第四章:第八話
休み二日目。
メンバーに『討キャン協定』の話をした結果――
全員来ることになった。
話を聞いたメンバーは「急すぎる」などのようなことをディレットにぶつくさと言い、ディレットは「まあ、そういう反応になるよなー」と思いながら静かにそれを聞いていた。
でも、しかたが無いよね、ディレットもいきなり言われたんだから。まさに昨日、今日の話なのだ。
◇
指定された店は広く、静かな雰囲気の店であった。
昼はノンアルコールの飲み物をメインにしていて軽食などもある。夜はお酒も出すらしい。
インテリアとして、観葉植物、本、風景画なども飾られていた。
ディレット達は、最初指定された店に来て戸惑ってしまった。
今の生活では縁のないオシャレ空間だったから。
そして今、着ている服装もかなり着古した物であり、オシャレな物とはとても言えない。
アディルトだけは、なんか民族衣装ぽいのを着ているのでオシャレに見えなくもないが……
個人の飲み屋では花瓶一つでもあれば、その店主の意気込みを買うだろう。
酔った勢いでの武器として扱われたり、おぼつかない足取り、手付きで割られたり、酔った者が「気に入った!」といい勝手に持って帰る。
などで、一日と保たないことだろう。
ディレット達が日々見ているのは、そんないらないものは置かない殺風景な空間。
今のところ知っているオシャレ空間と聞かれた場合、すぐに出てくるのはアマラ館にある受付ロビーぐらいだろうか。
店名は『プレイス ~ シオン ~』、なんてことは無い名前かもしれないが、ディレット達が打ち上げもに行く飲み屋の店名は『料理石垣』。
なんだが名前もオシャレに感じ、そしてなぜか『料理石垣』を応援したくなってくる。
商品の価格もオシャレ感でプラスされていた。
そしてもう一つ、戸惑っていたことは会った人物たち全員が女性だったこと、しかも前に討伐者の村で暴力現場を目撃した四人組だったからだ。
彼女達は先に来ていて、静かに座って待っていた。
着ている物もそれなりにオシャレに気を使っているのが覗える。
店内は三、四席毎に胸ほどの高さがある敷居があり、部屋を4つ程の空間を分けている。
その一つの空間を貸し切るように、ディレット達と女性四人が席につくことになった。
長四角のテーブル、片側4人席にディレット、アディルト、ビスク、ゼフが座り、その反対の席に四人組が座っている。
テーブルの上にはラタトスク種族のシバグリとコモモが居て、隣の片側二人掛けの別席に残りの者が座った。
「ここはコーヒーがおすすめッスよ」
シバグリがそういったので、ディレット達は全員コーヒを注文することにした。
コーヒーは、近年アマノハシ連邦国がコーヒー豆の栽培に力を注いでいて各国に輸出を少しずつ伸ばしているものであった。
ジィーラ皇国内では、まだまだその味を知らないものが多いといえる。
アディルトを除いてディレット達も飲むのは、これが初めてになる。
◇
飲み物が、それぞれに行き渡ったところで、シバグリが挨拶を始めて、自分とコモモの紹介を簡単に言っていく。
コーヒーを飲みながらその話を聞いて、各々コーヒーの感想をいいあっている。
各々、差はあれどコーヒーを気に入ったようで味を楽しんでいる。
が、ディレットはまだ熱そうなので飲んでいない。皆の感想からコーヒーの期待は高まっていた。
「では、ディレットさん。アッシから名前だけ紹介させてもらうッス。
左から絢火さん、和恵さん、一華さん、紗奈さんッス。
全員、今年十四歳になる人間種族の女性ッスね。
ディレットさん達も名前を教えてもらってもいいッスか?」
名前を言われた絢火達四人は、軽く会釈をして応える。
前回見た暴力女の一面を感じさせない、お淑やかな女性のように見えた。
ディレット達も各々名前と軽く自己紹介をしていく。
それから、全員の紹介が終わると絢火の口が開かれようとする。
と、皆の視線が自然に集まり、ディレットと視線が合った――
「あっ……。
私がこの三人のリーダーをしてる絢火といいます。
今日は来てくれて、ありがとう。
私達は討伐者の村を主に拠点にして偶に外で野営をしたりして討伐をしていたんだけど、そろそろ本格的に深度を深めて討伐しようかと思っていたんだ。
そこで、そこにいるシバグリにいいパーティがいないか相談していて、デ、デデットの話が来たんだ。
どうかな? 『討キャン協定』なら結んでも負担はないと思うんだけど……」
「いいんじゃないか。もともと俺は協定を結ぶつもりできたしな。
それとデデットじゃなくてディレットな。それだと効果音みたいになるから……」
ディレットとしてもとりあえずやってみないと何とも言えないので了承する。
それを聞いた絢火達も『ワッ』と笑顔になった。
だが、そこでアディルトが難しい顔をしながら言葉を挟む。
「待って下さい。『討キャン協定』と言ってもそれなりに良い関係を持ったものでないと意味がありません。
私としては、もっと彼女達を知ってからの方がいいと思いますが」
アディルトの頭には絢火達が男達を殴りまくっていた光景が浮かんでいて、何かあった場合それが自分になるのを恐れての発言であった。
ディレットは、アディルトの方へ顔を向ける。
そんなことを聞いた絢火達は、
「なにいっとんじゃいワレー!」
と、いった感じで今までのお淑やかさは、どこにいったのかアディルトを鬼の形相で睨む。
