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64話

へいわ

帰り道、カイルはこれからの行動について考えている。


 ダンテを救うに当たって誰が本当の味方で、誰を敵とすべきか。

敵を間違えれば、一歩で破滅の未来へ一直線。

正しくとも、力が足りずそうなってしまう可能性が高い。


 グリセリーに接触する事に関しては比較的良い選択肢だと彼は考えていた。

拘束され、研究材料にされる懸念もある、が、動き出してみなければ、状況がまるで掴めない。

何も分からないまま、何も出来ずに全てが終わるのだけは避けなければいけない。

敵は恐らく。


「ほぼ全てか」


 思考がマズイ方向に行っている事は自覚した上で、それを止めない。

その思考が悲しい程に正しい。


 なら、味方とは何だろう?

ブレイスは恐らく違う。

グリセリーも味方とは言い難い。

いつも自分に良くしてくれる彼らは。


 巻き込む訳に行かない。

やろうとしている事は世界に対する反逆だ。

そもそも力のない彼らでは戦力として不十分だ。

それに。


「世界の一大事って場面で、そんなバカな選択をするはずがない」


 彼を助ける事は、やがて世界を滅ぼす事になるかもしれないのだ。

助けないのは当然とも言える。

自分の言葉からやってきた安心と寂しさが、彼自身の心を少し傷付ける。

しかし、彼はそれを無視する。

その感情は目標を果たすことにおいて何の意味もないから。


 味方はいない。

敵は多過ぎて何処から手を付けていいか分からない。

世界は争う様に仕向けられている。

彼女がそれを仕組んだなら、もう確定事項だと考えるべきだ。

それを上手く利用できたとしても、ブレイスは必ず最後の壁となる。

彼らを滅ぼすことの出来る存在が少なくとも今は存在しない。


 今までの発言からして、彼女は一度世界を滅ぼそうとしていると考えられる。

彼女と共に生きる未来のためには、そちらも止める必要がある。


「はは、ハードすぎるだろ……」


 一時は繋がっていた二人の未来が、交錯を終えて遠く離れてしまった、それでも、互いに側にいる事を望み合うのなら、もうどちらかが力尽くでそうさせる他に道はない。

それに、彼女もそうしてくれと言っていた。


「なら、いつか俺が取る行動は……」


 今はその気にはなれなかった。

しかし、いつか衝動的な感情に身を任せて、そのまま永久に利己的な目的の為に戦うようになるのかもしれない。

それこそが正しさで、しかし正しい行動の先に、待つのは彼自身が望む未来には思えなかった。

とにかく、今はその時ではないと自分に言い聞かせて、彼は仮初めの友達が待つ家へと帰る足を少し早めた。




 一時的な友情を堪能して、カイルは落ち着ける時間を得た。

と思っていた。


「あの! お腹が空いたのですが!」


 まだ発育途中どころか、まだ何も発達していない事が伺える胸がソファに座る彼の目に入る。

服がユサユサとしていても、まるで色気がない。


「何ですか胸ばっかり見て……まさかそういう趣味が……?」


「…………」


「まあ少しくらいいいです。 昨日は遅くまで起きてて疲れたでしょうしこんな身体でよければ慰めて上げましょう」


 一人早口で喋るその姿が、あの時の話をする事を拒んでいた。


「ガキが、何言ってんだ」


 いつも通りの軽い憎まれ口に、頬を釣り上げて懐かしい応酬が始まる。


「そのガキのカラダを変な目で見てたのは誰ですかー」


「まあ、少しぐらいは大きくなるといいな」


 憐れみを含んだ声に目を見開いて、怒声を交えてポカポカと叩き始める。

次第に全く通用していない事に気付き、吐き捨てる様に彼女は言う。


「はっ! これから……まだまだ私に成長の余地はありますぅ!」


「そうか、良かったな」


「あ、その目は信じてませんね? 5年後、いや3年後の反応が楽しみですねぇ」


 そう言われて、ふと考える。

そんな先の未来に、世界はまだ存在しているだろうか。

このまま彼女を止められなければもう滅んでしまっている可能性がある。


「身体が重い……これは早めのオヤツが必要では?」


 必要ない、と言おうとして、止める。

彼女の身体はまだ回復していないだろう。

訓練を受けていたとしても、幼い肉体には限界がある。

あれだけの事をされた後に、気丈に振る舞うナナに対して少しぐらい甘やかしても、バチは当たらない。


「仕方ない奴だな……」


「えっ!」


 カイルはつい先程通りがかった商店街へと戻る事を決意して、立ち上がった。

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