第五章:第十五話
討伐者が一般的に装備しているレザーアーマーの素材で安く防具に適した皮、素材名『ボウボウ牛』という物がある。
これは、ビスク、クーア、ゼフ、ヒャラルラが装備している素材『ダムダムタイガー』よりも防御力は落ちるもので、ヨーンズ、アディルトが今装備しているレザーアーマーの主要素材となっている。
『ボウボウ牛』は、モンスターでは無く。農場などで主に飼育され、皮は供給されているのだが、その評判は皮だけではなく、食用の肉としてもあった。
最高級となる『ボウボウ牛』一頭の値段は、一般庶民の数年の年収ほどで取引されることもあるとか……
ただ、これは最高級品の話で、街の店で出回る一般の物は庶民のちょっとした贅沢をしたい時に食べるものでもあり、高級部類の食材として一般的に認知されていた。
加えて絢火達が装備している主要素材の布は『ハクゴウ羊』から取れるもので、モンスターでは無く、これも主に飼育されているもので、『ボウボウ牛』よりは防御力は低いが防具に適したものとして一般に出回っている。
肉に関しては『ボウボウ牛』に比べると少し色褪せる感じで認知はされていた。
◇
『ニニギの街』にあるアマラ館から少し離れた繁華街地区に『ボウボウ牛』の肉を食材として提供する『ウシミツ』という店がある。
そこは最高級とまではいかないが、そこそこお高いお店で、各街にも展開してる庶民の中でも割と名が知らせている店。
そんな店の一室を貸し切りディレット達は席に着いていた。
ガスで火を付けて調理をするように作られたテーブルに鉄の網が敷かれて、他の空いているスペースには生肉やサラダなど綺麗に盛り付けされた料理が所狭しと並べられ、それらを目で見るだけでも楽しませてくれていた。
「焼き肉か……」
「そう、みんな肉好きでしょ?」
「リー」
『じゅるり』と涎を垂らしそうなコモモ。
コモモ、シバグリにはラタトスク種族専用に小さな食器と料理で提供されていた。
ディレットが座るテーブルにさらにテーブルを付け足したような形になっていて、その上に専用に切り分けされた肉やそれを焼くための専用の七輪のような物が置かれ、二人は並んで座っていた。
並ぶ料理に待ちきれないとばかりに各々から言葉が出始める。
「ちょうウマそ―!」
「ちょうたべるぜー!」
「ああ、今回はどうしようかなー。前回の二日酔いとかキツかったからなー」
「これって生でも食べてもいい?」
「肉に合う酒は何があるかな……」
「あっ頼む時は私のも一緒にお願いしますね」
ヨーンズがメニュー表を見ながら呟く傍らにアディルトが言った。
「今日は、少し離れた所まで来たからな。皆、帰りのことを考えて飲めよ」
「あっ、そのことなんだけどね。ここは、宿泊もできて、それと部屋の予約を入れてあるから、だから帰りの心配はいらないよ」
ディレットの言葉に絢火が応えた。
「そうなのか。全員か?」
「そう」
「え!? それって、もしかして……」
ビスクが絢火の言葉に反応する。
「あまり勘違いしないでねー。打ち上げが終わった後に帰るにはここは少し遠いし面倒だからね」
「そうそう、宿泊費もディレット達が出してくれるんでしょ? だから遠慮はしなかったの」
「ビスク。寝てる時に来たら私も遠慮なくぶっ飛ばしてやるからな」
「……そこは遠慮して欲しいなー」
和恵、紗奈、一華の言葉に余計なことはせず、打ち上げが終わったら大人しく寝ようと思うビスク達であった。
「じゃあ、まずディレットさんに乾杯の音頭をとってもらうッスか?」
「また、それか……特になにも言うことは無いんだよな……もう好きに食べてくれて」
「あ、じゃあ俺がいっちょいっときますか――」
「一言でも、なんでもいいから言って、音頭をとったほうがなんか盛り上がる感じがあるよ?」
