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第五章:第十七話

 休み二日目。


 空は、もうすぐ夕暮れに染まろうとする頃に、食材などで外出していたディレットがアマラ館へと帰ってくると、一人の女の子が花を売っているのを見かける。


 ――アマラ館では孤児など十四歳以下の子供たちを保護すると共に仕事も与えていた。この子供もそういったアマラ児童の者であろう。

 手に持つ籠の中にある花は普通の野道などに咲いているものを摘み取ったものではなく観賞用として育てられているもの。

 種に関しては、独自に改良を加えている物もあるが、特にアマノハシ連邦国が品種改良を加えたものなどが輸入されていたりもする。

 こういった花は、アマラ館の脇奥に行くと温室栽培するための建造物や場所が有り、育てていたりする。

 育てた花などはアマラ館のロビーを飾るためや個人に売って収益を得るなどをしていたりした――


 ほんの数秒だったのだが、少女を見ていると、視線に気づいたのかディレットを見返してきた。

 そして、なぜか知らないが『パッ』と笑顔をになり、勢いよくこちらへと向かってくると――


「あっディレットさんですよね?」

 と、言った少女をディレットは近くで見てみる。

 もうちょっとすれば成人になろうか、というような顔つきで、体つきや身長も特に特質したものはない普通の人間種族の少女。といった感じであった。


「ん? 誰だったかな? 野菜の皮むきかなんかの時に会ったか?」

 あらためて見ても顔に覚えはない。しかし子供の知り合いといえば、それくらいしか思いつかないので、とりあえずそう言ってみると。


「あ、いえ。私は、ここでお世話になっている、カナといいます。皮むきのアルバイトでお世話になっていた子達の話を聞いてそうかなって思って。ディレットさん、小さい子供達から評判がいいんですよ」

 『ニコニコ』とした笑顔を向けながらそう話しかけてくる。一般の同い年くらいの男ならその笑顔につられ一緒に笑顔になってしまうものであろう。しかしディレットは――


「そうか……で、何か俺に用なのか?」

 笑顔とか、子供の評判などディレットにとってはどうでもよく、素っ気なく応えた。


「あー。その、お花はどうかなって、思いまして……」

 と、遠回しな言い方は意味ないとカナは思い。本題を素直に言うことにした。


「悪いが、花に興味はないんだ――」


「そんなこと言わず! 部屋に少し飾るだけで気分が和みますから!」

 『グイグイ』くる系少女だった。


「そう言われてもな……花なんかあってもすぐに枯らしてしまうだけだし――」

 あまり強気に出られないディレット。

 今まで接してきた女性はかなり少ない。だからといって舞い上がったり、口ごもったりする訳ではなく普通に接するのだが、こういったグイグイ系の女性に対して苦手意識が少なからずあるのは母の影響だろう。

 『グイグイ』とはまた違ったものだが、そういったところや「女性には気遣いを忘れずに」と言われ育ってきて、母に対して女性的な配慮が掛けると『それはもう』な仕置をされて育ってきたからだ。

 ただ、そう育ってきたが、それが身についたかといえば、そうでもなく。余計『女性』というのがわからなくなってしまっていることもあった。

 これが成人で同じ討伐者、戦う者なら『ガツン』と「いらん!」と言えるかもしれないのだが……


「お世話といっても水を替えるぐらいですよ?」

 外堀から埋めようとする少女、カナ。


「それが面倒くさいんだ」

 ディレットは、瞬時に何を言っても外堀を埋めに掛かるであろうと察して、素直にそう言って引き下がってもらおうとした。


「あれれ? 聞いてた限りではそういった面倒は感じない人と思っていたんですが……」

 カナは、少し引いた感じで言った。


「それは多分、戦いに関することだからじゃないか? 戦いに関すること以外で面倒はなるべく抱えたくないんだ!」

 ここだ! ここで強気に言って終わらせよう。と思ったディレットだったが、しかし――


「そうでしたか……なら、私がお花のお世話をしますよ?」


「え? なぜ?」

 あまりに理解不明なことを言われ、振り出しへと、いやペースは完全に少女に掴まれた。


「だって水替(みずか)えするの面倒なんですよね?」


「そうだが……花を買わなけば済む話だろ?」


「ちがいます」


「ちがうだと!?」


「そうです。ディレットさんが花を買うのは決定事項なのです。お金がある人はお金を使っていかなければいけません。特に私に使ってください」


「なぜ俺が金があると? こういってはなんだがまだ駆け出しの討伐者なんだぞ?」


「ふ、ふ、ふ。お金がないなんてことは通じません。もうコモモから聞いているのです」


「コモモと知り合いなのか? いや、それよりなぜコモモが今関係してくるんだ?」


「コモモとは、ちょっと前に知り合ったのですが、知り合った後は、ちょくちょくと遊びに来て、いろいろとお話をする仲なのです。

 そして、昨日遊びに来ていて、こう言ってました。

『ディレットさんがお宝モンスターを倒してウハウハだから焼き肉をいっぱい奢ってくれて、いっぱい食べたリ』

 と」


「コモモ……」


「安心して下さい。聞いたのは私とそこにいた数人。あとコモモにはそう言ったことはあまり他人には言わないようにも言っておきました」


「おお、そうか、助かる。そう言ったことはあまり広めるようなことではないからな――」


「ですが、私達が黙っているとは限りません」


「なん……だと……」


「だって娯楽に飢えた子供達の間でお宝モンスターを倒したという話はそれはもう華が咲きます。自分もいつか倒すことが出来たら、アレを買って、コレを買ってといった感じにです。なので黙ってるなんてもったいないですよ?」


「そういうのは……あるか……」


「しかし! 私は気遣いが出来る子です! お花を買って頂けるなら他に聞いていた子たちにも口止めをしておくのもやぶさかではありません!」


 カナがそう言った後、ディレットは間を置き、夕暮れに染まる太陽の方に目を向けるとそこには――

 コモモが「リー。ディレットさーん」と言いながら、無垢な満面の笑みで手を振っているように見え、眩しさから目を細めた。

 そして『フー』と軽く息を吐くとこう言った。


「そこにある花を全部、買わせてもらおうか……」


「お買い上げ、ありがとうございまーす!」

 少女は最初に見せた笑顔のように『パッ』と華やぎながらそう言った。

 その笑顔は、夕日や持つ花など相まって、もし名高い画家がその場に居合わしていれば、名画としてその名を残していた……かも知れない。


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