5、裁縫士、自分のスキルを調べる。
なるほど、なるほど、とぼくは何度も頷いた。
ぼくは自分のベッドの上で足をばたつかせ、目の前の青い文字と睨めっこしていた。
ぼくはベッドの端っこに投げ捨てられたウールのセーターを手に取る。これは冬用なので、今は着ないが、裁縫スキルの実験のためにタンスから引き出したのだ。
ぼくは選択画面の中の異次元裁縫を選択すると、いつもどおりの手順でどんどん進める。糸の種類を指定して、太さも指定した。
そして、ここだ、と思った。
≪次に、モデルの指定を行います≫
そう、モデル。これが肝だったのだ。
ぼくは、瞼を閉じないように注意深く目を開きっぱなしにすると、ウールのセーターを両手にとり、そして、しっかりとセーターを見つめた後に両目を閉じた。
≪モデル了解≫
すると、またこの間のように両手が勝手に動き始める。元々持っていたウールのセーターを足下に投げ捨て、棒針をしっかりと握りしめる。異次元の穴から伸びてきたウールの毛糸が棒針を絡め、高速で動く。その速さは目で追えないほどだった。
シャシャシャ、という空気を切る音がする。
そして、頭の中でチーン、という音が響くと、ぼくの手には足元でクシャクシャになっているセーターと全く同じものが出来上がっていた。
やっぱり、ぼくの仮説は正しかった。
この能力は、ぼくの目で見たものと瓜二つのものを作る能力なんだ。
そして、同じものを生産するためには、青い文字に書かれている、左側を選択すればいい。
≪もう一度同じものを作りますか? これで終了しますか?≫
――もう一度同じものを作ります。
すると、また異空間から毛糸が伸びてきて、あっという間にもう一着のウールのセーターが出来上がった。
「おおおお」と思わず声が出た。何度見ても凄いな、やっぱり。
そして、幾度か試してみたが、タンスとか石畳とか、そういう衣類じゃないものはいくら瞼を閉じても、モデルとして認識されない。
うん。なるほど、とぼくはまた独りで頷く。
とにかく、このスキルのことが段々と分かってきた気がした。
まぁ、あくまでもほんの少しだが……。
「ねぇお兄ちゃん。今月の返済どうしようか?」と妹のルルが台所で調理をしながら大声をあげる。「いちおう昨日稼いだ170ベイルで足りるけど……、そうなると食費が……」
今月の返済……か……。
ぼくら兄妹は借金で生活している。いろんなものを売り払ったり、お金のやりくりをしながら生きているのだ。
ルルは溜息を尽きながら言った。
「またジャックに借りようかな。あいつの家金持ちだからさ。それで、そのお金でリーン金融に返済してぇ」
「ちょっと待って」と、ぼくはルルの話を遮った。
そしてベッドから飛び起き、台所へと歩いていく。
「なぁにお兄ちゃん?」妹のルルは突然近づいてきたぼくに顔を赤らめる。「別にベッドで寝たままで良かったのに、だって声、聞こえるでしょ?」
「ちゃんと目を見て話したかったんだ」
「ふ、ふーん」
「あのさ、確かまだ返済日まで猶予があるだろ? 一週間ぐらい」
「うん」
ぼくは、頬の片方をつりあげた。
「ぼくね、思いついちゃったんだよ。とってもいい方法をね。だから、この間の170ベイル、ぼくに預けてくれないか?」
「え?」とルルは目を大きく見開く。
「大丈夫。今回は自信があるんだ」