と、ビスクの言葉を遮って絢火は言う。
「そうか……じゃあ――
今回は、絢火達と『討キャン協定』という形でだが、互いを多少だが知り会って、特に問題も無く討伐依頼も無事に達成することができた。
次の依頼でもまた『討キャン協定』を結ぶかはまだわからないが、俺としてはまた結んでもいいと思っている。
なので、さらに互いを知り合うきっかけに今回の打ち上げがなればいいとも思う。
前にも言ったが、今回の全ての料金は俺たちが持つからな、絢火達は遠慮しないで飲んで食べてくれ。
っということで、乾杯!」
「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」
互いの杯を打ち合わせ、皆はアワワ(コモモはアップルジュース)を一斉に喉へと運んだ。
それから、各々声が上がり始めると共にそれぞれから肉を焼き始め室内が『ジュー』っという音が鳴り、談笑の声も上がっていった――
◇
皆が軽く腹へ食べ物を入れた頃、コモモがディレットに話しかけてくる。
「ディレットさん。アッチもそっちの肉を食べたいリ」
「そっちって、俺達用に切り分けた肉のことか?」
「そうリ。こんなちっちゃな肉じゃ食べた気にならないリ」
「ちっちゃなって十分お前達の口に合う大きさだと思うんだが……」
「リー。お願いリ。アッチにその肉を焼いて欲しいリ」
「これ、コモモ。あまりディレットさんに迷惑掛けちゃダメッスよ」
「リーーー」
シバグリの言葉に『ションボリ』するコモモ。
「まあ、別にいい。俺のも焼いていくからついでに焼いてやる」
「やったリー!」
肉を焼いていき、コモモの前にある小皿に乗せていく。
「リー。とっても美味しそうリ」
そう言って『むしゃむしゃ』と食べだした。
ディレットは自分のために焼き、少し冷ますために同じさらに乗せていく、コモモがまた食べたくなったらここから取ればいいと考えてであった。
十分に自分の分も焼いたぐらいで落ち着くと、絢火が話かけてくる。
「ところで、ディレットはあまり食べないね。もしかしてここの料理は口に合わなかった?」
「ん? そんなことないぞ。味はうまいと思う」
「そう、よかった。じゃあこの焼きたてグレイトホルモンを食べてみて。まだ食べてないでしょ? 美味しいんだから」
と、言いながら強烈な湯気を発しているホルモンを差し出してくる絢火。
「うっ。そうか……うまそうだな。そこに置いて少しさめ――」
「うん。とっても美味しいから。熱いうちに食べてみて」
絢火の瞳は、とても澄んでディレットの顔を綺麗に写していた。
そんな瞳が何を意味しているくらいはディレットは知っている。そしてそれに応えないディレットでは無かった。
口元へ運ぶときに感じる熱気は箸を置き、引き返したくなる。でも、引き返しはしない! この行動に曇りない眼で期待しているものがいるのだ!
口へと運びホルモンを歯で噛みしめると出てくる熱々のエキスを感じると吐き出したくなる。しかし、そんなことぐらいでは負けはしなかった。表情も何一つ変えず、強烈な熱と味をゆっくりと咀嚼し、痛みさえ味に変え、味わっていく。
でも、なかなか噛み切れなかった! だからなかなか飲み込めない! 熱もなかなか冷めやしねぇ! グレイトだ! さすがグレイト! なにがグレイトかわからんが、グレイトにディレットは感じていた。
結果、とっても美味しく頂きました!
そして、おかわりが来そうだったからトイレに行くけど、これは逃げるとかじゃない、トイレにいきたかったのだ。我慢はよくないから!
――そして、しばし時間が経ちヒャラルラの側で、たまたま氷水が飲みたくて飲んでいたディレットは、もとの席へと戻ってくると、コモモが『パンパン』に膨らんで転がっているのを見かけた。
「リっぷ」




