第一章:第三話
ディレットは、アマラ館の正門入り口前へと到着した。
門前で辺りを眺めると広い敷地の中に複数の建物が建っている。
討伐者組合の職員から聞いた話では、前方中央にある建物が受付を行っていて、その周りの幾つかの建物が宿泊する棟や図書館、食堂、小売店、病院などの建物であるという。
ディレットは、一通り眺め終わると中央の建物に入り受付カウンターへと向かった。
カウンターは長い木材で出来たもので立派なものに感じ「お高いものだな」とディレットは思う。
建物全体的に外観は、木製を感じさせる作りとなっていた。
担当する職員は、討伐者組合の職員とは制服が違い、着物系の制服を着た女性が対応してくれる。
「――ようこそアマラ館へ本日は、いかがなされましたか」
と、職員が用を聞いてきたので宿泊の希望を伝える。
「では、討伐者のタグを確認してもよろしいですか。
……はい、確認しました」
そういった後に職員は、宿泊に関しての説明を始めた。
ディレットは、頭の中で説明をまとめてみる。
料金は、一ヶ月、銀判貨一枚。
宿泊部屋の他に小さな貸倉庫利用権も付いている。
この貸倉庫には盗難などが起きた時、金貨一枚までの保証が付いていて、専用の警備兵も置かれている。
食事、シャワー室、その他サービスなどは別料金。
もし契約期間が過ぎても二ヶ月間は、部屋と貸倉庫は猶予が与えられ、後日料金を支払えば問題なく宿泊も継続出来る。
それとアマラ館には守衛に関した専門職員などもいて館の治安を維持しているらしい。ので、落ち着いて睡眠も出来そうである。
この辺りにある個人経営の街宿だと食事別の一泊で銀貨一、二枚が相場なので街宿を利用したほうが安くすむ場合がありそうだが総合的に考えて利用することを選ぶことにする。
「それでは宿泊契約ですが、月極でして今月は幾日か過ぎていますが、
一ヶ月分の料金を頂戴します。
それでよろしければ一ヶ月単位で希望をお願いします」
「そうだな……、とりあえず二ヶ月頼めるかな。
それとパーティメンバー募集を頼みたい」
「ではこちらに、ご自身の情報と求める人材要望などがありましたら、ご記入下さい。
代筆も致しますが、いかがなさいますか?」
代筆する場合は、料金が掛かるので断り、自身で記入をしていく。
名前:ディレット・パレット
性別:男
年齢:十四歳
種族:テパレス
主軸ラステム:ウォーリア[2]、ウォーメイジ[2] ※[]内はランク数を表している。
主武器:槍
魔属性:雷、空間
募集人数:二~四人
人材要望:特に無し。
記入を終えて用紙を職員に渡す。
「……はい。では、あちらに張り出しておきます。
希望者が来た場合は、お部屋の扉に、この黄色の板が設置されます。
その時は、設置された木札を持って、こちらまでご確認をお願います。
また、忙しく時間差などが発生したりしますので、木札がなくてもお気軽に声を掛けて下さい。
張り出し期間は、一週間となっています」
ディレットは、確認を終えると、二ヶ月分の宿泊費、銀判貨二枚とパーティ募集料金、銅判貨一枚を支払う。
そして、手続きを終えると、別の従業員がやって来て部屋へと案内される。
「――では、お部屋へご案内致します」
途中、目的の宿泊棟まで図書館や食堂などの専用の建物があり、その説明を受ける。
シャワー室は、各棟に設置してあるが食堂は、中央近くにある専用棟まで足を運ばなけばならない。
目的の宿泊棟は、受付があった建物から少し距離があり、一般宿舎四棟と呼ばれる五階建ての建物。
その三階にある部屋が、これから住む所になる。
建物の内側は、吹き抜けていて小さな庭のようになっていた。
ディレットの部屋は、この小さな庭をベランダから見下ろせる位置にある。
部屋の内部は、ベットと数点簡素な家具が置かれていた。
これと自分の荷物を数点おいたら部屋には余裕がなくなるだろうという部屋の広さである。
案内をしてくれた職員が最後に木札の説明を始める。
「表扉に、このような黄色の札が指してある場合、それは受付で御用がある場合か何かメッセージ、荷物を預かっているという印です。
その時は、この木札を持って受付までいらして下さい。
……それでは、何かありましたら中央棟受付まで、ご足労をお願いします――」
部屋の鍵を受け取り、案内をしてくれた職員と別れ部屋で独りきりとなった。
ディレットは、鎧類を脱ぎ、簡素な服装に着替えることにする。
