第4話 全てを知るほどに呑まれていく
家の外に出ると梯子がかかっていて屋根の上まで上れた。
この場所も雪国かもしれないな。家も三角屋根が多い。
古屋さんと骨折男は、ベラと合う前とほとんど変わらない場所にいた。
「凄い…ですね……空木さん……」
「自分でもよく分かりません。」
古屋さんは呆けたような顔をしていた。
そりゃそうだ。自分で考えてもさっきのはヤバすぎる。
屋根の穴から下を見る。
この高さから落ちて怪我しなかったのか……
改めて魔法の異常性を理解した。
「あの……さっきの人は?」
「どっか行きました。」
「もう、会いたくないですね。」
「同感です。」
なんか、落ち着いてしまうと僕も古屋さんも敬語で話し合っていた。
所詮、この程度の距離感なんだよな……
「とりあえず、下に降りますか。さっきので身体強化の魔法が切れてしまったので、屋根を走るのは無理です。」
「分かりました。」
3人で地面まで降りた。
骨折男は僕が背負いながら降りた。
身体強化の魔法が切れてしまい、自分より身長のある男を下ろすのには、だいぶ苦労した。
途中、二回くらい落としそうになった。危ない危ない。
もし、異世界人と出くわしたら、今度こそ一巻の終わりだな。
「何とか下ろせましたね。」
古屋さんも梯子から降り始める時と終わる時に、骨折男が落ちないように押さえてくれた。骨折男の護送は僕が頼まれたことだけど、献身的に手伝ってくれて助かる。
「はい。助かります。」
「このまま、町の外れまで逃げるんですか?」
「はい。町の人が避難している方向で護衛の兵士もいるので、ここよりは安全かと思います。」
「この世界の……兵士?」
古屋さんの表情が少しだけ、暗くなったように見えた。
兵士は古屋さんからしたら敵なのか?
何か安心出来る材料が……ポケットだ。
急いで、紙を取り出す。
「これです。この世界の人の手紙があるので、敵だと勘違いされないです。大丈夫です。」
……たぶん…………
なんか、自分も心配になってきたな。
でも、ルシュフォールさんのことだから、何とかなるようにしてくれてる筈。たぶん……
「何で、空木さんがこの世界の人の手紙を持ってるんですか?」
あれ、雲行きが怪しくなってきた……
古屋さんが疑惑の目で僕を見る。
「いや、これは……その…検査で合格して……この世界の人と行動を共にすることになって…それで……その人の仲間に渡すように言われたんですよ。その……一緒に行動してた人なんですけど、日本語がペラペラで…あのノイって人よりスゴいんですよ。それで、さっきの男とも張り合えるくらい強くて………でも、どことなく優しい人です。信頼できる人です……大丈夫ですから…」
それは、半ば自分にも言い聞かせるように言った。
大丈夫。
そうだ。大丈夫なんだ。
その雰囲気が読み取れてしまったのか、古屋さんの目はますます疑惑に染まる。
「空木さんと一緒にこの町で行動してた人のことはよく分かりませんが、検査に合格ってどういうことですか?私……知らないんですけど……」
さらに焦る。
魔法がずっと使えるものか分からなくて、精神安定化の魔法を解いてしまっていたのが裏目に出た。
今からかけ直すことも出来ない。
肝心な時に使えない。
頭を振り絞って考える。
検査を知らないってどういうことだ。
ノイさんは検査が終わった後、新たな異世界人を収監させると言っていた。古屋さんも検査に合格したんじゃないのか?
