19、南部のオカマのラボク将軍、自分に酔い、進軍する。
「まったく、すっっっばらしいじゃないの~」とラボク将軍は言った。
もちろん、自分の手際の鮮やかさについて、である。
ラボク将軍はオーウェン公爵の片腕で今回の軍勢を率いる立場にあるオカマである。青いアゴ。胸毛びっしりのオカマ。
そして、そのオカマは自分自身のことをこう思っていた。
自分ほどの天才はこのミッドランドには存在しない、と。
「ラボク~ラボク~天才ラボク~~~。あ~~~もうほんっっっっとうに痺れちゃう、わたしの手際に~~」
オーウェン卿は女王キャロラインから受けた侮辱により、今回の反乱を決意した。だからこそ、ラボク将軍は当然それを実行するためにここにいる。
通常、こういう攻撃の際にはそのまま攻めかかったりするものだが、ラボクは敢えて街を包囲する、という手段をとった。
ここでアヴァロンの住民たちを派手に殺すことによって、他の王家の治める街の住人が恐怖を感じ、雪崩をうって南部軍に合流するきっかけを作ろうとしたのだ。
「のちのちのことまで考えるなんて……わたしってやっぱり天才っ! あぁぁん。最高。わたしって本当に最高っ!」
すると、丘の上で陽気に踊るラボク将軍に伝令が下馬し、近づいてきた。
「ラボク閣下、北の配置、整いました」
「うふん。オーケーよぉ」と、ラボク将軍は言うと、近くにいる大柄の男“ゲドゲド”に耳打ちした。
「さぁいきましょうゲドゲド。これで、北も南も西も東も整ったわ。あとは殲滅するだけ。さぁ合図をだしなさい。進軍の合図を」
大柄な男ゲドゲドは大きな腹をかかえ立ち上がり、近くの太鼓を鳴らす。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! と三回。
それからゲドゲドはまるでオオカミのように遠吠えした。ウゴオオオオオオオ、という唸り声と言い換えてもいい。とにかく、そのような声を発したのだ。
すると、それを合図にアヴァロンの街を取り囲んでいた南部軍が一斉にアヴァロンへ攻めかかる。
その光景を見てラボク将軍は高笑いをする。
「さぁ、どーんと殺すのよ! どーんと!! ぐっちゃぐちゃにしてあげなさい! 皆死んでおしまいなさぁい! あーっはっはっはっはっはっはっは!」
そう叫んでから、またラボク将軍は得意の水の舞を踊り始める。こういう時のダンスほど素晴らしいものはないからだ。
しかし、この時、踊るラボクは、ある可能性を頭に入れていなかった。
この世には、戦術、戦略、そういうものを超越した存在がいることを。
何万という軍隊をほとんど一瞬で葬り去ることができるほど、物凄い能力の持ち主がこの世に存在している、ということを忘れてしまっていたのだ。