第四章:第九話
休み三日目、早朝。
ディレットは食材を買いに食品市場に来ていて、今はタマゴを売っている店にいた。
今回の『討キャン協定』により、食料は絢火達四名が追加されて多くなる。
他の食材は、ある程度纏まって買えるのだがタマゴはそうはいかない場合がある。十個単位とかではなく百単位だからである。
保存状態の良くない古いタマゴになったり、他の人がまったく買えなくなって目をつけられたりする。
なので面倒だが、こまめに買いに来なくてはいけない。保存状態の良くない古いタマゴは食あたりがものすごく怖い。ディレットのタマゴを選ぶ目はゴブリンを倒す以上の神経を集中させていた。
しかし、毎回買いにくるのは面倒なので信用がおける店主を見つけたり、顔を覚えてもらい信用が出来たらそのうちアマラ館まで宅配して貰おうとは思っている(これは他の食材にもいえる)。
タマゴと各食材の買い物を終え、次に寄ったのが生活道具店。
ディレットは羽釜売り場でどれを買おうか迷っていた。
羽釜を買おうと思ったのは飯ごうでそれぞれ飯を炊くより一つの羽釜で炊いたほうが楽だから。
ただ、大きさは大きければ良いというものでもないので、どの大きさが適切かディレットの頭は今おにぎり換算をしているので、おにぎりで一杯だ。
一合のお米で作れるおにぎりは、大人のこぶし大ぐらいの大きさで大体二個。今持っている一つの飯ごうでは、四個作れる計算である。
収納空間の収納限度に関しては羽釜の中が空の時は、その中に物を入れておけばよいので、あまり気にしてはいない。
数分後、
一通りおにぎり換算を終えたディレットは『2升羽釜』を買うことに決め、ついでに『しゃもじ』も決めた。
『3升羽釜』と迷ったが、必要になればまた買いに来ればいいやと頭をおにぎりにするのをやめる。
ちなみに一升は十合となり、二升なら大体四〇個のおにぎりを作れる計算となる。
一応断っておくが、いっぺんに食べるものではない。一回の炊き上げで晩と朝(軽く食べる程度)の二回の食事分と考えている。
今までは決まった(現段階でも朝ご飯は決まったものではない)朝ご飯はなく各自が持つ『スティックレーション』を食べて過ごしていた。
次に買おうとしてるものが食器類と米びつ(炊く前の米を入れておく箱)。
食器は木製のプレート型の物とコップを十一個。個数はいろいろ考えるのはやめて必要そうだと考え買うことにする。
米びつは出し入れしやすい物に入れておいたほうが楽だと思ったのと、ほとんどの食料を収納空間にずっと入れているのが、状況によっては外へ出して置いて他の者が自主的に米を炊けるようにしたいと思ってのこと。だがまあ、気まぐれである。
価格は、ただの木の箱に見えるがピンキリであった。
材料の木がもつ特性である通気性、保湿性、害虫防止など効果の高さなどが大きく価格に関係してくるだろうし、それらを米びつとして作り上げる匠の技術も大きく価格に影響される。
ただ、収納空間能力を持つものには、それらの特性はほとんど意味がない。むしろ、ただ入れられる箱や布袋があればいい。ディレットも今までそうしてきた。
のだが、ディレットは無駄に特性がいいものを選ぶ。なんかお米がおいしくなりそうだから。
外観も木の目が浮いたものがほとんどで一般の者から見たら大差はないが、同じ素材のものでもディレットは少し高い方を選ぶ。なんか匠の技でお米がおいしくなりそうだから。
羽釜、しゃもじ、米びつ四個、食器各十一個で合計は、銀貨約四十枚。
料金はパーティ費用として後で皆から徴収する。
……多分怒られるとかはない。高いといっても選んだものは通常のものに比べたら銀貨二枚程度高いもの。飲む量にもよるが、飲み屋で払う一人分ぐらいだろう。
むしろ匠の作品を見ることで「いい買い物したね!」って褒めてくれるかもしれない。
まあ、米びつ自体いらないかもしれないが……
