憧れの始まり
小さい頃、僕がまだ両親の腕に抱かれていたときの記憶は殆ど覚えてない。
別に、僕の物覚えが悪いとか、悲しい記憶に蓋をしてしまったとかそう言うことではなくて、幼い子供だったから。ただ単純に色々な事が新鮮で目新しくて、ころころと興味が変わったから深く覚えていないだけだ。
けど、そんな中でもずっとずっと覚えていることがある。
いつもより高い所から見えた景色は、僕の心の中で今でも残っている。
「………かっこいい。」
その頃の僕には理解できなかったけれど、村の周りに沢山の魔物が出たらしい。
大人たちは忙しなく動いていて、村を囲うように大きな柵が立てられ、至るところに松明が立ち、自分の家も窓から扉まで板で補強されていた。
誰もが不安な顔で歩いている。
訳も分からず、僕も不安になって父親と母親に抱きついていた。
『もう大丈夫だ!』
急に聞こえた大きな声。
驚いて声の方に顔を向ける。
続いて村の皆の顔が、声が変わった。
「よかった…」「助かったのか?」「ああ…ありがとう!ありがとう!」
誰もが村の入り口に集まっていた。村の外から誰かが来たみたいだけど、まだ足元も覚束ない僕には、何があったのか訳がわからなかった。
必死に覗こうとする姿を見かねて、父さんが肩車をしてくれて、漸く皆の集まる奥を見る。
白銀。
太陽に反射する鈍色の鎧と兜を纏った人が………何人もの騎士達が並んでいた。
槍と剣と盾を持ち、そのどれにも映えるような赤い薔薇の紋様がついている。
真ん中の騎士………さっき大声を上げていた騎士を中心に、一矢乱れぬ格好と並びをしていた騎士達に、僕は圧倒されていた。
『村人たちよ、よく持ちこたえてくれた!我々が来たからには安心して欲しい!』
『我ら王都赤薔薇騎士団が全ての魔物を討伐してくれよう!』
幼い僕はよく理解していなかった。
でも、彼らを見て喜び涙する村の皆の姿を見て、彼らの自信に満ちた立ち振舞いを見て、その大きくも優しい声を聞いて。
どうしようもなく憧れて。
「かっこいい………!!!」
それが僕の始まりだった。