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87話

結界に閉じ込められて少しの時が経った。

今、カイルは軍事施設内を好奇心から探検していた。

そこで、珍しい剣を見たり、携帯食料を食べて見たりした。

それが少しだけ、破壊の衝動を抑えてくれる。



 内部構造が襲撃を受ける事に向いていない、なんて考察してみたりなど。

カイルの心には意外にも余裕がある。

しかし、時間が経つに連れて表と裏、触りたくない闇が自分に絡み付いてくるのを強く感じるようになってきていた。

そして、好奇心などの人間の根本ではない欲、色んな物が複雑に絡み合った解明の難しい欲望を満たす事にデシアが意識を向け始めた。



「もう、戻れない」


 赤く染まった自分の手を見る。

足も、胴体も、何処を見ても血飛沫に染まっている。

精神的な疲労はたった1、2日休んだ程度では治りそうにないが、身体は活力に満ち溢れていて、周りの全てを破壊したくなる。


 今のカイルは当人の意識がある時間と、無い時間の比率は徐々に変化してきていて、あえて数字として割り出すならば、1:20だ。

計算して、混ざり合う思考が考える。


『これは俺が壊れるまでの過程だな』


 そしてふと、思う。

デシアとは、何なのか。

この力が悪魔だと聞いている。

悪魔は考え方がヒトにとって異常なだけで基本的にヒトに友好的だと言うことも知っている。

だとすれば、ヒトを狂わせる悪魔の目的は何だろうか。




『私にも、分からないわ』


 答えが返ってくる。

普段なら無視していた、が、やることがないので会話してみる事にした。


「分からないとは?」


 一度目の様に、二度目もすぐに返ってくる。

その答えは比較的冷静さを保っていたつもりのカイルにも衝撃的だと思わせるものだった。


『私は元々ヒトだった。 次に悪魔になって、今はデシアと呼ばれてる。 どうしてそうなったのかなんて覚えてないけれど、昔はヒトだったの』


 到底信じることは出来ないが、嘘を言っている様には見受けられなかった。



「何故、ヒトを憎む?」



 カイルは思った事を素直に問いかけて見る事にした。

すると、思わぬ事を聞かれた様に美しい黒髪の女が目を見開いた状態で視界に現れる。

側にあるガラスには、反射していない事から現実に存在している訳ではないと解る。


『憎む? どういうことかしら』


「惚けるな、お前が俺の感情が理解出来るのと同じようにお前の感情はある程度理解出来る」


 精神の主導権が、入れ替わる。

身体の外にいる魂はカイルとなった。

どちらも気にせずに、そのまま会話が続く。


「憎んでなんかいないけれど……だってヒトや悪魔、まあ自分の肉体を持っていた頃の記憶がないのだし」


『なら、何故俺を狂わせようとする?』


「あなたに素直になって欲しいだけ。 素直に、正しい道を選べば楽だから」


 正しい道。

何度も正解を無視し続けたカイルは今日、暴走して何もかもを諦めた。

それは自殺と変わらない。

生きる事を諦めた弱者が選ぶ最後の逃げと、何一つ変わらない。


 それに今更、正しい道など存在しない。

どうしようもないほどに追い込まれてしまった。


 彼の仲間は助けると言ってくれた。

しかし、誰も助けてくれないからこうなったのだ。


『今更、どうしようもない』


 せめて、最後にこの力を屈服させたい。

カイルには今、そんな欲望がある。

しかしそれは不可能だ。

この技術は決して完全ではない。

完全と呼ぶには何もかもが足りていない。


 だから手を出してはいけなかった。



 だが、必要だった。

だから手を出して、今日は結果が出た。

仲間を救えた。

だから、後悔はない。

そして、この先に出来ることは何もない。


「あなたは絶対に殺されない、何故なら必要だから」


『必要……ね』


 信じていないと取ったのか、補足で説明が入る。


「今回の戦争は、予想通り彼女が始めたもの。 そしてあなたはその戦争で両軍を叩き潰した」


『もう、分かったよ』


 デシアという力の本質を見せつけて、今まで以上に力の研究に傾倒させる。

ダンテが持つこの力の技術を提供するとなれば、誰もが彼女を求めるようになる。

そうなれば、彼女は世界の支配者だ。

尤も、彼女は世界を滅ぼすと言っていたので、それを真実と見るならばそのつもりはないと考えるべきだ。


 この戦争で、この力の本当の恐ろしさを彼らは知った。

どんな魔法兵器も、今のカイルには通用しなかった。

最後は両軍が彼一人を狙い続けたが、彼は傷一つ負うことなく目に見えた敵を全て殲滅した。

だから必ず、この力の研究が加速する。

その次は殺し合いだ。

相手が自分達の研究を上回ることの無いように、滅ぼしてしまう。

その先に待つ未来は分かりきっている。


『たしかに、ヒトがこの力を求め続けるなら、待っている未来は破滅だろうな』


「どうするの?」


 問われて、考える。

一体何が出来るのだろう?

封印された自分に一体どう世界の破滅を止めろというのだろうか。


『この力を求めさせない為に、全て殺せば……変わるかもしれない』


 カイルの目が、闇色に染まっている。

瞳に宿っていた優しい光が、闇に心細く対抗する。


「それ、正解。 じゃあ始めましょう。 私の名前を呼んでみて?」


 何故か、気付けば彼女の名を知っていた。

壊れかけている魂が、知る必要のない知識を手に入れてしまった。

カイルは魂に直接刻まれたその名を叫んだ。


「ユキヒメ」


 掌から、炎が吹き出す。

それを冷気が覆い、物理的に在り得るはずのない凍った炎で出来た剣が生成された。


「燃やせ」


 発言に反して、冷気が溢れる。

ヒトが生息するには低すぎる温度になり、今度は一斉に100に近い数の火花が散る。

壁に火が付いた瞬間、カイル以外の全てが吹き飛ばす轟音が世界に鳴り響いた。


最初から決まっていたここだけは変わるはずがない展開だったのに……

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