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8、ギルドスタッフ、最強の能力者の出現に興奮する。




「えぇぇぇええええええ!??」と彼女は驚嘆の声をあげる。ためしにタイムを声にだしてみた。






「4分23秒37!?  はぁ?  4分23秒37!??」






 彼女の名はエロス。きっと本名があるのかもしれないが、いつもメガネをかけているし、胸が大きいし、ピシッとした服を着ていて、とにかくエロ先生ティーチャーの雰囲気を醸し出していたので、そう呼ばれていた。




 彼女は、時を正確に計るスキルの持ち主だった。






 だから、いつ頃からか、彼女は自主的にタイムを計るようになった。






 モンスターハウス全滅までにかかったタイムを。






 この4分23秒37、という数字は、モンスターハウスが襲来してから全滅までにかかった時間である。




 彼女のレーダーは至る所に張り巡らされていて、モンスターハウスが街に侵入した瞬間からカウントが始まる。






 ちなみにこれまでの最短記録は18分43秒22。






 記録の更新。






 新記録だ。いや、世界新記録!






「すごいわ。いや、凄いなんてもんじゃないわ。世界新記録よ。これは絶対に抜けない記録だわ! すごい!!」








 エロスは冒険者ギルドを支えるスタッフの一人でもあったから、こういう記録を好き勝手に冒険者の掲示板に貼りだすことができた。






 だから、当然貼りだした。






 すると、タイムを書いた用紙を掲示板に貼りつけた傍から「うぉおおおお」という冒険者達の声が耳に入り込んできた。






「4分!? 4分だって? エグいぞ、これ」


「おいおいマジかよ。たしかに戦い始めた、と思ったらすぐに終わった感じはあったけど……」


「ぶっちぎりの新記録じゃねーか」






 そんな浮かれる冒険者たちを見て、エロスは目を細める。


 エロスは自分が提供した情報で沸き立つ冒険者の様子を眺めるのが好きだった。


 自らの手で計測した情報が他の人の感情に影響を及ぼしている、という状況がたまらなく好きだったのだ。








 しかし、同時に引っかかってもいた。






 今回のモンスターハウスは大体2年前のモンスターハウスと同規模だった。2年前のタイムは30分18秒97だ。大体、それが平均タイムと言っても差し支えない。今までの最短記録18分43秒22だって、モンスターハウスの規模が今回と比べて半分ぐらいの規模だったと記憶している。




 つまり、今回こそが異常なのだ。






 なにか、おかしな要因が働いているとしかエロスには思えなかった。






 ――どうしてこんなタイムになったのだろう?






 すると、冒険者の一人が言った。






「今回のタイムが短かったのは、アレのせいかもな」






 アレ? とは何だろう、とエロスは思い、聞き耳を立てる。冒険者たちは、その冒険者に賛同するように各々が喋りはじめる。






「ああ、アレか! たしかにアレかもな」


「ああ、アレだろ。アレ。間違いないな。アレのおかげだ」






 ――アレってなんなのよ。アレって。






「アレ? ああ、アレか」


「そうそう。やっぱりアレだよな」






 だからアレ、って何なのよ。この冒険者共どこまで語彙力が消失してるのよ! まるでボケ老人のように喋るじゃない! あーもう無理。無理だわ。気になる。私、気になります!






「アレアレ言うんじゃなぁああああああい!」と叫んだエロスは冒険者たちの前に躍り出てまくしたてる。






「アレアレ言うんじゃない! 単語があるでしょ? お父さんやお母さんに教えてもらわなかったの? 固有名詞があるでしょ! すぐにアレって言葉に逃げるんじゃなーい! アレとは何かを説明しなさい! 今! すぐ! ここで! では、そこのひょっとこみたいな顔をした人、さぁどうぞ」






 ひょっとこ男は、え? ひょっとこって何? という顔をしたが、エロスは止まらない。




「早く! 時間厳守よ、時間厳守! 私の貴重な時間を無駄にする気?」




 やむなく、ひょっとこ男は答え始める。




「え……っと。え……」




「早く! 早くよ! わざと遅く言ってるの? もうここのギルドを出禁にするわよ!」




「そ、そ、その……。手……です」




「手?」とエロスは聞き返す。




「そ、そうです。ちょうど頭の大きさほどの暗黒の渦がモンスターの周りに、う、浮かんで、そこから手が飛び出してきたんですよ。な、なぁ?」と、ひょっとこ男が周りに同意を求めると、周りの冒険者が皆うなずいた。ひょっとこ男は続ける。




「そ、その手には剣が握られていて……。違う。いや違うな……。針だったかな? それが握られていて、モンスターを次々と刺していったんです。すると、モンスターがまるでしびれたように動かなくなって……。そ、それで、俺たちがとどめを刺したんです」






 エロスは、目をパチクリさせる。




「針?」




「そ、そうです」




「何なのそれ、新しいスキルかしら?」




「さ、さぁ」




「……」




 エロスは思った。これは物凄いスキルをもった人物がこの街にいるのではないか、と。冒険者ギルドでは、冒険者に等級がつけられる。E・D・C・B・A……そして最上級のS。




 ひょっとして、Sランクの冒険者がこの街にいるのかも。






 ヤバい、どうしよう。とってもワクワクしてきたわ。




 エロスはこれまでにない興奮を覚えていた。

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