな。


「●〇£@▲◇∋◎α▼◆?(俺の手紙読んでみるか?)」


 ホワードさんが手紙を渡してきた。

 とりあえず、受け取る。


 ホワードさんに自分達の手紙を渡すと彼はそれを読み始めた。

 古屋さんも彼に手紙を渡すと受け取った。


 2人でホワードさんの手紙を見る。


 なんか中東にありそうな文字だった。

 アルファベットだったら、まだ読めそうだったんだけどな。


「暗号を推理するみたいですね。」


 古屋さんから一言。

 なんか興味津々みたいだ。


「僕と古屋さんの手紙から推測するに最初の三行は……」


 ……

 部屋から出るな。

 騒ぎになると面倒だ。

 魔法も使わないように。

 ……


「これじゃないかな?」


「ですね。ここの文字がここにもあって……これはこれで…」


 色々議論したが、結局よく分からなかった。

 これはこれでいいか。


 トントン


「あ。」


「あ。どうしよう…」


 多分、龍仙部隊の人だ。

 謎解きに夢中で忘れてた……


 ヤバイ。

 部屋に居ろって言われてるのに、古屋さん部屋から出たまんまだよ。

 ここも部屋ってことで屁理屈こねられないか?

 いや、そもそもこのホテルから出なければ大丈夫ぐらいの意味合いかもしれない。

 気にしすぎかもしれない。

 でも、気にしすぎじゃないかもしれない。

 どうなんだ。

 どうなんだ?


 いや、もうこれ扉開けるしかないわ。


 ガチャリ


 扉を開けた。


「◇▲@◇∩●!◎∋∋!?(緊急事態です!ってあれ!?)」


 見知らぬ人だった。

 状況が全く分からない。

 ただ、慌ててる感じは伝わる。


 バタンッ


 その人は、無言で扉を閉めていった。

 走っていく音が聞こえる。


「……部屋に戻ります。」


「そうですね。」


 古屋さんは部屋に戻っていった。

 何故か胸騒ぎがする。

 さっきの人のせいだろうか?

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