表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/101

80話

まずはビオスを助けることが出来た。

近くに敵はいない。

それなら、暫くは安全だ。

その間、何もせずじっとしている程に彼は愚かではないはずだ。

だから、きっと彼は助かる。



「やったね、一人救った」


『うるさい、黙れ』


「次はユウカかな、これは感覚だけど、多分順番に助けられるようになってる」


 何処にいるのか、どう戦おうとしているのか分かる。

多分、彼女はすぐに負けるだろう。




 先ほど、運良く彼自身の意識が表面に出ているタイミングで通信が来ていた。

その時の会話が、これだ。


「襲われてるの。 助けて」


「少しだけ、耐えてくれ。 すぐに向かう」


「ううん、多分間に合わない。 もうすぐそこまで来てる。 防壁は全部破られてて、この扉が破られたら終わり」


「……少しだけでいい、耐えろ」


 爆発音が何度も何度も、鳴り響く。

その背後で、悲鳴が飛び交う。

彼女にどういう事だと叫ぶ声が、聞こえる。


「最後に一つだけ、聞いてほしい」


「最後じゃない、俺はその為にもう……」


 ヒトを辞めた。

みんなに生きていて欲しくて、自分を諦めた。

だから、死なせるわけにはいかなかった。


「好きだよ、カイル」


 こんな状況に、混ざり気のない純粋な好意は、ひどく重くて、何も答えることが出来ない。

そして、通信が切れた。





「負けた、でも殺されてないみたい」


 カイルは同じ感覚を得ていて、聞くまでもなく知っていた。

彼女は今、全く動かずに何処かに連れ去られそうになっている。


「もうすぐだ……待っててくれ」


 根性だけで、身体の制御をもう一度取り返す。

じきに、ユウカのいる場所に辿り着くから。





 想いは伝えた。

悔いはない、はずなのに。

ここで終わると思えば、どうしようもなく胸が痛んで、とにかく辛かった。

こんな状況で一方的に想いを伝えても、精神的な重荷になるだけなのに、止められなかった。

聞いて欲しかった。

灯りはただ一つの光の魔法。

彼女が発動する余裕はないので、出力も弱く、心細さを補うには不十分すぎる物だった。



『私と一緒になれば、ここで死ぬことなんかないし、あの男も助けられるのに、あなたはそうしないの?』


 この女の言葉を聞く価値なんてない。

彼がそう言っていたのだから間違いはない、と彼女の思考はカイルの言葉を信じきっていた。



「どうすればいいですか!?」


「助かりますよね!?」


「これからどうなるんだ!」


 いつまでも終わらない魔法砲撃の音に、騒ぎ立てるのは彼女の家で雇われてる使用人達だった。


 全員が集まる家の対襲撃用の防衛部屋の隠し扉に障壁魔法をかけているのはユウカだけで、今彼女の技量にみなの命運がかかっている。


『こんな無能どもを守る必要なんて、ないでしょう』


 しかし、彼らを守ることは自分を守る事にも繋がる。

そうでなければ、何も出来ないのに口だけは達者に動かし続ける者を守る意味などない。


 維持が難しくなり、障壁を貼り直そうとする。

その僅かなタイミングで、砲撃が通る。

それを彼女は避ける。


 しかし、周りの使用人達はそうは行かない。

直線状に居たものは、全て死んだ。

アッサリと全てが終わる。

まず彼女以外の者が殺されて、彼女に襲撃者の視線が向けられる。

魔法を発動しようとするが、マトモに抵抗するには実力差がありすぎた。

何も出来ずに一瞬で無力化されて。


「……なぁ、ちょっとだけ遊んでも良いか?」


 すぐに意味を理解して、その言葉に吐き気がしそうになる。

それなら殺された方がよっぽどマシだ。

遊ばれるなら……誰が良いかを考えようとして、そのひどく無駄な思考を捨てる。

分かりきっているという点に目を瞑っても、無駄だった。


「そんな時間はない。 次のターゲットはミヤとかいう奴で、相当実力があるらしく捕獲は不可能だと言われている。 殺すしかないらしい」


「ミヤ……見たことあるな。 アイツか」


 最後の想いだけは破壊されないと一安心して、話す彼らの表情を見る余裕が出来る。

誰も、ミヤを恐れてはいないようだった。

彼女も、彼の実力を知っている。

彼がカイルと手を組んで戦えば、誰であろうと簡単に負かす事が出来るはずがないと、思った。


「っていうか、ここの制圧も簡単だったな」


「ブレイスと言っても、この力には敵わないってことだろ?」


 彼女にも、ブレイスで研究されていて、自分も持つ同じ力が使われていると分かる。

しかし、彼らはユウカの持つデシアには気付いていないような言い方をする。

何故かと考えてみるが、答えは出ない。

それはブレイスが力に知覚性も重要視したのに対し、彼らのトップが知覚性より能力を最優先した為だが、知りようのない事でもある。


 ブレイスにとって、これほど早く何処かの勢力がデシアの研究を進める事は完全に計算外だったことが、ここに現れている。


 身体を抱え上げられて、無気力に力が抜ける。

無意識で彼女は希望を呟いた。


「助けて……カイル」


 その声は、襲撃者達の笑い声によって掻き消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