一息ついたところで、シャワー浴びにシャワー室へと出掛けることにした。
◇
シャワー室は、一階にあり、男女で別れていた。
男側へ入ると脇に小さな小部屋のような場所があり、そこに一人の男の職員が座っている。
料金表が机に立て掛けられていて「利用料金は銅判貨一枚」と書かれていた。
小さなスペースの中では、
石鹸、洗髪剤、タオル、下着、飲み物などが売られていた。
石鹸、下着は持参して持っているので洗髪剤とタオルを買うことにする。
タオルも持参していたが、少しくたびれていたので新しく買うことにした。
まとめて職員の男に金を支払った後、脱衣所へと向かい、服を脱ぎ小さなボックスに放り込み、鍵を掛けて洗い場へと向かう。
シャワー室内は、複数のシャワーが小さな区切りで仕切らていた。
好きな場所で洗うというスタイルで、お湯は時間制ではなく使いたい放題のようだ。
室内でシャワーを利用していた幾人かの目線がディレットは、気になったが新人だからだろうと思い。
気にせずに空いている場所にいく。
熱い湯が出るバルブと常温の水が出るバブルがあり温度を自分で調整するもの。
ゆっくりとシャワーノズルから出る湯を浴びて今日の汚れと疲れを落とす。
……体を洗い終え、再び脱衣所で服を着る。
脱衣所の隅に置かれていた置き時計に目を向けると十八時を過ぎていることを知る。
もういい時間なので晩飯も済ませるため、食堂棟へと向かった。
◇
食堂棟は、一階から五階まであり、朝五時から夜二十三時まで営業していてほぼ年中無休。
食堂に着くと木製作りの長い机がズラッと並んでいて多くの同業者の討伐者だろうか、客であろう多くの人が食事をしていた。
そんな場所の一席へ店員に案内される。
相席のような形になるが、これは店員が悪いとかではなく通常運転である。
「――いらっしゃいませ。こちらメニュー表です」
メニュー表を受け取り目を通すと日替わり定食と幾つかの定食、単品物、酒などが書かれていた。
今日の日替わり料理は、どのようなものかも聞かずにディレットは、日替わり定食を注文した。
暫くして、料理がやってくると代金の銅判貨四枚を払い料理を受けとる。
ご飯、味噌汁、肉じゃが、サラダ、お浸し、お新香のレパートリーだった。
味噌、醤油、みりんなどの調味料は、東の隣国である『アマノハシ連邦国』が発祥の地である。
輸入もしているしジィーラ皇国内でも製造しているが、アマノハシ産のものは格別美味しく人気が高い。
ただ、ジィーラの一般市民がこれらの調味料を常時利用するには現在、少し高かった。
「醤油って美味いよな」と肉じゃがとご飯を頬張り、心で呟く。
お新香、お浸し、味噌汁も順次食べて味を確認する。
どれもとても美味しく、ここの料理人の腕前が高いことを知ることができた。
「この前食べたとこは、なんで客が入っているかわからない味だったからな」
と、思う。味よりも量と価格で選ぶことが今の所多い市民性から料理人と呼べないものが店を出すことも多いので腕の良い料理人は希少であった。
「この料理だけでも、ここにして良かったかもな」
などと思いながら食事を終え席を立とうとすると酒を飲んでいる男がディレットの視野にふと入った。
その男は、同い年近く感じ、飲む姿はとても美味しそうに見えが故に
「もう酒が手放せない体なのか?」
と、思いディレットは、凝視してしまった。
ディレット自身は、酒を飲むのは何かイベントごとで飲むことぐらいで、普通に飲めるが毎日飲もうという思考は今のところはない。
男もこちらの視線に気が付いてこちらを覗いたが、興味なさそうにして焼き魚をつまみに酒を飲むことに戻った。
そんな顔は、まわりから見たら無愛想に見えるだろうが、ディレットからは楽しそうに見えた。
◇
部屋へ戻り、就寝準備を終えて馴染みのないベットの寝心地を確認しながら明日の事を考える。
「――明日は、朝飯を食べたら、アマラ館内を少し見て回って、時間を潰したらパーティ募集の確認をしよう……
一日、二日じゃパーティは見つからないかもしれないな……
そもそもパーティメンバーが集まらないことなんてないよな?
そうしたらどうしたらいいんだ?
他のパーティ募集に俺が行くことになるのか、その場合はどうするかな。
出来上がったパーティに入るのはめんどくさそうだから嫌なんだよな……」
などと考えながら、眠りへと落ちていった。