スキル判別の儀
僕の住む村はそこまで大きくはない、らしい。
広さだって、子供の足でも走れば結構すぐに村の入り口から出口まで行けてしまう。
人の数も、正確な人数は分からないけど、同じ年代になる10才の子供は僕と彼女だけしかいないから、間違いないと思う。
まぁ、時期がズレてたみたいで、僕の一つ上と一つ下は5人くらいいるから案外そうでもないのかも?
予定より早く着いたけど、村の中心で待っていてくれていた司祭様は、思ったよりもおじいさんだった。
向かいの家のおじいさんよりも優しそうな雰囲気だ。
司祭様は僕らを見付けるとにこにこと笑顔で挨拶をしてくれた。
「こんにちは。君たちがこの村の10才の子かな?」
「はい!ぼくたちふたりだけです!よろしくおねがいします!」
元気よく返事をすると、皺の多い顔をくしゃりと曲げてそうかそうかと僕らの頭を撫でた。
「では早速儀式を始めようかのう。説明………は短めにしとこうかの」
わくわくと司祭様を見ていたら暖かい目で見られた気がする。
よくわかんないけど、早く始めて欲しいからどうでもよかった。
司祭様は優しい目のまま、少し真面目な声で語り出した。
「これから君たちに『スキル判別の儀』を行う。これは君達の潜在能力や才能と言ったものを文字にして現す事が出来る。例えば『算術』や『目利き』のスキルが判別されれば商人として大成しやすく、『剣術』『闘争心』といったスキルなら冒険者や騎士として有名になれるじゃろう。」
騎士。その言葉に思わずごくりと喉を鳴らす。
僕が楽しみにしていた理由、それがこの儀式によるスキルの判別。
もし少しでも戦いに使えそうなスキルがあれば、騎士団に入団することも夢ではないのだ。
僕の憧れの………夢への第一歩になるかもしれないから。
「スキルは判別される瞬間まで何が手に入るか分からん。才能じゃからな。じゃが、手に入れた瞬間にそれを認識することで体に影響が出るとされとる。」
けれど、スキルは何が出るかは誰も予測できないらしい。知ってる。
だからずっと楽しみにしていて、ずっと怖くて眠れなかった。
ふと、隣を見るとあの子も真剣な目で司祭様の言葉を聞いていた。
そう言えば、彼女は何か将来の目標はあるのだろうか。いつも僕が話していたから聞いたことがなかった。後で聞こう。
「あとから努力次第でスキルが生えることもあると聞く。この儀式が全てではないが、将来の一助になればよいと思う。」
司祭様と目が合う。
「さて、それでは始めようかの。」
司祭様は特殊なスキルを持っている。
『鑑定』と呼ばれるそのスキルは、鍛えることで物や人の本質を見抜くらしい。
この儀式を行う司祭様はみんなこのスキルを持っているみたい。
司祭様が相手の頭に手を置いて、暖かい光を感じたら、それを相手が受け入れる。
それだけで儀式は終わり。司祭様の目に相手のスキルが浮かび上がるので、それを読み上げてもらうのだ。
今更だけど、周りには村の人が何人か集まっていた。
やっぱり子供でも他人がどんなスキルを持つことになるのか気になるんだろう。
視線を感じる。少し恥ずかしくて、目をつぶって司祭様が頭に手を置くのを待った。
頭上から暖かさを感じる。受け入れる。
後は司祭様が僕のスキルを読み上げるだけ。
………。
………。
………?
一向に声がかからないので目を開くと、さっきよりも更にしわくちゃの難しい顔をした司祭様が立っていた。
「しさいさま?」
「………。」
司祭様はおもむろに近くの木の棒を拾うと、地面になにかを書き出した。
「儂も初めて見る文字じゃ。すまんが読み方もわからんかった、間違いなくスキルではあるが………。」
『RTA』
周りにいた村の大人たちも覗きこんでいたが、誰一人どんなスキルなのか、どんな読み方なのか分からなかった。
隣の幼なじみが気遣うように目を向けてくる。
騎士になれるようなスキルか………はっきりしていないから落ち込んだと思っていたのかもしれない。
もっとも、その時の僕にそんな余裕はなかった。
『RTA』その文字を見た瞬間に体に起きた異変。
スキルは認識した瞬間から本人に影響を及ぼす。
頭の中で、抑揚のない声が響く。
【魔王を滅ぼして剣聖を目指すRTA、はーじめーるよー】