頭がこんがらがってきた………
ノイさんが言ってたこともしっかり覚えているのかハッキリしない。
古屋さんがどういう状況で今まで生きているか分からない。
とりあえず、その辺の確認をしないと……
「検査を…受けてないんですね。ちょっと僕とは……色々と違うかもしれないので………その辺りから擦り合わせた方がいいですね。建物に入りますか?他の異世界人から攻撃を受けてもあれですし……」
「はい……」
古屋さんは、さっきより少し距離をとって付いてくる。更に距離感が出来てしまった。
思えば、古屋さんとはまだ2回会っただけの関係。既に、死線を潜り抜けてしまっていただけに忘れがちだが、所詮その程度だ。
だから、少しずつお互いを信頼し合えるようにしないといけない。
僕だって古屋さんのことを何も知らない。これまでどうしていたか。どんな人生を歩んだか。全く何も知らない。
せいぜい分かるのは、なんとなくいい人そうなことぐらい。
どう切り出そうか……
さっきの穴が空いた家は目立つ。近くにあった別の家に入って身を隠す。
僕と古屋さんは、部屋の中で4メートル程距離をとって座る。家の扉の近くに古屋さんが座るように促した。
少しでも、安心してもらえるようにだ。
「今日ここに来るまで何をされていたか聞きたいです。僕と1度話した後からです。先に僕ですが、あれから一眠りした後、ノイさんの言っていた検査が始まりました。それで……」
検査以降にあったことを全て話した。
人を殺したことも。
どのみち、服にびっしり着いている血のせいでその辺の誤魔化しはきかない。
逆に怪しまれるだけだ。
ただ、人数は15人ではなく5人と言った。この差に意味があるか分からないが、人数が多ければ多いほど古屋さんの心が離れてしまうのでないかという恐怖があった。
あと、自分の魔法についても話さなかった。
精神魔法なんて名前からして物騒な魔法だ。変に警戒されても困る。
それに僕が話せば、古屋さんも半ば強制的に話さないといけなくなる。
自分のカードを簡単に人に教えたくはないだろう。信頼できないなら特に。
それに、古屋さんは初日僕に対して使える魔法が光学迷彩のみと言っていた。
しかし、先程の火球を避ける際には、幻を作って火球を誘導していた。もし、幻を作れるようになったタイミングが僕と話す以前なら嘘をついていたことになる。
しかし、それを言及する必要性はない。
少なくとも今する必要性は皆無だ。
古屋さんは黙って聞いていた。たまに相づちを打つぐらいだ。
そして、古屋さんの番になった。
彼女は重い口を開けた。
「私は空木さん程、色々なことはなかったです。あの後、ノイという人に連れられて、別の牢屋に行きました。独房です。それから周りに誰もいない中、一晩……かは分かりませんが、それぐらい過ごしました。それからパンを1つ食べてずっと部屋の中にいたら、突然異世界人の服装の人が部屋の扉を壊してくれました。」
古屋さんは、それから言葉を選んでるのか少し考え込んでいた。
「逃げるなら今しかないと思ってそこから逃げ出しました。そして、周りの人に着いて行ったらこの町に来ました。兵士や村人は始め私達に攻撃してきたので、自分の魔法で隠れて様子を見ていたら、異世界人達が反撃に出てそれで後は見ての通りです。訳も分からず町の中を彷徨いていたら、あの2人組に会って………」
また、暫く時間が空いた。ここは、あまり詮索しない方が良さそうだな。
「そうしてたら空木さん達と会いました。」
最後にそう静かに締めくくった。
「やはり、お互い状況が違うんですね。考えなしに村人の所に行く言ってしまってすみません。」
「いや、私も自分と同じだと勝手に思ってました。問い詰めるようなことしてすみません。」
お互いに落ち着いてきた。
「古屋さん、僕は、骨折した男を兵士のところまで連れていけばほぼ間違いなく命は保証されます。ただ、古屋さんがどうすればいいかが分からないです。」
「はい……私、死んじゃうんですかね?」
「だから、考えましょう。」
「……ありがとうございます。」
「まずは、今、古屋さんを避難民の所へ連れていって大丈夫かについてですが、これは僕も駄目だと思います。」
「はい。まず、私の顔を見ている人がいたら、確実に殺しにくる筈です。加えて、検査に合格しないで脱走した私の扱いを兵士達がどうするかも不透明です。」
「もし、ノイさんの(逃げる者はこの世界で生き残れない。)論法で全員が動いていたら、殺される可能性は高いですね。」
「厳しいですね。」
正直、あれは理不尽過ぎる論法だけど、食料事情とか監獄の定員とか犯罪とか色々な要因が絡み合った結果、あれしか出来ないのかもしれない。
じゃあ、どうすればいい。
「そしたら、2つ目ですね。監獄に戻る……これはどうですか?即処刑は免れる筈です。それに、古屋さんは検査の答えを知っているので、検査があれば容易に合格できます。」
「でも、ずっと監獄にいた証明が出来ません。今着てる服だって……この世界の人の服……なので……このまま戻っても、町に行ってきたことがバレます。多分、おしまいですよね。」
服の話の辺りで、古屋さんの顔が一層暗くなった。
今さら服を盗んだぐらいで目くじらを立てて言及しないよ。
……いや、古屋さんが正常で僕の感覚が狂ってるだけか?
