第五話 痩せていく魂と永久の牢獄
――主人公 視点――
俺は、これからの始まりを意識して、この足が歩む前に少し自分を客観的に振り返ることにした――
不老、不寿の性質を持つ『テパレス』種族として生を、
ディレットという名を授かり、パレットという名字を持つ。
『テパレス』という種族は、外観は人間種族と変わりない。
だが、魔法を行使しするエネルギーのマナ量が人間種族より多く、痛がりな特徴を持っていた。
かなりの痛がりなので戦闘を控える穏やかな種族だというが、詳しくはわからない。
と、いうのも俺は、母上と従者でもないのに世話をしてくれるラッグという男以外、同じ種族に会った記憶がないからだ。
ラッグは、母上と恋仲という関係でもなくまた、そういった関係でもないようだ。
これは、テパレス種族は性欲を抑制することが自由にできるということもあるし性に対して人間種族程、盛んではないことから間違いは無いだろう。
それに、母親の色恋を根掘り葉掘り聞きたいとも俺は思わないので、あまり関係については詳しく聞いたことはない。
俺が生まれ二、三年は同種族の里で暮らしていたらしいが、赤ん坊だった時の記憶は曖昧なので母上とラッグから聞いたことが全てになる。
他の者に聞こうにもテパレス種族は生存数も少なく、里から出る者もまったくといっていいほどなので、里を出た俺には仕方がないことだ。
ラッグを見ていると聞いた同族の特徴とが噛み合うのだが、
母上を見ていると、とても穏やかとは思えないし、俺自身もそうであるとは思わない。
一番の理由としては身体的特徴でもある、
各上腕、各大腿、胸(胸部から背面)、ヘソ部分(前面から背面)の六ヶ所に鏡のような光沢のある、紋様のような皮膚が備わっている。
これは性格、思考、感情によって『赤』から『青』などの色に変化をするというもの。
そして、この皮膚の色を感情の中間色としての『紫』であること、維持することを種族の者は美徳としているらしい。
だが、母上と俺は動的な性格、思考、感情が強いとなる『赤』でいることがつねだ。
母上に至っては、髪と瞳の色まで赤いが種族の特徴とは関係はないようだ。
種族として髪と瞳の色は、灰色が通常であり、俺とラッグの髪と瞳も灰色だ。
ちなみに、ラッグの光沢の皮膚部分は、『紫』の日が多いが『赤』や『青』の色が濃い時は、なぜか恥ずかしそうにしている。
この感情を俺は、まだよく知らないが年齢を重ねればいずれ知る時がくるのだろうか。
感情の変化で皮膚の色が変化をするが、このことで戦闘の力などに変化はない。
だが、脳内物質による痛みの軽減、言動、行動、思考などに影響を与えることはあるようだ。
また、特殊な条件を満たすことで変身できるというものでもなく、ただの見た目だけのもの。
それも服を着てしまえば見た目からわかるのは髪と瞳の色ぐらい。
だが、これも種族は違くても同じ髪と瞳の色を持つものは存在するので目立つ特徴でもない。
稼業は、港街から街へ主に魚を売る行商を行っていた。
その間の道中では、モンスターや盗賊なとも多く出没したが母上達の敵ではなかった。
なぜならば、母上達の年齢は百歳を超えていて、戦闘技術、知識もその年齢と共に高く積み上げられたものだからだ。
――そうして年月が経ち、小さなナイフを持てるようになる頃だったか、
いつしか自分のことを待っている『なにか』、探しに行かなければいけない『なにか』があるような気持ちが強く高まっていった。
あの時から今もあるこの気持ちは多分、寂しさ、悲しみに似た寂しさ……
サーっと音を立てて見放すように通り抜けた風のように、
乾いた砂の残り少ない水分を容赦なく奪っていく乾いた風のように、
心に吹いて、乾きしぼられる感覚。
その痛みのない痛みが襲い、心からまた別の『なにか』が滲み出て、さらに乾いてゆく……
その気持から居ても立ってもいられない、じっとはしていられない思いが強くなっていき、大人になったら旅に出ようと思い至った。
行商の合間に母上達から本格的に旅に必要な戦闘技術と知識を学び始めもした。
しかし、この世界は技術、知識だけでは補いきれない存在、行商の道中に出くわすモンスターとは桁が違う驚異的な力を誇るモンスターなどが、この世界を跳梁跋扈していることを知った。
だが、そういったものを凌駕できる力を新たに手に入れる手段も知った。
モンスターを倒すことで、その力を高めることが出来るというもの。
『ラステム』という力だ。
本格的に旅に出るには、この力を増やし高めてからと決めた。
そして、月日が経ち、目的の架け橋となる『討伐者』となるため、俺は、この街へとやってきたんだ。
――さて、歩むとしようか。