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横文字だらけで読みにくくてごめんなさい。ストーリー考えながら書いてるもんで、読みやすさとか全く以って考慮できてないんでう。

 ゲーム、というのも、あながち間違いではない。


 相手を見定め、見極め、攻略。いわばゲームのミソに当たる要素はしっかり存在する。違うのは、そこにあるリスク。一度地雷を踏んでしまえば、それだけで命が危ぶまれる。しかしそれは互いに同じで、この世界の住人は誰もが慎重で、賢明だ。


 昔の持ちつ持たれつのインターネットとは違う。現代のハッカーの世界は、そういうものだ。


17:56


 高くそびえ立つポート・タワーの電光板の、浮き立つ数字を横目で確認する。


(まだ、暗いな)


 この時間、四月の空にはすでに夜の帳が落ちている。ビルの接続橋の欄干に手をかけ、そこから見下ろす裏通りからは、地上に張り付く光の帯がきっちりと見て取れた。保存工事の進むスカイツリーと広がる夜景は綺麗だった。人種入り混じる国際社会になった今も、昔とほとんど変わらぬ東京を表している。


 エルクは、その夜景の映った青く澄んだ瞳で、何度か瞬きをした。


「冴えてきたかな、そろそろ」


 夜更かしや徹夜を繰り返しているうちに体が夜に慣れたのだろう。エルクはいつからか夜型の人間になっていた。


 彼は着ているパーカーのポケットから、ワンレンズ型(ランナーが使うような湾曲型のもの)のサングラスを取り出す。もちろん、ただのサングラスではない。つるの部分が大きく、そして両端には何かの電極が飛び出している。

 


「(ON)」


 思考すると、視界にいくつかのウィンドウが現れた。3D仕様ではない、初期のコンピュータで使われていたディスプレイ方式だ。


 エルクが二十年ほど前のデバイスを流用して作った、自作のプライベートARだ。流用した、とは言うものの中身のファームウェアなんかは、エルクが丸々作り直している。

 例えば、二十年前の端末にそんな流暢な脳波検知機能は備わっていない。代わりとして、首掛け型のリストモから取った脳信号を、橋渡しで使う、なんてこともしている。


 視界端の時刻は、そろそろ18時を指す。


「なあ、ラック。奴はどこだ?」


 エルクが虚空に話しかけると、返事はどこからともなく聞こえてくる。


『はい、例の《beast》はまだ居ないようです』


 ARサングラスのスピーカーから、AIアシスタント、ラックが流暢な声を奏でる。ノイズ一つない声は爽やかで、同時にどこか卑しい風にも聞こえるようだった。

 文字通り“計算された”声が、エルクに状況を伝えた。


『ブランク・ネットワーク内でも、特に妙な動きをする人物は見ませんでした。それと、アクティビティモニタも監視していますが、怪しいアプリケーションなんかも見当たりませんでしたよ。――勿論、『clone』と言う文字も』

「……ああ、分かった」


 思考制御でコマンドライン上に文字列を打ち込む。キーボード直打ちは大得意でも、思考入力の方はいまだに慣れていない。長めの数列を何度か間違えながらも入力しきると、そこからさらにいくつかのウィンドウが現れ、数字の羅列が一桁ずつ走査していく。

 数値が切り替わりながら、そこに打ち出される結果は全て『false』だ。


 何か妙だ。いつまでたっても何の兆候も、アクションも起こして来ない。


「見つけたか?」

『いいえ、何も』

 ラックが端的に答える。時間は18時を回った。

「……取り敢えず、あと五分は続けてくれ。過ぎたら、ここは切り上げる」

「分かりました、タイマーをセットしておきます」


 ディスプレイに5:00のタイマーが現れ、1秒ずつ減り始めた。それを見届けると、エルクは欄干の下からビル内の電気屋へと向き直った。


 エルクの一番近くの売り場には、壁際にいくつも3Dインジェクターが設置されている。

 リビングに置いて映画を見たりするような、オブジェクトの映像美なんかに特化した高価なものだ。コントラストが強すぎることもあって、エルクは敬遠している。それに、単純なグラフやテキスト以外に表示する必要のないハッカーに、あの類のインジェクターはオーバースペックなのだ。

 今流れている映画は、最近話題にもなったサスペンス物らしい。随分と昔の映画のリメイクのようで、『刺激が強過ぎる』と問題になっていたりもした。

 今も赤い風船を手にしたピエロが、狂気の笑みでどこかから顔を覗かせていた。見るに、確かに生々しい。腕を食いちぎる様など背筋がゾクゾクする。



 その時ふと、右端のインジェクターが消灯した。


(……故障?)


 その唐突な消え方に、エルクは違和感を持った。一瞬だが、ノイズが走ったかのように見えたのだ。


「ここの電気屋のポートを探してくれ、入ってみる」

『ポートですか?分かりました』


 ラックの言葉が言い終わる前に、ポート番号とその場所のデータが表示される。ラックがいて嬉しいことは、セキュリティーの薄い相手のハッキングを任せられることだ。

 暗号鍵をお手製の解鍵ツールで突破する。


「メインコンピュータ……場所は一階だ」


 コマンドを打ち込み、そこに接続されたデバイスの一覧が上から順に流れてくる。ほとんどが自動で名前付けされたもので、数字とアルファベッドの組み合わせだ。

 その長い文字列の中に、ふと現れた空白。


「(BREAK)」


 咄嗟にスクロールを止めさせる。今度はゆっくりと、流れてしまった文字列を上へと辿ってゆく。そしてようやく、違和感のある文字列を見つけ出した。


 まさに、探していた単語だ。


「《beast》、まさか……!?」


 突如、右端のインジェクターに映し出されたのは、挑発を表す、一言。

『『YOU ARE TRAPPED ME(お前を嵌めてやったぞ)』』



 それが最後の合図だった。

 エルクのいるビルは、突如、停電した。


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