……それは置いといて
盗んだのは、恐らく町のどこかだな。
元の服の在処は服を着替えた家。
そこまで行って元の服に着替えてから戻ってもらう。
監獄に戻る案は、これがセットで案として成り立つ。
「元々着てた服の場所ってどこですか?」
デリケートな質問だ。できる限り、自然な感じで聞いた。
「あの……壁を飛び越えて屋根に乗った家がありましたよね。そこでした……でも、隣の燃えてる家が崩れたので……」
「……もう燃えてる可能性が高いね。」
「はい……」
「他に思いつく案は……森の中に逃げるか……でも、それは一生この世界から逃げ続けることになるかもしれない。」
「…………」
……………………………………………………
思いつかなかった。それ以上、何も思いつかなかった。
「空木さん、もう行ってください。怪我人を避難民のところまで送り届けるのが、空木さんのやるべきことですよね。私は自分でどうにかしますので…それじゃ……」
古屋さんは一言呟いて立ち上がる。
扉を開けた。
いなくなってしまう。
もう、二度と会えないかもしれない。
会えたとしても、それは亡骸かもしれない。
それは……
あまりに寂しすぎる。
彼女は
この世界で
初めて出会った
話し合える
同じ世界の人。
探せば他にもいるかもしれないけど……
今は古屋さんだけ……
今、別れてしまったら
僕は一生孤独かもしれない。
彼女も
もしかしたら……
考えろ考えろ。
録たら努力して来なかったけど、考えることだけは毎日やってきただろ。
今がその力を試す時だろ……
そうだろ。空木弥晴。そうだろ!!
あ、彼女が扉を閉めてしまう。
待ってくれ
待ってくれ!!
「待ってくれ!!!」
「えっ?」
彼女は立ち止まって僕を見る。
何も思いついていない。
今は……時間を稼ぐしかない。
彼女と僕を少しでも繋ぎ止めていられる時間を…
てきとうでいい。なんでもいいんだ。
会話になるものを1つ…話してその間に考えるんだ。
ううぅぅ…………
「あ、あの……最後に……言ったこと……よく………聞こえなかったんだ。………もう…一回……話してくれるかな?」
ようやく思いついた話のとっかかりを絞り出すように声にした。
何も思いついてない。秘策が何も思いついてない。
「は、はい……あの…」
すべての記憶を絞り出せ。
「私は私でどうにかしますので…」
思いつかねぇぇぇぇ。
「空木さんは……」
グヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ……
「自分の目的を果たしてください。」
「…………………………目…………的」
目的…………なぜ…やら…ないと……いけない……生…きる…ため………骨…折男…の……命……守る…ため…………………殺……し…た…こ……とへの……罪……滅…ぼし……………………評………価の……た……め………ポ……イン…ト稼……ぎ………
「なんか………すみません。それ……じゃあ………」
「古屋さん。1つだけありました。それは……果てしなく…まあ…馬鹿げてる………というか……下らないと…いうか………笑ってもらっても結構です。それは………」
「なんですか?」
古屋さんが、若干食いぎみに話を聞いてくる。部屋の中に戻ってきた。
やべぇ。
ここまできたら、マジで言うしかない。
こんな……録でもない策を言うしかない。
「ホントに下らないですよ。」
「下らなくていいです。」
……腹括るしかないな。
「分かりました。それは……ルシュフォールさんの所に行くことです。」
「行って一体どうすれば……」
