3話:王都へ向かう
「…サキザワ ユキオ?変わった名だな。ファミリーネームがサキザワか?」
「そ。で、幸夫が名前。やっぱこんな名前は珍しいもんなのか?」
「私は聞いたことがない。ファエヤルはどうだ?」
「…次元漂流者はそう言った名前が多いと聞いた。」
「さっきも聞いたけど次元漂流者ってなんなんだ?」
次元漂流者という言葉についてマリナさんに聞いてみる。
俺みたいな名前が多いってことは…。
「次元漂流者ってのは貴様の様に貴族でもないのに魔法が使えて、尚且つここでは無い別世界から来た奴…だったか?主にソイツ等は来て早々王都に向かうらしい。正気を疑うよ。」
「異世界…。王都に向かうって、王都は無事なんですか!?」
どうやら転生者で間違いないらしい。俺以外にも送られてたってことか。別口で送られてきたのかはさておき、王都はこんな惨状にはなっていないのか?それとも何かで守られてたりするのだろうか。だがそれだと彼女らがそこに避難しようとしないのもおかしい。
「?あぁ、そうだったな。次元漂流者ならば知らないのも無理はない。先に何故こんな惨状になったのか、からだな。」
そうしてマリナさんの口から語られたことに俺は唖然とした。
まずこの世界は既に約8割が魔王軍によって壊滅、または魔王軍に降伏をしている。神すらも歯が立たず、世界は分割され各場所に魔王の親衛隊が送り込まれた。今はその親衛隊がそこを支配または破壊活動を行っているらしい。
「絶望的じゃないか…。そうだ!ゆ、勇者は現れなかったのか!?もしくは貴族は魔法が使えるんだろ!?」
「…………ったんだよ。あいつ等は。」
「え?」
よく聞こえなかった。しかしマリナさんの肩が小刻みに震えていることから怒っていることが分かる。そして、
「貴族はな!魔王が攻めてきたときに真っ先に降伏、媚を売ったのさ!赤子だった勇者を手土産にな!勇者の親も止めやしなかった!親は貴族に昇進、貴族共は更に平民を全て売った。そうすることであいつ等は魔法を使えるようにしてもらったんだ。吐き気がする。」
…勇者を売った…?自分達が助かるために市民すらも。
胸に何か、どす黒い感情が湧いてきた気がした。なんでそんなことが出来たのか。まさかここまで酷いと思わなかった。
魔法に関しても当分は使わない方がいいだろう。それでも転生者について知るにはそこに向かわなければならないんだろう。
「そうだったのか…。」
「だが平民もただじゃ終わらん。それがこれだ。」
そういって先程とは違う、薄く笑った顔で銃を取り出す。
白いカラーリングのライフル位の大きさのものだ。外見はかなりゴツい。そしてカートリッジを差し込む部分には紫色の石のようなものが嵌め込まれている。
「あ、さっきのビーム出してたやつか。それはなんなんだ?」
紫色の石を取り外し、此方に見せながら、
「これはヘストリア鉱石だ。この鉱石は空気中の魔力を吸収、または溜め込んだ魔力を放出することが出来るものでな、この銃はその時の魔力を攻撃魔力に変換し、攻撃するものだ。」
「それで平民でも魔力を利用することが出来るようになったのか」
「そういうことだ。幸い、この鉱石は良く採れるからな。ここの住民全員に行き渡っても余る。」
そう言って彼女は辺りを見渡す。つられて俺も見渡す。
村、というよりは野戦病院に近い。建物は殆ど崩れており、人はテントで過ごしている。一際大きなテントには怪我人が運び込まれている。
「…それで、お前は王都に行くのか?」
「…あぁ。次元漂流者についてやこの世界についても知りたいからな。」
ここに居ても鉱石は足りても食料や物資は足りないだろうし、何より自分と同じような転生者についても知っておかないと。
あの話を聞いてからだと気が滅入る。それに、貴族をどうにかすれば少しは状況が良くなるかもしれないし、他の分割された所にも行けるかもしれない。
「…私も同行しよう。親衛隊の奴をやるチャンスがあるかも知れんし。何より貴様一人では場所も分からんだろう?」
「だ、だがよ、ここはどうするんだよ。」
「ここはファエヤルに任せておけば良い。今日は休め。明日向かうぞ。」
こうして、俺の転生生活一日目が終了した。
前世とは比較にならんほど濃いものだった。
「向かうわけだが、貴様…まさかその鉄の棒で戦うつもりか?」
「いや、だってな、武器がないからよ。」
「ならばこれを使え。少しはマシになるだろう。」
先端に穴が開いている小さな棒が貰えた。これでどうしろっていうんだ。鉄の棒より短いぞ。
それは黒を基調としたカラーリングのもので先端の穴には先程のヘストリア鉱石が埋め込まれている。
「それはスイッチを押すと魔力を吸収しつづけ、魔力を刃の形に放出しつづける。俗に言うビームソードというやつだ。」
まさか、ビームソードだとは思わなかった。鉄の棒が霞んで見える。ためしに魔力を放出されてみる。
それはマリナさんとは違い、真っ黒な魔力だった。純粋な黒。
覗いていると飲み込まれそうな、こちらが覗かれているような感じだ。
「…よし、なら行くとするか。」
「あぁ!」
王都はこの大陸の真ん中にあるらしい。移動は徒歩。
理由は、馬車なんぞで移動するなど狙ってくださいと言ってるようなもの、だかららしい。
そうやって歩いて行動していると、
「…まさか本当に馬車で移動しているアホが居たとは。」
そう、マリナさんが言うと同時に、ベレトらしき化け物と半壊した馬車の前で魔法?で戦う華美な格好をしている女性、何人かの部下らしき人達が居た。
「馬車なんぞで移動する奴など貴族以外にはありえんな。助ける必要なんぞ無い。先に進むぞ。」
マリナさんはそうは言うが、あの女性がそんなことをするような人には見えなかった。その女性は部下らしき人達を下がらせて自分が戦っていた。その目は真剣そのもので、強い人だと思えた。
「マリナさん…あの人たち…助けられねぇか?」
「…なに?」
マリナさんからの視線が冷たいものになった気がした。
それでも俺は続ける。
「あの人たちはアンタが言ってる奴等とは違う気がするんだ。あの人たちを助ければ何か情報が貰えるかもしれないし、王都へ入りやすくなる!」
「…………」
マリナさんは少し考え、嫌そうにしながらも
「貴族は嫌いだ。だが、だが自分の好き嫌いでこの機会を潰すのは阿呆のすることだ。非常に不本意だが援護する。」
そうして俺達は馬車に走っていった。