20、裁縫士、覚醒する。
その時、ぼくらはちょうど櫓の中にいた。
そこは、周囲の二階建ての建物より高く、360度見渡せる場所だった。
だから、よく見えたのだ。
360度からこちらに向かって攻めかかろうとする敵が。
敵は槍をもち、剣をもち、一斉に攻めかかってきた。
まるで大きな円が収縮するように、皆一斉に走ってこちらに向かってきたのだ。
その光景を見たルル、ちよさん、そしてジャックは、言葉を無くしていた。
それほどショックだったのだ。
誰かが誰かを殺そうとして、こんなにも大勢の人が攻めかかってくるなんて……。
そんなことがまさか自分の人生にふりかかってくるなんて……。
皆が戦意を無くすなか。
ただ一人ぼくだけは違った。
ぼくならやれる。
やれるはずだ。
この力は、この瞬間の為に授けられたのだから。
「ジャック!」とぼくは叫んだ。「誰もここに近づけさせないでくれ。ぼくの力は近づかれたら終わりだ。だから一階に降りて、絶対に敵がここまで登ってこれないようにしてくれ」
「でもよう……スノウ……これは無理だぜ」
「まだ決まったわけじゃない! そうだろう? ぼくの能力ならまだなんとかなるかもしれない」
「……」
「ジャック! 君のちからが必要なんだ! 一階から敵が上がってこれないようにしてくれ! いいね!?」
ジャックの目に炎が宿る。
ジャックは短く「分かった」とうなずき「お前に賭けるぜ!」と叫び、櫓の下へと降りていった。
「わたくしも!」とちよさんがジャックに続きハシゴを下ってゆく。
櫓の一階部分からこの二階部分にいくには細く長いハシゴを登るしかない。
敵がくるなら絶対にそこから。
ジャックが一階で敵を食い止めてくれれば、絶対にぼくならやれるはずだ。
ここに残ったルルが「お兄ちゃん?」と眉をひそめた。「能力って?」
「能力は能力だよ。スキルさ。裁縫スキルのことだよ」
「え? え!? ごめん、ちょっと意味わかんない」
ぼくは笑った。
たしかに意味が分からないよね。
気持ちはよく分かるよ。ルル。
すでに敵はアヴァロンの街に入る寸前のところにまで来ていた。
「それはね……、こういうことさ!!」
ぼくは、そう叫びスキルを発動した。
ぼくの両手が黒い渦の中に吸い込まれ、そして、迫りくる敵の合間を縫うようにして黒い渦が出現した。
すると、歯をむき出しにし、アヴァロンに向かって剣を振り上げていた敵が、一人ずつ倒れてゆく。
一人、また一人。それはまるでドミノ倒しのように倒れてゆく。
前の人が倒れ、それに覆いかぶさるようにして次の人が倒れてゆく。
顔面蒼白で戦闘の準備をしていたアヴァロン市民や冒険者たちは呆気にとられていた。
何が起こっているのか、さっぱり訳が分からなかったからである。
その光景を一階から見ていたジャックは大笑いした。
「すげーーー、すげーーぜスノウ! お前は最高だ! 最高だぜ!! ヒャーハッハッハッハッハッハッハ!!」
ぼくは片方の頬をつりあげた。
これほどジャックの高笑いが気持ちいいと感じたのは初めての経験だった。