「土下座で助けてもらうようにお願いをします。ルシュフォールさんは、先程隣の家で戦っていたニルト・ベラという男も知っていたこと。ルシュフォールさんと途中から同行していた兵士がどことなく尊敬の眼差しを向けてたこと。仲間がいる中で先行して1人で戦場に現れたこと。そして、何より雰囲気です。」
雰囲気はまずかったかな……
「以上の理由から、ルシュフォールさんがそれなりの大物だと推察してます。一介の兵士に命乞いしたり、森の中に逃げて逃亡生活を送るよりは多少は……雀の涙は生存確率が上がると思います。」
「分かりました。そのルシュフォールさんという方を探してお願いしてみます。」
決断が早かった。僕なんか今でも少し迷ってるけど、古屋さんは覚悟が決まってる。
「空木さん。ルシュフォールさんという方の身なりを教えてもらえますか?あと、今いる場所のおおよその位置も知ってれば、お願いします。」
古屋さんは完全に1人で行くつもりだな。
だったら僕も……
「ルシュフォールさんの見た目は、黒を基調にした衣服を纏っていて、コートを羽織った老人です。頭はU字ハゲで、顔にはシワが異常に多いです。現在地は不明ですが、市街地にはいる筈です。」
「ありがとうございます。もし、生きてたら、もう一度お礼に伺います。」
古屋さんはペコリと深くお辞儀をして扉を開けた。
「待って!僕も行きます。」
「……それは出来ません。空木さんにこれ以上、迷惑はかけられないです。」
いや、そんなこと言われたらなんとしてでも行きたくなるのが人の性でしょ。
「でも、行きます。付いてくるなと言われたら、勝手に付いていくだけです。」
古屋さんは暫く考え込んだ後……
「……ありがとうございます。でも、怪我してる人は?」
「勿論、連れていきます。」
「え……流石にそれは……」
「男を避難民のいるところまで連れて行ってたら、ルシュフォールさんの仲間が確実に町に到着すると思います。既にこの町にいるかもしれません。時間が経つ程、動きづらくなります。それにこの男の出血してる所はどこも軽い擦り傷なので、すぐには死なないです。」
……………………………たぶん。
「言い出しっぺなので、僕が担いで行きます。最悪、古屋さんだけでもルシュフォールさんの所にたどり着いてください。」
「…………本当に…ありがとうございます。でも、何でそこまで?」
理由は色々あるけど、古屋さんの納得するように言うとしたら……
「1つは今後のためです。あともう1つは、僕も行った方が古屋さんの生存率が上がるかもしれないからです。まあ、これも雀の涙程ですが………後悔は残したくないので。」
「はい。………お願いします。」
彼女はもう一度深く頭を下げた。
僕は素早く骨折男を再び担ぐ。
同時に中位精神魔法“安らぎ”をかける。
男の体重がかかると両足から血が染み出てきた。
痛い……
火傷が悪化してる。
早く治療しないと………
骨折男は相も変わらず呻き声を上げている。
まだ、元気そうだな……
死なないでくれよ……
……マジで頼むぞ………
もし、お前が死んだ状態でルシュフォールさんに会ったりなんかしたら「どの面下げてやってきたんだ?」って言われかねない。
「どの面下げてやってきたんだ?」
「おぉいおぉい。久しぶりに顔見せに来たんだから、もう少し温かく迎えてくれたっていいじゃないですかルシュフォールさぁん。」
「結界の術者を殺したのはお前か?」
「さあねぇ。仮にやってたとしても、認める訳ないじゃないですか。まあ、水使いで1人だけ。奴はそこそこでしたわ。ハッハッハッハ。」
「俺に喧嘩を売りにきたのか?」
「喧嘩じゃないですよ。挨拶に伺っただけですって。礼儀正しく。あぁ、そういえばお仲間の皆さんにも挨拶してきたんですよ。」
