第五章:第二十三話
カナにディレットがどこかへと連れ込まれようとする頃。
ビスクとクーアは、飲食店『プレイス ~ シオン ~』の扉前に来ていた――
アディルトとゼフを引き連れて。
ディレット、ヨーンズ、ヒャラルラにも誘いを掛けたのだが、興味がないといって来ず。
アディルトは、ビスクとクーアの話を聞くと、「面白くなりそうですね」と『ダークエルフ』の『ダーク』さを思わせる『ニヤリ』とした笑顔で言いながら即了承。
ゼフは、「そういうのはちょっと相手に迷惑がかかるかもしれないから、でも、んー……」となんか『ブチブチ』と言いながらもしっかりとついてきた。
ビスク達の目的は、もちろん絢火達のバイト姿を鑑賞するためである。
コモモに聞くところによると、ただ仕事を手伝っているだけでなく、オリジナルの制服が新しく作られて絢火達も着用しているとのこと。これはぜひとも脳内に焼き付けておきたい、そう期待に胸を膨らませてやってきたのだった。
さっそく、扉を勢いよく開き入店すると――
「いらっしゃいませー! って、ビスク達じゃねーか」
扉を開くとすぐ一華が出迎えてくれた。
その姿は、いつもの討伐時とは打って変わって、花を模した髪飾りをつけて、膝上丈の短いスカートで袖は長く薄紫色を基調としてデザインされた可愛らしい制服と太腿まで届く長い靴下を着用していた。
それを目の前にした魔属性『光』を持つビスクとクーアは、
「いいよー! いいよー! かわいいよー!」
と、すぐさまテンションを上げ、脳内に焼き付けるように一華の横や後ろなど、いろいろと回り込み見つめて、褒め言葉を掛けていき、ゼフは――
「か、かわいい……」
と、小さく呟き、『ボー』っと惚けたようになっていた。
アディルトは、そんな彼らを一歩引いて、やさしく『ニコニコ』とした感じで見ていた。
「ぐななっ! この変態どもがっ!」
一華は、赤面しスカートの裾を両手で握り、スカートを下げるようにして、しばし『プルプル』と耐えていたが、ついに堪忍袋の緒が切れ、ビスクとクーアを殴ろうとしたとき――
「ちょっと一華、なに騒いでるのよ? ってビスク達が来てたのね……」
と、騒がしさから紗奈が様子を見にやってきた。
「あっ紗奈。聞いてくれコイツらがー」
と、一華は紗奈に抱きつきながらビスク達を指さして言う。
「ハイハイ、なんとなくわかるから」
と、言った後、ビスク達の方を向き直し
「いらっしゃい。席に案内するわ」
と、言って場を収めると、席へと移動し始めた。
その途中、一華を通り過ぎる時に
「今度、会った時覚えてろよー」
っと一華は小さく言っていたがビクス達は聞こえていないことにして――
「紗奈も、その制服似合ってるな」
と、クーアが言い。
「ふふ、ありがとう」
「ちょっとくるっと回ってみてくれよ」
と、ビスクが言い。
「そういうサービスは、やってないの」
「えっ!? 他に何かサービスやってたりするの?」
と、ゼフが食い気味に言った。
「……私達がやってるのは、注文聞いたり、飲み物、料理を運ぶのとたまに厨房の手伝いをするだけ、それ以上は特にやってないから――
わかってると思うけど、おさわりとかもないからね。
一応言っておくけど、そんなことすれば最悪、『黄金ポーション』のお世話になるってことを討伐者仲間として忠告しといてあげる」
と、冗談にはまったく聞こえない紗奈の言葉に、ビスクとクーアは『ブルリ』と身体を震わして少し冷静に戻り、紗奈の制服姿を眺めながら席へと案内されていった。
◇
席に着き、紗奈に飲み物を注文した後、辺りの様子を窺い見る。
店内にはビスク達以外にも客がそれなりにいて、賑わっていたが前回来たときと特に変わってはいなかった。
注文をしてから数分後。
「失礼します」
と、絢火が飲み物をビスク達に持ってきた。
そして、飲み物を全て置いた後、絢火は『キョロキョロ』と周りを見てから――
「ディレットは来てないの?」
と、聞いてきたのでビスクは来ていないことを言うと
「じゃあ、なにしに来たのよ」
と、さらりとそんなことを言ってきた。
「「「「…………」」」」
「絢火それはヒドイって。これでも客として来たんだよ?」
と、ゼフがそう抗議して。
「そうだよ。コーヒーを飲むついでに討伐者の仲間として様子を見に来たんだよ。お店に貢献しにきたんだよ」
と、ビスクが続いた。
「ふーん。じゃあ、特製アイクス(AIKS)コーヒ注文してよ」
