6話
予定では今日の帰り道にダンテの所属する組織からもう一度接触があるはずだった。
だから、カイルは不自然にならない程度の寄り道をしつつ比較的接触がしやすいルートを選んで帰る。
今はそれほど優秀な監視が自分についているとは考えていない。
精々、学生につけるには十分だと判断されたセミプロ程度の人物が選抜された程度だろうと読んでいる。
遠すぎず近すぎずの位置から見られている事に彼はもう気付いている。
一応、巻く為のルートは事前に考えていた。
商店街の、人の良さそうな男から話しかけられる。
街のイベントだとかを自主的に主催している事もあり皆から評判の良い男だった。
「ちょっと寄っていかないか?」
「いやぁ、時間がないので、すみません」
カイルが断ると、彼は顔を近づけて来て言った。
「監視を撒かなくて良いのか?」
これには思わず絶句してしまう。
恐らくは、街の中心人物までダンテの組織は取り込んでしまっていると言う事だ。
「……お願いします」
「オッケー! じゃあこっちも商売だからな。 交渉はそう簡単にはいかねぇぞ」
監視にも届く程の大声でそう言って奥に招待される。
「そのまま抜けていけ」
「ありがとうございます」
裏路地、ここを通りたがる者は少ない。
その理由は不良学生がたむろしていたり、喧嘩の最中だったりする事が多々あるからだ。
運が良かったらしく、狭い道には文字が掠れて見えない看板や所々に血の跡があるだけでヒトの気配はない。
カイルはホッと息をついて、屋根の上にヒトが立っていると気配から気付いて、言った。
「はやく降りてきてくれ」
「遅いよ」
声から前に話した男だとカイルは気付いた。
結局は顔が隠れるようにローブを纏っているせいで容姿はわからないが。
「それで、今回の接触の用件は?」
「予定が変更になった」
「いつだ」
「5日後」
「随分近いな、そんな急に変えて大丈夫なのか?」
「戦力ではもう既にこっちが上回ってる、これは奇襲じゃない。 戦争だ」
「自信を持つのは結構な事だが、そう単純な事じゃない」
「僕にそんな事を話す意味はないよ」
それもそうだと納得して、言った。
「一つ、聞きたい」
「何かな?」
「お前達の目標は?」
目標のない戦争はただの力の主張でしかない。
その先にハッキリとした物がなければその先にできた国は欲望に飲まれるだろう。
「君の婚約者と同じさ、少なくとも半分は」
最低でも半分はダンテと同じ、と言うことは国家の転覆だろうか。
彼女はブレイスに怨みのような感情を抱いていた。
既に母親は死んでいるらしく、その上昔から実験台とされてきたのだからカイルには彼女を責めるのは難しかった。
「5日後の奇し、戦争にダンテは来るのか?」
「ハハ、奇襲でも良いけどね、来るよ」
「そうか、わかった」
「こんなところで長話する訳にはいかない」
「確かに、ただ直接話す必要はあったのか?」
カイルの言葉を無視して、男が言った。
「じゃあ解散だ。 帰り道は気を使ってくれ」
別々に別れる。
身なりは怪しいが一般人相手なら悟られずに姿を隠す手段など幾らでもある。
もしくはローブにその手の機能が付いている可能性も低くない。
もう適当に人混みに紛れて帰るだけだった。
気をつけろと言われたが今更監視がついてももう構わないとカイルは考えていた。
だから。
「別に、いいか」
裏路地から人通りの少ない、もしくは多い通路に出るのではなくそれなりに人が通行するそこそこのスペースにそこそこの人がいる最短ルートを選ぶ。
結局、監視らしき女に見つかったが翌日何かが変わる事はなかった。