が、ディレットがアディルトから絢火達に顔を戻すと一瞬でお淑やかフェイスに戻った。
「お、俺ももう少し、知ってからのほうがいいと思うよ。
ぼうりょ…活発そうだから、ちょっと合わないかも知れないし……」
ビスクもアディルトと同じ光景が浮かんでと、今見た鬼の形相からの発言である。
ディレットはビスクの方へ顔を向ける。
絢火達は、
「あ゛あ゛っ! だれだテメーは! ひっこんでろ!」
と、いった感じで今度はビスクを睨み。
が、ディレットが…以下略。
「俺はいいと思うよ。
それに彼女達を知るっていっても俺達も彼女達もほとんど外で仕事してるんだから知る暇なんてそうはないんだし。
今回、この話を無くしてたら、『討キャン協定』自体特にやる相手も予定もないんでしょ? なら経験も含めて受けてみたほうがいいんじゃないかな」
ゼフは彼女達の鬼の形相時、ディレットと同じく顔を発言者に向けていたので見ていないからの発言である。
それを聞いた絢火達は、
「よく言った! お前は将来、メガネが似合うぞ!」
と、多分褒めている感じで視線を向ける。
隣席にいるヨーンズとヒャラルラは、特に反対はしなかった。静かにコーヒーや周りのインテリアを見ながら聞いて(たぶん聞いている)、ディレットの意思に従うようにしていた。
クーアは賛成も反対も表明せずにいた。
「なぜビスクは反対しているんだ? 全員かわいいし、お近づきになるチャンスだぞ? 何かあるのか?」
と、その真意がわからず気持ち的には全面的に賛成だが、多少なりともビスクというものを理解しているクーアは、静かに控え見守っていた(特にビスクに注意を払っていた)。
「俺もそう思ってるんだよな。
アディルトもビスクもそんなに言うなら休み中にでも彼女達の飲み会にでも混ぜてもらって話してみたらどうだ? 少しはお互いを知れるんじゃないか?
俺は一昨日飲んだばかりだから遠慮するがな」
「「えっ!?」」
アディルトとビスクが意表をつかれたことをディレットに言われ、しどろもどろになる。
「はぁー、わかったわ。じゃあ、そこの二人と他に私達に話がある人は今日にでも静かな場所…酒場にでも行って語らいましょうか……」
絢火が仕方がないと冷たい炎を宿した視線で二人を見て言った。
二人はこのままではヤバイと直感がいい。
脈略なく「賛成しまーす!」といって、この話は決着がついた。
それから数十分間、こまかな話をする。
彼女達のラステムを知ることも出来た。
全員主軸としているラステムは『ニンジャ』であった。
【ラステム:ニンジャ】
タイプ:武道
扱い方にもよるが、全般的に対人を意識されている部分が高く、隠密が得意というよりも威力偵察を目的にされていて相手とぶつかり戦力を図り離脱することを得意とする。
その手助けとなるものに『忍具』というものがある。
これはニンジャのラステムを持つものを対象に作成されたもので、ランクが上がればより性能、効果が高いものを扱えるようになる。
忍具を上手く使えば、多少ランクが上のものと戦っても難なく勝つことが出来る。
だが、そんな忍具にも難題があった。それは金である。
忍具は高価で多くの物は一回から数回使用したらその効果を失ってしまう。
『ニンジャから忍具を無くせばただの人』
とまで言わないが忍具が無いニンジャは大きなアドバンテージを失っている状態にある。
なので多くの下位ランクであるニンジャ者は金欠でいるのが一般的である。
◇
金に関して彼女達も例外ではないだろうが、こんなオシャレ感が価格にプラスされている店に来れるには資金力があるか、または忍具を使用しなくても強いということが窺える。
ディレット、アディルト、ゼフもラステムのことを聞き、この理由から強さには問題ないことを思った。
討伐拠点を決めて、そこで問題になったのが討伐数によるズレから生じる協定期間であった。
今度、受ける依頼討伐数をディレット達は三百、絢火達は二百としていたので絢火達が当然早く依頼を達成して街へ戻ることになるだろう。
こうなると『討キャン協定』のうまみが絢火達にのみ強くなってしまう。
なので過去の百と二百の討伐依頼経験からディレット達と一ヶ月間(二十八日間)はキャンプ地に留まるとさせてもらう。
だが、このことで絢火達からは当然の如く反発が起こる。
ディレットは、まず自分が空間収納能力があることを話して、二点の提案をすることにより了承を得ることができた。
一つ目は、一ヶ月間は一日一人銅判貨五枚の食費をもらい料理を提供(原則、夜のみだが余裕があれば朝も出す)するということ。
二つ目は、行きのみ収納空間の余裕がある限り、荷物を持つこと。
二食出した場合は、完璧にディレット達の負担になるが、今後の良い関係を築くためにも少しぐらいは負担してもいいだろうという考えである。
『スカーレットハート』は余っても次回の依頼に足せばいいので無駄になるものでもない。ディレットも少数だが今持っている。
その後、少し話をして帰ることになった。
帰り際にディレットは、もう完全に冷めきったコーヒーに気がついて飲むことにした。
ただ期待していた感じと違い苦かったため、軽く「にがっ」といったら、
それを見ていたコモモが小さく「ニガットさんリ」といいながら両手を軽く口にあててクスクス笑う。
コモモは、その小さい体をディレットにつかまり顔を両手でモミクチャにされるのであった。
「リ~~~~リ~~~~」