「何をした。」
「イヤー、ちょっとした挨拶だけですよ。皆さん粒ぞろいの素晴らしい人達だ。俺程度がどうこうできる訳がない。ハッハッハッハ。」
「まあ、そうだろうな。頭に1発もらってるくらいだ。さぞ苦戦したんだろうな。」
「あ~これすか。違いますぜ。ルシュフォールさんお得意のフルスペックがかかったウツロギって少年からもらいましたわ。」
「名前を聞いてるということは………気に入ったのか?」
「ええ!!お気にですよお気に。……あいつ、強さは別として、メンタルはこっち側ですよ。今日が初戦なんですよね?」
「ああ。」
「いやぁ、マジでビビりましたよ。未経験者が初戦で躊躇なく闇討ちなんて出来ないのが普通。殺気全開で及第点。だが、野郎は違った。殴られる瞬間まで気づかなかったんですよ。まあ、多少の油断はありましたし、小娘が幻影魔法を使っていたのもありましたが、ウツロギミハル……奴は仲間に欲しいですねぇ。」
小娘?
今はこちらが先だな。
兵士達は十分距離をとった。
これ以上、時間を稼ぐ必要はない。
「なんですか。ルシュフォールさぁん。だんまり……後ろかよぉ。」
バコン!!!
「オイオイオイオイオイオイ!!!危ないですよ。丸腰なんですから、もう少し手加減してくれてもいいじゃないですか?まあ、アンタも丸腰みたいなものか。」
バコン!!!
ドカン!!!
「あらあら、家が潰れたミカンになっちゃった。いや、燃えてるから焼きミカンか。俺までこんがり焼けちゃいそうだ。レベル6。今度は俺の番だ。」
バコン!!!
「何?」
先程よりも手応えがない。
ダッ!
「ふう。これならマトモに戦えそうだぜ。」
ダッ!
「ベラ……その魔法は一体なんだ?」
「魔法ですぜ。」
「教えるつもりはないか。」
「おーらよ。」
俺とベラの拳が衝突する。
その力は拮抗していた。
彼はもう、かつての少年ではない。
勝てなくなる日もそう遠くない。
古屋さんの魔法を使って周りの景色に紛れながら、ルシュフォールさんを探す。
古屋さんいわく、音や臭いは消せないみたいだから、慎重に移動する。
骨折男も空気を読んでかあまり声を出さない。
骨折男、死んでないよな?
声が出なかったら出なかったでハラハラする……
「空木さん、あっちの方に例の2人組がいました。」
「分かりました。迂回した方がいいですね。」
「はい。」
「あの、答えたくなければ答えなくていいんですが、あの2人組になんで捕まったんですか?古屋さんの魔法なら捕まるどころか見つかることすらなかったと思うんですけど……」
「あ……ちょっと気を抜いてたら魔法が解けてたみたいで、見つかって火の玉投げられてですね。そしたらもう、慌ててしまって魔法が使えなくて……」
ドジッ子かよ!!
でも、ドジッ子って言ったら絶対ムッとするタイプだ。
まあ、使いたいタイミングに限って魔法を使えない僕も、大差ないか。
「そういうこともありますよ。この世界に来てから数日しか経ってないので魔法を使いこなすなんて無理です。僕もそういうことあるんで大丈夫ですよ。」
「空木さんでもあるんですね。良かった…あ…空木さんちょっと来て。」
古屋さんが慌てた様子で2人組のいる方向を指差す。
見にこいってことか。
「え、なんですか?迂回するってさっき…」
そっと建物の陰から顔を覗かせる。今度は、古屋さんの光学迷彩があるので、バレる心配はない。
「●◇@◎α◆*£●◎!」
マジかよ……
あの声、このシチュエーション。
これで、2回目じゃねぇかよ。
炎魔法を扱う兵士が、あの2人組に囲まれてる。
ルシュフォールさんどうしたんだ?