「……別に良いけど、何それ、いくらなの?」
「んー。銀判貨一枚でいいわ」
「たっけーよっ! 普通のコーヒーも高いけど、割といい飲み屋に二、三回は行けるじゃんか! なにで出来てるんだよ!?」
「普通に出している一番安いコーヒーを私(A)と一華(I)、和恵(K)、紗奈(S)が気持ちを込めて淹れてあげる」
「ぼったくりじゃねーか! ……って、ちなみにその気持ってのは愛だったりするのか?」
「嫌悪ね」
「最悪じゃねーか! なんで銀判貨一枚払って嫌悪を注文しなきゃなんねーんだよ」
「冗談よ。それ飲み終わったらさっさと帰ってよね」
と、ビスク達の席をさっさと離れようとすると――
「ああ、待ってください。コーヒーに合う食べ物は何かありますか?」
「そうね……甘い物がいいならドーナッツとかあるけど?」
早く帰れと言いながらもちゃんと仕事をしようとする絢火。
「いいですね。ではそれを」
「わかった。じゃ」
と、アディルトの注文を聞いて絢火は去っていった。
「毒舌すぎるだろ……」
「ここの店長はなにを思って絢火達を雇ったんだろうな?」
と、クーアが言う。
「客としてまったくみてなかったのが面白かったですね」
『クックック』と笑いながらアディルトは言い。
「アディルトの『面白い』がわからない」
と、ゼフが言った。
◇
アディルトが頼んだドーナッツセットは皆でおいしく食べ終わり、
テーブルには、ドーナッツが入っていた空の皿とわずかなコーヒーが残るカップが片付けられることなく置かれ続けていた。
「もう、そろそろ帰ろうぜ。このままいてもあの冷たい眼差しで凍えるだけだぜ」
痺れを切らしたようにクーアが口を開いた。
というのも、制服姿にはドーナッツと共にお腹いっぱいになったので、そろそろ帰ろうとしたのだが、ビスクがもう少しだけと言い、いまだ席を立つことはなく店に居座り続けていることからであった。
絢火達は、ビスク達が悪さをしないように、なにかと『ジロジロ』と遠くから覗き見てくることも関係していた。
「まってくれ! せめて和恵の制服姿を見てから帰ろうぜ。な? ちょっと和恵が今何しているの聞いてみるから」
ビスクがそう言って、まだ制服姿を見ていない和恵を待つように皆を説得した。和恵は裏方に徹しているのかビスク達が居るホールには一度も出てきていなかったのだ。
「厨房かなにかで仕事をしてるんじゃない? それならもう無理かもしれないし。邪魔しちゃ悪いよ」
ゼフが推察してビスクを説得させようとした。その裏には、これ以上変なことをしたら自分にも飛び火するんじゃないかという恐れが働いてのこと。
「だいじょうぶだって。俺達の仲なら平気だろ? むしろ変な気遣いがよくないと思うんだ。あっ、ちょうど来た。あやかー」
手を振って絢火を呼ぶと。冷たい眼差しのまま、ビスク達のところへやって来る。
「なに? はやく帰ってよ」
絢火は両手を組んでそう言った。
「まあまあ、それよりさ。和恵のこと見かけないんだけど、どうしてるの?」
「……和恵は、奥で裏方の仕事をしてるわ。和恵に用があるの?」
「そうそう。ちょっと話せるかなーと思って」
「……ふーん。まあ、今はお店が落ち着いてるから呼んできてあげるけど、ろくでもなかったら承知しないからね」
と、冷たい態度の絢火だが素直に和恵を呼びに行ってくれた。
そして、しばらくしてから、和恵がビスク達の前に現れると――
ビスクとクーアはテンションを一気に上げ、『バババッ』と横や後ろにと移動し、さまざまな角度から満喫した後、何事も無かったように再び『スッ』と静かに席についた。
「……なにか用があるって聞いたんだけど――」
頬を少し『ピクピク』とさせながら和恵は言った。
「うん。君に逢いたくて……」
ビスクは、瞳を『キラキラ』させるようイメージして、嘘偽りのない気持ちをそのまま言葉にした。
「…………」
和恵は、しばし沈黙の後に「ふーーーーーーーーー」と肺に残る空気を全て吐き出すようにするして息を吐くと――
ビスクに『ニッコリ』と笑顔を向けた。
「えっ!?」
ビスクは、もしかしてと心を「トクンッ」と弾ませる。見ている周りも「おおっ!」と固唾を呑んで見守った。
であったが、和恵はビスクをよそに絢火達の方へ向き直すと、こう声を上げた。
「特製アイクスコーヒー四つ入りましたー!」
「「「よろこんで(嫌悪入り)ーーー!!!」」」




