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第五章:第四話

 周りを木々などに囲まれ、雑草の類があたり一面敷かれている様にあるが高さがあるものはほとんどなく、むき出しの地面、岩など点々と目に入る、そんな特に何もない開けた平地の場所。


 ディレットは鎧も着けず『パルティザッシュ』のみ装備している状態で、その大刃槍の刃先で8の字を横にした形を描くようにしたり、上下左右、両手、体全体を活かすように『ヒュン、ヒュン』と派手さはなく静かに振って、一人その時を待っていた。

 

 そして――


「――いったぞ!」


 遠くからその声が聞こえたと同時にディレットから離れた向かいの場所、草の茂みある場所から『ガサッ』と音と共に一体のモンスターが姿を現した。


【ケリュネイア】

 鹿型モンスター。モンスターランクは下位[C+]。

 大きさは馬型モンスターのディオメデスと同じ位。

 姿形は、鹿の雰囲気と変わりないが、明らかに違う特徴的部分を持つ。

 それは『黄金の角』と『金属質の蹄』。

 『黄金の角』の値打ちは金貨四十枚(左右二つの角合わせて)にはなり、狙って討伐したいと思うが遭遇率は極めて低く、ジィーラ皇国内でも年間数匹しか討伐報告がない。

 このことから討伐者、冒険者の間では『お宝モンスター』の一体と数えられて、そう呼ばれることがある。


 そして、モンスターとして特徴的なものとして『逃げる』ということをする。

 通常のモンスターは、シューレムア界の知性体を見つけると怒りを宿して襲ってくる特性が有る。ただ補足しておくと襲ってくるモンスターも『逃げる』という行動はする。

 『逃げる』といってもまたパターンがある。

 一つ、逃げたと思ってもそれは誘い出すためのもの。

 一つ、一時的に逃げて間を置いて隙が出来た時に再び襲ってくる。

 一つ、純粋に戦いを避けるため。

 などである。

 この行動を起こす要因は、個の知性、狡猾さ、状況などや部下を動かす集団のリーダーとしての資質、能力などが関係してくるとされる。


 今回のケリュネイアがおこなった『逃げる』は、純粋に戦いを避けるためのものであり、逃した場合は、かなり遠くへ移動するといわれているので、再び遭遇するにはそれなりの幸運がいる。


 ◇


 ディレットは、戦う気配など微塵も感じさせず、また『ラステム』、『プロテクションゲル』の発動も未だせず、立ちつくしている様な状態て相手を静かに見据えていた。


 ケリュネイアは、ディレットとしばし対峙していると左右後ろから迫る音が聞こえてくる。


 向かってくる音は複数、前には一人。

 ケリュネイアは、ディレットの方へと逃げる算段が高いことに懸けて左右にステップを踏みながら向かっていった。

 一歩毎の跳躍した幅はとても長い。ノーマル状態の人間種族が跳躍した数倍はあるであろう。


 ケリュネイアとしては、三歩目を踏んだ時、互いの間合いにかかる距離となり、四歩目の跳躍でさらなる距離を得るため渾身の力を使い、四歩目を踏んだ時には、ディレットの後ろへと抜けているはずであった。

 が、三歩目を踏む直前でディレットはケリュネイアの目の前にいて、それにケリュネイアが気づき、反応、行動しようとしたときには、ディレットは後ろ横で浮いているようにいた。


 そして、刃はケリュネイアの首筋へと落とされた――



 ◇



 第二ベースキャンプを拠点に討伐を始めて数日が経過する中、

 ディレット達は、大きな怪我もなく順調に『スカーレットハート』を集めていった。


 絢火達とのトラブルも別段なく過ごしてきていて、日を追うごとに互いの変な緊張感も減ってきてはいる。


 今夜もディレット達は、絢火達と食事を共にしようとしていた。


 ただ、今日の彼らはホクホク顔であった。絢火達と食事が出来るからホクホク顔をしているのではない。

 絢火達からは、このホクホク顔を気味悪がって少し距離をとられて警戒されている状態。


 そう、ホクホク理由は、今日討伐したケリュネイアによるもの。


 今回の三百体討伐の報酬は、金貨十二枚と銀判貨五枚。

 依頼三回以上の報酬が一体のモンスターで手に入ったことになる。気分はとても良く、ウハウハなのだ。

 

 そして、そんな今晩の献立は、討伐したケリュネイアの肉をふんだんに使ったシチューとパン。

 肉も多くの量が手に入ったので収納空間内には、まだまだ多く残っている。

 これにともない朝飯もしばらく出すことにして、絢火達にも知らせている。

 現在の朝飯事情は、晩飯が余りそれが今晩の飯とならない場合はそれを、余らなかったりした場合は各々もっている保存食やスティックレーションを各自勝手に食べることにしていた。