まさか……あの2人のうちのどちらかに?
いや、流石にそれはない。
恐らく、何らかの理由で兵士が単独行動になって、それでああなった。そう思うことにしよう。
兵士は炎魔法を使ってギリギリで戦っているけど、異世界人の炎魔法の方が若干上手だ。押されている。
なんとなく、兵士の動きに無駄が多い。自分の方向に撃たれない火球まで相殺している。
そういうことやってるから囲まれるんだぞ。
隣の古屋さんの髪を引っ張ってた男は、何もしてない。1人で十分ってことか?
「●◎◇@◆◆£*◎◇▲〇!!!!!!!!」
炎魔法の異世界人の声……いや爆音が耳をつんざく。
そして、声の主に引き寄せられるように僕の体が動き始める。
何かまずい気がする!!
絶対にまずい!!
即座に精神魔法の効果を骨折男から僕に変える。
体が止まった。
良かった…
ザッ
ってまさか!
前を見ると古屋さんが歩き始めてた。
そこで、急いで古屋さんに精神魔法をかける。
「え?なんで私?」
「いいから戻って」
「はい。」
古屋さんが魔法をかけてくれてて良かった。
もし、魔法を解いていたら、僕らも強制的に戦闘に突入だった。それぐらいの状況だった。
突入するにしても、態勢を整えてから行きたい。
先程の爆音は、言葉が分からなくても効果が出ることから、恐らく精神魔法だ。しかし、自分の魔法よりもずっと攻撃的なもの。
……あの兵士もまさか!!
即座に建物から乗り出して兵士を見る。
兵士は……なんともなかった。何事もなかったかのように平気な顔をして、火球の撃ち合いをしている。
なぜだ?わからない。
効く人間と効かない人間がいるのか?
或いは……
な!?
子供が、兵士の背中側にある家から出ようとしてる。よく見ると周りが子供を押さえてる。
よく見ると出ようとしてるのは子供だけじゃない。何人かいる。
だから兵士は建物を庇うように火球を放ってたのか……
子供達は、あのままじゃいずれ外に出てしまう。
助ける方法は、きっと……僕があの家の中に入ることだ。
そして、精神魔法で治す。
勝算とか何もないけど、行かないと……
全員見殺しだ。
それに、少しでもこういうことでルシュフォールさんのご機嫌をとった方が、古屋さんの話も上手くいくかもしれない。
だかな。考えてみろ。ルシュフォールさんの支援魔法がかかっている状態でも逃げるのがギリギリだった相手に、今度はそれなしでこっちから向かってくんだぞ。無理だろ。
考えるな。
考えるな。
考える程に僕は悲観的になっていく。
今は助ける。それでいいんだ。
よし。行こう。
自分は決まった。
骨折男は置いていけない。
連れていく。
あとは…
「古屋さん。兵士の後ろの家に子供がいる。他にも何人かいる。僕は今から兵士の応戦に行くつもりだけど、古屋さんはどうする?顔を見られた人がいたら終わりかもしれない。先にルシュフォールさんを探してここに呼んできてもらうという方法もある。今すぐ決めてくれ。子供は精神魔法がかかってる。早く行かないといけない。」
「行きます。今は幻影と光学迷彩はあった方がいいです。」
即決。スゲーよ。
「ごめん。骨折男、これからリベンジマッチだ。心してかかれよ。」
「??」
骨折男。
攻撃はお前が便りなんだ。
頑張ってくれ。
マジで。
ほんとマジで……