18、裁縫士、南部の反乱を知り、右往左往する。
ミッドランド王国は、四人の公爵が北と南と西と東に領土をもつ王国で、王家は残った中央から四人の公爵に命令を下す立場にあった。
ぼくの暮らすアヴァロンの街は、王家の所有する、通称“王領”にあり、その王領の中でも最も南に存在した。
つまり、南部のオーウェン公爵領と非常に近い場所にあったのだ。
今回オーウェン卿が反乱した経緯は分からない。
一ヶ月ほど前、ぼくらの女王キャロライン陛下と南部のオーウェン公爵が酷いののしり合いをしたらしい、とは聞いていたが、まさかそれで反乱した、というのもおかしな話だし……。真実は分からない。
とにかく、オーウェン公爵はミッドランド王家を潰すために北進し、運悪く、ぼくらの街はその途上にあった、というわけだ。
「どどどどどどどどどーーーしよう!」と妹のルルが涙目でぼくに訴えた。
ぼくはあれから家に戻り、オーウェン卿が攻めてきた話を妹とちよさんに告げたのだ。
妹は泣きながらぼくに抱き着き。ちよさんも抱き着いてきた。ただし、ちよさんはまったく事態が把握できてないのか、ぼくに抱きつけることに喜びを感じているようだった。
どうしようって言ったって……、どうすればいいんだろう……。
「そうだ。執政官様が対策を考えて下さっているかも」とぼくが言うと、二人とも頷いた。
執政官というのは、王家の代理としてこの土地を治める役人のことである。
ぼくら三人は家から飛び出すと、すでにアヴァロン街は慌てふためく人で溢れていた。
皆混乱しているようだった。
どうして南部のオーウェン卿が攻めてきたのか。
どうしてこんなことになったのか。
いつものモンスターハウスとは違う本物の恐怖がそこに充満していた。
道には荷馬車が行き交っていた。皆、北へ向け走っていた。たぶん、街から逃げよう、という人ばかりなのだろう。
ぼくらも逃げた方がいいのかな? と思いながらも執政官の住む館に向かう。
すると、そこでばったりとジャックに出くわした。
「ジャック……」
「……」
ジャックは何も言わなかった。
だからぼくらは執政官様の家に向けて歩き出そうとすると、「執政官様はいねーぜ」とジャックは笑った。
思わずぼくはジャックの方を向く。
「もうとっくの昔に執政官様はアヴァロンから脱出したようだぜ、あの腰抜けは……」とジャックは力なく言った。「……しかも、それよりも更に悪いニュースがある」
ジャックは溜息をついてから、ゆっくりした口調で言った。
「この街はもう包囲されている。俺の仲間が確かめたんだ。もうどこにも逃げ場なんてねーんだよ。分かるかスノウ? オーウェン卿は俺たち全員を……いや、この街の住民皆を殺すつもりだぜ」