 食事前、気分の良さからかヨーンズは、今回に限ってか自分の荷物から蒸留酒の一種である『S(スピリッツ)(spirits)・クアア』を振る舞い出した。

 ただそうはいっても、量も少ないし、ここで酔うにはいかないのでコップに少量入れ、水で割ったものである。絢火と一華は一口だけ飲んで、絢火は和恵に一華は紗奈にあげていた。


 それぞれ会話はずみ、食事を配り終えて楽しい食事が始まろうとしている。


 そんな状況のなか、クーアはおもむろにディレットに視線を向けた。ディレットはその意を捉え『コクン』と静かに頷く。


 そしてクーアは、シチューに合うんじゃないかとチーズを振る舞い始めた。

 これはディレット、クーア、コモモに惨劇を起こしたもの。そう、あの食べると鼻をバカにするチーズだった。


 絢火達は知っていたようで食べるのを遠慮する。

 同じく知っているゼフ、ヒャラルラだが特に気にせず食べ、他の者もクーアから受け取り食べる。


 ビスクは「うまいじゃん、このチーズ」っと絶賛して、アディルトとヨーンズも『うんうん』といったふうに頷いた。


 ……本来ならディレットは、モンスターがいる地で状態異常を付加させる食べ物を食べさせることはさせない。

 だけど、気づいてしまう。『ファーニチーズ』の鼻がバカになる状態異常効果が『オレンジタバスコ』で効果を打ち消すことを!

 でも、これは、もしかしたら偶々かもしれない……

 だから実験しないと……こういうことは、早めに解明したほうがいいかも知れない。

 そう思ってクーアにも状態を聞きに行き、いろいろと話しをしている内に、満面の笑みでこう言ってきたんだ……「ビスク達でやっちゃお!」って。だからやってみる。

 イタズラとかじゃあないんだ。こういうことは早めに知っておかないと……大事なことなんだ。

 ん? 休みのうちにやっとけって? いろいろ忙しかったんだ!

 決してみんなが集まるのを待っていたとか怪しまれない時を狙ってたとかじゃない。

 決して!!!

 ~ 以上、ディレットの回想、思考を多少脚色してお伝えしました。 ~


 ――そして、チーズを食べ終わる頃を見計らってディレットは「いいものがある」と言い、オレンジ色の液体『オレンジタバスコ』を取り出した。


 ディレット、クーア、絢火達以外は知らないようなので、ディレットは使う前に好みがあるので、まずはコップ入れて味見をしてからにしたほうがいいと言った。

 その時の煙に映った影は、火の光の揺らめきでなのか『ニタ―』っと悪魔が笑っているように見えた。と、絢火達の後日談。


 ディレットは、各自のコップに注いでいく。注ぐ量はそれほど多くはなく一口で飲めるぐらいの量。

 途中、食器などが被害を受けないように横などに何気なくずらしていく。その後、味見は一同そろうのを待ってくれとも言っておく。

 彼らは、これまでの晩飯などは一同そろってからが主流だったのでこの言葉にも特に疑うことも無く応じている。


 ビスクは、注がれた『オレンジタバスコ』を見て、「タバスコ……?」と考え、一瞬前世の記憶が『――はっ!?』っと蘇りそうだったが、S・クアアの軽い効果と街に戻ってからの金の使い方の考えで、すぐにその考えは掻き消した。

 これで借金は全て返済できるということもあるし、前回の依頼では、鎧をボロボロにしてしまったので、その鎧は丸ごと一式下取りに出して、今回は新しい鎧(前回と同じ種類の鎧)を新調していたことも起因しているのかもしれない。

 ちなみにクーア、ゼフ、二人の鎧はメンテナンス屋に出していつもより高くはついてしまったが、新しく新調までとは至らなかった。


 注がれ終わった者は、純粋にどんな味なのかと今日の気分の良さもあり綺麗な目をしていた。


 ディレットとクーアはその瞳を見て、できるならその綺麗な瞳のままでいて欲しいと切に願う……


 絢火達は、これから起こる惨劇を予想して少し離れた場所に移り「子供だねー」というような会話をしながら、シチューを先に食べ始めて見ていた。

 まだ、数日食事を共にしただけで、完全に信用したとは言えないが今日に限っては毒などは無いだろうと思っているし、そういうことは彼らはしてこないと信用をしてきている行動であった。


 『オレンジタバスコ』の瓶を二本空にして準備が終わり、ディレットは「どうぞ」と片手を差し出す仕草をして言うと、一同そろって『クイッ』と一口でコップに入った全ての量を口へと運び、一気に『ゴクン』っと飲み込んだ。




 ――綺麗な虹が五つ、焚き火の周りに架かった。




 ……これでわかったことがある。


 『ファーニチーズ』の状態異常効果は『オレンジタバスコ』で打ち消すことができることを!


 犠牲は無駄ではなかったのだ……


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