いや、いるんだ。日頃、こういった物を見ることで目が肥えていき武器、防具などの良し悪しも判ってくるというものだ(ディレット談)。
それと、絢火達からは徴収する予定は今のところない。
この後、空いた時間でディレットはいつものようにいろいろと街内をまわる。自分が探している『なにか』の情報を得るためである。
ただこの頃は意思がない物というよりは、なにか意思がある者であると自分のなにかが囁いてその方面で動いている。
探す場所は当てなどない。人通りの多いところ、少ないところへいってみたり、なにか変わったことはないかなどを聞いてみる。
数時間後、
特に気なるようなことはなかった。
シバグリにも先日会った時に、なにか変わったことはないかと聞いてみた。
そんなことを唐突に聞かれたシバグリは困ってしまっていたが、なにかあれば知らせてくれるといってくれた。
この街でニュースを追い求めている彼らだ、自分が探すよりも当てになるものと思いたい……
◇
夕方頃、
買い物、散策から戻り自室で過ごしていると、ビスク、ヨーンズ、クーア、ゼフ、ヒャラルラがやってきた。
理由を聞くと夏場の熱中対策として魔道具の『クールゲルペンダント』を買わないか、ということだった。
【クールゲルペンダント】
発動させた《プロテクションゲル》、《フィルムゲル》などに対して冷却効果を及ぼして体を涼しくさせる魔道具。
発動にはMPが掛かり、単体で発動させても意味がない。
効果がある部分はトップのみなので鎖とわけて、装備している討伐者タグの鎖に付け足してもよいし、ポケットなどに入れていてもよい。
討伐者などは、一回限り半額で買うことができる。
反対に温める効果がある『ホットゲルペンダント』というものもある。
◇
ディレットは「うーん」と考える。
夏といっても今まで、幼少期の記憶が薄いが一三回は夏を経験してきている。どれくらい暑くなるかは大体知っているし大層な言い方だが乗り切ってきた。
ただ、それは『凍』の魔属性持ちがいて涼しくしてもらってきたのと日差しが強く暑い日などは日陰などで休んでいることが多かったためで、あまり苦労はなかったかもしれない。
今後は、暑い日の戦闘があったり、それが長い時間続くものだったりとする場合がある。体調を維持するためにも有るべきものかも知れないと考え、MPは節約していきたいけど体調が崩れたら元も子もないないので買うことにした。
今回、アディルトは『クールゲルペンダント』に関してはもう持っているらしく参加はしない。
買いに行く店はアマラ館の外ではなく内にある売店屋で、そこに着くまでの間、昨日会った絢火達のことが自然と話題になっていった。
「俺は、和恵ちゃんがいいと思うよ」
ビスクが唐突に絢火達四人の中から好み子を上げた。
「お前は、最初否定的だったのに何なんだ?」
と、クーアは唐突にいわれた言葉が何をいっているか瞬時に理解して発言する。
「もう、決まったことだからね。なら前向きに考えていかないと」
「まあ、あの中では一番おとなしそうだったか――」
「そうそう。で、ヤバそうな子があの中で一番背が低かった一華だね。
なんかおとなしくしてたけど、押さえつけられていたって感じがあったよ。
確か始めて会った討伐者の村で暴れまくってたのが、あの一華だった気がする」
「ヒャラルラタイプか?」
「ん?」と、ヒャラルラが反応する。
「いや俺の見立てだとヒャラルラより狂暴だとみたね。
なんだかんだいってヒャラルラは戦いの時以外静かだし、あれは常に噛み付く機会を窺ってるような気がする」
「そうか? ヒャラルラも常にそんな感じだろ? ディレットが手綱を握ってる感じだからそう見えるだけであって」
と、ヨーンズがいう。
「ん?」と、ヒャラルラが反応する。
「大丈夫だろ。現にあの場では静かだったんだし、和恵に関してだがリーダーは絢火といっていたが和恵のほうが全体を取り仕切っているようにみえたな。多分おとなしいだけじゃないだろう」
と、ディレットがいう。
