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16/21

16、ジャック、ついに二人の立場は逆転する。




 ちくしょう、どうなってるんだ! とジャックは思った。



 ジャックは混乱の只中にいた。



 ちくしょう! なんなんだこりゃ、なんなんだ!



 右を見ても左を見ても、そこには地面を這う仲間の姿があった。痛みに地面をのたうち回る者。全身の自由が効かず、口から泡を吹き出す者。一切動かなくなり、生きているのか死んでいるのか分からない者。



 そういう者が自分の周りに溢れていた。



 な、なにが起こってるんだこりゃあ。



 体の芯から震えがきた。



 冷汗が止まらず、膝が震え、歯がカチカチと鳴っている。



 すると、這いつくばっていた悪ガキ共の一人がジャックに助けを乞うように手を伸ばした。



「ボ、ボス」



 その時だった。



 ジャックは確かに見たのだ。

 黒い渦がその悪ガキの頭の上に現れ、そこから長い針を持った手が現れたのを。



 手は、男の首の根元に向かって針を突き刺すと、すぐさま消えた。



 すると、まるで、弾けるように悪ガキは声をあげる。



「ぐぁああああああああああああああああ、いてぇえええええええよぉおおおお、いてぇええええええええええええええ。ボス助けてぇえええええ」



 まるで幽霊を見てしまった幼い子供のようにジャックの心は激しく動揺した。



 どどどどどどどどどどど、どういうことだ、こりゃ、というか、ありゃ、手? 手じゃねーか……。



 まさか……。



 まさか!





 ジャックは丘の上からゆっくりこちらに近づいてくるスノウを見た。



 今まで散々馬鹿にしてきたスノウを……。



 金髪の髪がそよ風に揺れていた。



 スノウは、本当に穏やかな足取りで、こちらに近づいてくると、ゆっくりと這いずり回る仲間を見回して、そっと言った。




「彼らを使ってぼくを痛めつけるつもりだったのかい? ジャック」




 ジャックは大きく一度喉を鳴らした。



 スノウの存在そのものが全く別の生き物のように思えた。



 以前とは違う生き物。



 ギークとののしっていた時はいくら痛めつけても構わない小さな生き物に思えたのに……。今はすべてが違っているように思えた。



「こ、これはお前が?」とジャックは聞く。



 スノウは何も答えない。ずっと無視したままこちらをジッと見ていた。この無視に耐えられなくなったジャックは叫ぶ。



「おい! 俺が聞いているんだ! 答えろギーク!」



 その瞬間、足首を何者かに掴まれてジャックは思い切り地面にひっころんだ。



 目線を足下に向けると、そこには手があった。手が自分の足首を掴み、ひっ転ばせたのだ。



 手、やはり手。ハンド!



 心臓がものすごい勢いで鳴っていた。息苦しい。



 スノウがゆっくり近づいてきて、這いつくばるジャックの顔の傍にしゃがんだ。



「物凄い恐怖心だろジャック。今までのぼくの気持ちが分かったかい? 怖いだろう? ぼくは怖かったんだ。君がね。虫でさえも怖かった。世界のすべてに恐怖した。でも、これからは違う。恐怖を抱くのは君の方だ。ぼくに対し恐怖を抱くのは、今度は君の番なんだ!」



 ジャックは飛び起き、走り出す。スノウからできるだけ遠くに、遠くに。




 ハンドだ! とジャックは思った。



 ギークの野郎がハンドだったんだ!



 ちくしょう! と思った次の瞬間、また足首を掴まれひっ転んだ。今度は地面に顔から突っ込んだせいで、顔の皮がむける。



「いてぇええええええええええええええ!」とジャックは叫び、のたうち回る。



 再び目をあけると、いつの間にかスノウが自分の傍にいた。



 汗一つかかずに、自分のそばにいたのだ。



 逃げられない、とジャックは悟った。




「ギーク……てめぇ……」



「違う」とスノウは言った。「ぼくの名前はギークじゃない。スノウだ」



「この野郎……ギーク」



「言え。言うんだ。ぼくの名前はなんだ?」



 針を持った手がジャックの背中に出現し、迷わず背中にぶっ刺した。



「いてぇええええええええええええええええええええええ!」



 背中がヒリヒリ痛む。



 まるでそこから高熱が噴き出すように。



「言え!」とスノウはまた叫ぶ。「ぼくの名前を言うんだジャック!!」



「クソッタレのギークめぇええ」



 また針が体を突き刺す。



 針が体を貫くたびに酷い激痛が体中を駆け抜けた。



 プライドがズタズタに引き裂かれそうだった。



「いえええええええええええええええ! 言うんだ! ぼくの名前はなんだ! ジャック! 君が言うまで! ぼくは絶対にやめないぞ! ぼくは絶対にやめない! 絶対だ!」



 また針が今度は首を突き、痛みが跳ねるように体の中を動き回る。



 本物だ、とジャックは思った。



 本気の脅しだ。



 そして、その言葉にはこういう意味が含まれているようにも聞こえた。



“その結果、君が死んでしまっても、ぼくは絶対にやめない!”



 体の芯から震えた。



 今までそれほどの狂気にとりつかれた人間に出会ったとがあっただろうか?



 それほどの実行力がある人間に出会ったことがあっただろうか?



 こいつはやる。



 やると言ったらやる。



 やばい。



 やばいぞ!



 そう思った瞬間、ジャックの口は負けを意味するその言葉を発していた。



「ス、スノウだ!」



 とジャックは叫んだ。



「スノウさんやめてください! 俺が悪かった。俺が今まで悪かったよ! スノウ。ごめんなさい!」




 その言葉を聞いたスノウは、ようやく攻撃を止めた。



 ジャックは恐る恐る。スノウの顔を伺う。



 スノウは頬をわずかにつりあげ、微笑していた。



 何かから解放されたかのようにその顔はすっきりとした顔つきをしていた。



 そして、それと同時にジャックはスノウを見上げる自分の瞳に気づいてしまった。



 それは恐怖で相手の顔色をうかがう目だった。



 哀れな臆病者の目だった。



 自分が一番嫌う目。



 体中から力が消え失せた想いだった。



 そして、密かにジャックは思った。今日、きっとスノウと俺の立場は逆転してしまったのだ、と。


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