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5話

 教室に戻り、注目を浴びた少し後教室内は本来、授業の時間だが皆好き勝手に楽しくお喋りタイムへ没入していた。

ノアが話しかけてくる。

ビオスも側にいる。

他にも何人か連れているが余り喋らないので意識に入れる必要はなかった。


「何を話していた?」


「気になるのか?」


「答えろ」


「大した話じゃない」


「それは俺がき」


 何故か、ビオスが遮る。


「まあ、別に良いだろ」


 それに少し黙った後、納得を示す。


「……まあいい」


「それより授業は?」


 カイルは気になっていた事を聞いてみる。


「中止になった、各自自習」


 肩に置かれた手の主を、ノアを、見る。

いつもの嫌味な笑み。

また、練習と称したお遊びだ。


「って事で、魔法の練習だ、いくぞ」


 カイルに拒否権はない。

引っ張られて、ついていくしかないのだ。

教室を出たタイミングで小さく笑う。


「全部、こいつらほど単純なら良いんだけどなぁ」


「何か言ったか?」


 後ろにいたビオスが反応するが聞こえないようにカイルは声量の調節を意識していた。

だから、焦る事もない。


「いや、何も」


「何か言っただろ」


「じゃあ何を言ったんだよ」


「それは、知」


「ビオス、ほっとけ」


「あ、あぁ」


 少し安心したが既に教室の前だった。

また、楽しい楽しい日常が始まる。




 毎日起こるイジメイベントを終え、授業が全て終わった放課後。


「カイル」


声をかけられる。


「ん」


「ちょっと時間良い? すぐ済むから」


 話した事もない、可愛いというよりは綺麗な少女。

同じクラスだが、そもそもカイルと話した経験を持つ者はそう多くない。

誰も話したがらない事に加えて彼自身も話そうとしなかったからだ。


「あぁ、良いよ」


 答えながら、少女が言いづらそうな雰囲気、恥ずかしげな表情を演出している事にカイルは気付いてしまう。

立ち上がり、付き従うが教室を出るまでの間、無駄に目を動かさずに周囲を観察する。

そして、やっぱりと彼は思った。


 誰もいない実習教室。

こいつ名前なんだったかとカイルが首を捻っていると目の前の少女は振り向き、言った。

横顔が不愉快な笑みを浮かべていた事も、これから言われるであろうセリフも、展開も、何となく予想出来てしまっているせいか彼はひどくつまらなさそうな顔をしていた。

それを気にした様子はない。

おそらく、彼の挙動に興味はないのだろう。


「私は、あなたの事が好き」


「それで?」


 カイルが未だに名前を思い出せないその、少女は少し驚いた風に、目を見開く。

すぐに表情は戻り、続く。


「私と、付き合ってほしいの」


 それに、どう答えるか悩む。

イエスとノーのどちらを答えても笑われるという結果は同じだ。


「少なくとも、イエスを返したくはねぇよなぁ」


「え?」


 カイルの声は小さい。

次に、聞こえる声で言った。


「悪いな」


「それって」


「そういうことだ」


「ふふ」


「…………」


「あ、本気にしちゃった? ごめんねぇ」


 先程横顔に見た不愉快な笑顔になって続ける。


「みんなー、入って入ってー」


 この声で5人、男2女3のグループが入って来る。


「おいおい、お前が相手してもらえるわけないだろ」


 それに、皆が笑う。

少しだけ、言い返してみる。


「縁切りがなきゃ、お前らは多分こんな事出来なかったよなぁ」


「何が言いたいの?」


「さぁ、何が言いたいと思う?」


 彼らは今まで決してカイルには近寄ろうとしなかった。

公的に、カイルの追放が決まったとノアが言いふらしてからこうなったのだ。


「は? 知るわけないじゃん」


「あんまり、調子に乗らないでよ」


 告白してきた彼女に胸ぐらを掴まれる。


「因みにまだ、俺はブレイスの名を持ってる。 そんな事していいのか?」


 皆の表情が一変する。

縁切りが決まっているクズが相手とは言え、仮にも国の名を冠する家の名を持つ奴に何かするほどの覚悟は彼らになかったらしい。

微かに震えを持った声で1人の男子生徒が言った。


「ど、どうせ縁切りされるのが分かってるんだから」


「やっぱり、今は辞めよう」


「そうね、どうせ口だけのこいつは何も出来ないんだから」


 縁切りが確定している自分ですらこの名を出すだけで、あっさりと場を収められてしまう事にカイルはほんの少し恐怖さえ感じる。

皆が教室を出て、最後に告白した彼女が振り向き睨みつけてから、去っていく。


「あー怖い怖い……帰るか」

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