「ということは、消去法でいって紗奈が一番いいってことか?」
と、クーアがいう。
「うーん、どうだろうね。なんかうまいことあしらわれそうな感じがする。魔性系っていうのかな? 物腰柔らかそうに見えて隙きを見せたらブスッといくタイプと見た」
と、ビスクは少し視点がズレたことをいう。
「じゃあ、絢火が一番いいってことか?」
「うーん、でもあれはもう決まったような人がいるみたいだし……」
と、ビスクはディレットを見た後にいう。
「ああ、そうだな。変に波風は立てたくないな……」
と、クーアもディレットを見た後にいう。
「そういえば、ゼフはさっきから静かだけど、なんで?」
「こいつは、ムッツリなところがあるからな一人でイヤらしいことでも考えてるんだよ」
「っ! そんなんじゃない! ただちょっと考えごとをしていただけだ……」
「ふむ、絢火か一華だな……」
クーアはゼフが過去に好きになった子から推測してみる。
「マジかよ……悪いことは言わないからどっちもやめとけ……肉体的に傷つくほうが先だから……」
「ホントに今の所、誰も興味ないから! 一華達も夏場対策をしているのかなって思っていただけだよ」
「アイツらはアマラ館じゃなく親戚が用意した家で皆暮らしてるんだっけ?」
と、クーアがいう。
「そんなようなことをいってたね。生まれた国もジィーラじゃなくてアマノハシっていってたし、なんにしても連絡がすぐにできないのは不便だよ」
と、ゼフがいう。
「絢火達にはシバグリがついているみたいだしな。そういった細々したことは相談に乗ると思うから問題はないだろ」
と、ディレットがいう。
「しかし、あのコモモとかいった小さいのは『リーリー』うるさかったんだが、なんで連れてきたんだ?」
と、ヨーンズが話を変えていってくる。
「まあ、そういうな。大方シバグリの仕事を覚えようとしているんだろう」
と、ディレットがいう。
「ん? いや別に悪い意味でいったんじゃない。話し振りからシバグリには他にも部下がいるようだったからな、なんであんな十四になってもいない子をわざわざ連れてきたんだってことだ」
「それはそうだな……まあ偶々人がいなかったから、とかじゃないか。なんであれ一緒に戦うわけじゃないから俺は別に構わないけどな」
「ディレットがそういうなら俺はいいが、ただ使いにしても出すならそれなりのものが来ないと失礼になるってことを言いたかったんだ」
「ヨーンズは堅いな―。俺ら討伐者なんてそんなのどうでもいいじゃん」
と、ビスクがやれやれといった感じでいう。
「むー。まあ、そうだな。ちょっと神経質な感じだったか……」
「そうそう、あと小さいからって変なことしちゃダメだぞ」
「するかっ!」
「俺の所へ主にやってくると思うが、お前らも見かけたらなるべく気にかけてやれよ。大事なパイプ役になるかもしれないんだ」
「わかってるってパイプ役であろうがなんであろうが、ジィーラ人なら十三歳以下にはやさしく接しないとな」
と、クーアがいう。
「それと一応、ヒャラルラに言っておくが力加減には本当に気をつけろよ」
「だいじょうぶ」
「ほんとうか……? 試しに俺の指をコモモに見立てて握ってみろ――」
ジャンケンのチョキを閉じた感じに二本の指を立ててヒャラルラに握らせてみる。ヒャラルラは自分のライトアックスを握るように力を込めて握った。
「つえぇよ! 口から内蔵が飛び出てくるぞ! やっぱりお前は絶対に握ろうとしたり捕まえようとしちゃダメだ。相手から乗らせるように接しろ。わかった?」
「ええぇ……わかった。別に握ろうとも思わないし、どうでもいい」
――と、そんなことを話ながら店へと着いて目当てのものを見つける。
討伐者特典を使って定価、銀判貨八枚のところ半額の銀判貨四枚で皆、買うことが出来た。
この後、ビスク達はまた飲みに行くらしい。
ディレットも誘われ「じゃあ、飯だけな」といって軽く付き合うことにして、この日を終えた。




