第四章:第十話
休み四日目。
ディレットの部屋にクーアが遊びに来ていて二人で何気ない話をしていると、空を飛んできたコモモが窓へとやってくる。
ディレットは、窓を開けて部屋の中へ招き入れた後、手を差し出してコモモを乗せ机の上へと移動させた。
コモモは、絢火達の使いに出されたそうで、何か用事はあるかと聞いてきた。
ディレットは特に何もないと言うと、コモモはすぐ帰ろうとしたので休んでから行くように言い、収納空間から瓶入りのオレンジジュースを出してやる。
冷たいものを買って、そのまま入れておいたので、冷たいままのものを飲むことが出来る。出したついでに自分とクーアの分も用意する。
机の上に銅貨を数枚積んだ後、布を敷いてコモモ用の即席腰掛けを用意した。
そこにコモモは座ると、自分用のコップに入れたオレンジジュースを『ゴクゴク』と勢いよく飲んだ。
「おいしいリー。おかわりほしいリ」
コモモは、オレンジジュースの冷たさと甘さから笑顔になる。
おかわりは、ディレットが瓶を傾けて、そこをコモモが掬うようにしておこなった。
「あっ、俺オレンジジュースに合いそうな食べ物、ちょうど持ってるぜ」
クーアは、そう言い出すと持っていた袋からコモモが一体ほど包まっていそうな紙袋を取り出して、紙袋を解いていく。
紙袋の中身は、コモモではなく。黄色い楕円の型をしたものだった。
「なんだ、チーズか?」
ディレットは、ナイフで切り分けて渡されたものを見て言った。
「ああ、『ファーニチーズ』っていうんだ。うまいから食ってみろって」
クーアは、そう言った後、まずは自分から食べて見せた。
「……まあ、いただくか」
ディレットは、ジーっとその食べる様子を見た後、匂いを嗅ぎ、特に異常を感じなかったので口の中へと入れる。
「いただきますリ。モグモグ」
二人は、ナイフで一口サイズに切り取って食べ、コモモは自分の頭ほどの塊を貰い、両手に持って、かじりついて食べる。
「なっ! どうだ、うまいだろ? このチーズ」
「ああ……うまいと思う」
「とっても…モグモグ…おいし…モグモグ…いリ」
「……ただ鼻がバカになるのが欠点なんだけどな」
クーアは、さらっと状態異常を付加する食べ物であることを告げた。
「はぁ!? お前は、そういうことは最初に言えよ――」
「大丈夫だって、半日もかからない数時間ぐらいで元通りになるし、ちょっとバカになるだけだって。それにうまかっただろ?」
「そういう問題じゃない! ちょっとちょっとが積もって大バカになるかもしれないだろ!? もしかしたらずっとバカになるかもしれないじゃないか。信頼があるところから買ったんだろうな?」
「そんなに心配するものじゃないって。
これは、俺が小さい頃から食ってるものだし、近所の皆も食ってたけど大バカやずっと鼻がおかしくなった奴はいないよ。ヒャラルラだって小さいころから食ってるけど今も平気だし」
鼻が利くヒャラルラを引き合いに出されて、ディレットも害の無いものだと認識し落ち着いていった。しかし、「ヒャラルラか……」と少し思うところはあった。
「……なんにしても、状態異常を付加する食べ物なら最初に言わなきゃダメだろ。わかった?」
「――わかったよ。そんなに言わなくてもいいじゃん。これ俺んとこじゃ知られてるんだけどなー。なっ、コモモ?」
「アッチは知らなかったリ。でも平気リ。チーズとっても美味しかったからまた食べたいリ」
コモモは、自分の頭ほどの塊をもう食べてしまっていた。
「そうだろー。クセになっちゃう味だからな。でも食べ過ぎはよくないから、また今度な」
「リーー。楽しみリ」
「…………」
それから三人で雑談をしていると、討伐期間中に食べる料理はどんなものかとコモモは聞いてくる。
ディレットは、数品料理名を上げた後に、大したものは出ないから過度な期待をするな。と、絢火達に伝えておいてくれと言う。
コモモは、上げられた料理名の一つから、
「絢火達がシチューにはタバスコが美味しいって、いっぱい混ぜるのが美味しいって言ってたリ」
と、思い出し伝えた。
『タバスコ』は『コーヒー』同様にジィーラ皇国では、まだまだ認識が薄いものである。
ディレット、クーアそして言った本人のコモモも、タバスコがどういったものかは知らず、三人頭の上で「?」がならんだ。
そして、美味しいなら買ってみては? となり、タバスコを買いにアマノハシ調味料専門店へと三人は出かけることにしたのだった。
◇
「ちょっと、すまない。タバスコというものを味見したいんだが出来るかな?」
ディレットは、店で働いていた男に話しかける。
男は少し考える仕草をした後、
「最近人気が出始めてきた『オレンジタバスコ』ですね? わかりました。では、ご用意致しますので、そちらで座ってお待ち下さい」
と、言って準備のため男は、店に奥に入って行った。
ディレット達は、言われた通りに長椅子に三人腰を掛けて待つことにする。
しばらくして、三人の奉公人達がお盆を各々持ってやってきた。
「オレンジタバスコの味見ということで持って参りました」
と、言って。タバスコが乗ったお盆をディレット達に差し出してくる。
タバスコが入った小瓶はガラス製で小さく中身が見え、手のひらに収まる程度。飲み口はネジまき式の蓋で閉まっていて、振ったら少量でるタイプのものではなく、横にしたら、『どばどば』と出てくるものだった。
「ふーん、オレンジ色か……柑橘系か?」
ディレットは、瓶から覗かせる液状の色から推測する。蓋を開けて匂いを嗅いでみたが鼻はバカになっている最中だと思い出す。
「柑橘系ねー。シチューに合うのかね?」
「おいしそうな色リ。オレンジジュースみたいリ」
コモモの前には、液体を乗せている状態のスプーンがある。
その液体を見るコモモの瞳はキラリと輝いて綺麗で、よだれもタラリと落ちかけてキラリと輝いていた。
ディレット、クーア、コモモは先刻ゴクゴク飲んでいた、オレンジジュースの味がどうしても色味から呼び出されている。
ディレットとクーアのお盆の上にも少量の液体が注がれているスプーンが置かれていた。
しかし、二人はこの存在を無視する。
なぜなら、小瓶の小ささから、これが市販の大きさとは思わなかったことと、店主がコモモを見て他にもラタトスクを連れている場合を考えた、気を利かせたものと思い。深く考えることをやめてしまった。
そして、クイッと瓶から飲みたくなる形状、色。味見専用に出された飲料物か? と勝手な解釈も働いていた。
クーアは、善意でコモモのスプーンに大量の液を足して上げる。喜ぶコモモ。
飲み始めようとするディレット達。
その様子を見て奉公人の一人がなにか説明をしようとする。
しかし、ディレットは余計な手間を取らせるのもどうかと思い。「飲めば分かることだ」と言い。説明を遮り、飲もうとする動作は続く。
そして――
ディレットとクーアは、小瓶を手に勢いよく飲み込み。
コモモは、大きな盃に入った酒のように『ゴクゴク』と飲み込んだ。
――大惨事だった。
その後。
ディレット達は惨事の詫びも含めて『オレンジタバスコ』を一本買う予定だったのを四本買うことにして、その説明も受けた。
そして、皆無言でそれぞれ場所へと帰っていくのであった。




