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8話

正門に向かう途中幾つもの死体を見てしまっていた。

誰もが一撃、確実に死ぬだけの傷を受けている。

放っておけば死ぬレベルの甘い傷で済んだ者は1人もいなかった。

その光景は決して気分の良い物ではなく、カイルの表情には歪みがあった。


「敵が未だに1人も見当たらないのは何故だ……?」


 背後から誰かが付いてきていると勘付く。

逃げ出した様に見えた自分を殺そうとしているのだろうかなんて思えてしまい、笑う。


「な訳ねぇよな」


 それ程の余裕は少なくとも校内にはない。

だが、このまま気付かないフリをする訳にもいかない。

もう正門まで時間はない。

目の前の中庭で殺す、彼はそう決めた。

中庭に入る。

振り向く前に、見知った女の姿が見えて思わず何もせずに立ち止まってしまう。


「ダンテ……」


「カイル、久しぶり」


 金色の輝きを放つ綺麗なストレートの髪、大きな蒼の瞳。

そして、初めて会った時と同じ、黒のドレス。

黒に隠れながらもハッキリとしたボディラインが男の欲望を湧き上がらせる。

恋人である彼ですら、何も感じないと言う事は出来ない。


「これ初めて会った時の奴と似てるでしょ?」


 ダンテは血が付いた両手を中途半端に開いて視線をドレスへと移す。

そのドレスにもよく見ると赤い点が幾らかあった。

だが、その右手には頭がある。

体の繋がっていない、死体だ。


「右手のそれは……お前……」


 彼女は赤く染まった手を見て笑う。

ひどく綺麗な笑顔で、嬉しそうに、楽しそうに笑っている。

学校でもアイドル的立ち位置にある上級生の首から下がない顔も笑っていた。

直前まで楽しくお喋りしていた事が表情から解る。


「この人も、力はあるんだけどどうも警戒心が足りないよねー」


 特になんでもない事を話す様な声色でそんな事を彼に話しかけてくる。

「あ、ミヤ。 隠れてるんでしょ。 出てきなさいよ」


 少しして、カイルの背後から声がする。


「……ダンテ、君は」


「えーまさか説教でもするつもり?」


「いや、裏切るつもりか?」


「うん」


「カイル、君は?」


 カイルはそれに答えず、ただダンテを見つめている。


「さぁ、一緒にいこ?」


「俺は、俺は……」


 彼は悩む。

この惨状に意味はあったのかと。

意図は解る。

学校に在籍するのは国の将来を背負う事になるであろう者が多く、ほとんどが名家の子女だ。

殺せば殺すだけ組織としての団結力も落ちる。

だが、それを理解した上で彼には無意味な物に思えてしまったのだ。





 魔法の戦闘で発生していた馬鹿みたいな騒音は少しずつ止み始める。

差し出された手を取るべきか彼は迷う。


「あ、もうそろそろ行かないと」


「もう時間がないんだよ」


 彼女は続ける。


「私と一緒に来たら力が手に入るよ、ブレイスなんて目じゃないすごい、ち、か……あ」


 言葉に詰まったのかと思えば突然、胸を押さえて苦しみ始める。

彼女は苦しみながら、泣きそうな声で言った。



「ダメ……私の言う事を、聞か……ないで……あなたまで……」


「は、それはどういう」


「もう、ダメ……なの。 私は飲まれちゃう。 まだ……少しでもあなたが私の事が好きでいてくれるなら」


 カイルに救いを求めるような視線を向けてきたかと思えば、言い切る前に、彼女は逃げ出してしまう。

それに呆然として、呟く。


「どういう、事だよ……」


「それで」


 振り向く。

後ろを付けてきていたのはミヤである事は既に分かっている。

だからと言って、どうにか出来る訳でもないのだが。


「何だよ」


「僕はどう報告すれば良いのかな」


 どちらの事だろうとカイルは悩む。


「それじゃ俺の事か、ダンテの事かわからないな」


「まあどっちでも良いんだけど」


どう答えようか迷っていると。

「とりあえず君の事を聞こうか」


「なんだ」


「君は今回の事を知ってた?」


「知らない」


「ダンテと繋がってたのか?」


「そう見えるか?」


「見えない、それに思わない。 もし繋がってたならもっとやりようがあったと思うしね」


 どうやら彼の視点ではそれ程自分は怪しくなかったらしいと心の中でホッとする。


「なら、聞くなよ」


「聞かれて困るの? まあ僕は反応を見てただけなんだけどね」


だとすれば、今の会話を映像化して記録されていたかもしれない。

正直に答えるべきだったかもとカイルは後悔するがもう遅い。


「困らない、で、これからどうするつもりだ」


「僕はもう帰ろうかなーって」


 どうやら今日はもう授業はないらしい。


「まあこんな状況じゃ授業にならないか」


「そりゃあねぇ、攻撃を受けたのはこの学校だけじゃないし」


「優秀な奴はこれから大変そうだな、頑張れよ」


 肩を叩いて、正門へ向かう。

少なくとも今日はもう高校に用はない。

それに。

「今日は疲れたよ」


 呟く彼に背後からの声。

それは、先程話していたミヤの物ではなかった。

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