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47話

ミラとカイルが2人で屋敷の庭で会話している時、また彼らが望まぬ方へと進んでいる事を教えてくれる事件が起こる。


「あまり知りたくなかったけどまた、戦争らしいの」


「どことでしょうか?」


 ミラは勘違いに首を振った。


「あ、この国は関係なくて……色々と妙な報告ばかりが入ってくるの」


 カイルがこれを聞いて考えるのは嘘の報告という可能性だった。

何故彼女に伝える必要があるのか。

そもそも真実を伝えたとして彼女には何も出来ない。

しかしそれを直接伝えるのも憚られる。


「妙な報告ですか」


「今までの外交関係がどんどん崩壊しているって話よ。 友好的な関係だったはずが今では……」


「ブレイスへの影響は?」


「現状はない、けどそれは元々ウチが他の国を滅多に寄せ付けないからだし……」


 ブレイスの歴史に友好の文字が乗ったのはたった数度で、その内の一度は友好関係崩壊の知らせだ。

交易関係が無くとも自国内で完結できる程の生産力と他国からの侵略を単独で跳ね返せる戦力があるからこその姿勢だ。

この国との友好関係を望む他国は決して少なくはない。

少し目立った力を持つとすぐに攻め込まれ、滅ぼされるのだから当たり前ではあるのだが、それ以上に研究能力が異常な程に突出している事も大きく理由に貢献しているだろう。



「また、あのグリセリーが関わっていそうですね」


「ということはあの子も……」


 無音の破壊の魔法的衝撃感覚にカイルは振り向く。

そして状況を把握し、不信感を覚える。

不信感とは彼女に対してでは無く、門を堂々と破壊して誰かがこちらに向かってくる事に対してだ。

人数はたった2人でどちらも既に剣を抜いている。

だが、余りにもお粗末すぎる。

昼間の監視されやすい庭で暗殺を狙う意味が彼には分からなかった。

動きも遅く、実力もない様に見える。


「え」


 彼女が声をあげた時には、襲撃の対処は終わっていた。

剣を抜くまでも無く、風で吹き飛ばしただけだった。

威力も低く、全く対処出来ていないということはそもそも魔法士でないという事がわかる。


「どういう事でしょうね」


「ありがとう、えぇと?」


「彼らは間違いなく組織に属する暗殺者ではありません」


 カイルの断定にミラは苦笑いのような困り顔をして言った。


「どうしてわかるの?」


「今の俺の魔法は牽制以外の何の目的もありませんでした。 それを察知すら出来ずに貰っただけでなく気絶する程のダメージを負うことは魔法が扱えるだけの魔力があれば有り得ません」


 余り褒められる行為ではないが、説明のためにカイルは同じ魔法をミラに使ってみせた。

彼女の足元から風が吹く。

しかし戦闘が難しい程度にしか存在しない彼女の魔力でさえ、小さな浮力を発生させる程度に抑え込む事が可能だった。


「わっ!」


 彼は全く同じ魔法を放った事が過ちである事に気付く。

彼女の衣服が、具体的には下半身を隠していたヒラヒラのスカートが顔を隠す程に捲れ上がる。

彼はどうすべきか一瞬で色々と考えた。

常人であれば彼の思考を追うだけで30秒は必要とする程にその時だけは思考が全力で働いた。


 その結果導き出した答えは気付かないフリをする事。

幸いにも今は前を歩いていて、後ろに向けて放った形になる。

全く気付いていないフリも出来なくはないはずだ。

ダンテならば間違いなく気付く、というより魔法が発動しないが、魔法の才能に乏しい彼女なら気付かない可能性が高い。

そういった願望からの結論だ。


 魔法の効力が切れ、ここからの5秒間、カイルは全ての人生経験を駆使した演技を披露した。


「俺がやったのはその程度です。 おかしいと思いませんか?」


 問う形で様子確認の意図を込めて振り返る。


「えぇ、そうね」


 顔色が少し赤い事とキレ気味の回答。

追撃はなく、少なくとも最悪の事態は免れている。

安心したカイルは平然を装い、また歩き出す。


 背後からの足音が聞こえるまで妙に長かったが振り返る勇気はカイルにはなかった。



「起き……てるのか」


 気絶させたと思っていた二人の内一人は意識があるらしくなんとか逃げようともがいていた。

感覚がはっきりしないのか上手く立ち上がる事が出来ずに何度も転んでいる。

カイルはその男の手を掴んで、捻りあげる。


「痛いっ! やめてくれぇ!」


彼はそれを痛がっている演技だとは思わなかった。

本当に痛がっている、という事は訓練を受けていないという事。


「やめて欲しければ、誰に頼まれたかを言え」


 後ろからの心配そうな視線を感じながら、無視し続ける彼は妙な感情を感じていた。


「リュウっていうやつだ! そいつが俺に言ったんだ!」


「そいつの特徴は?」


「短い黒髪で冷たい目をしていた。 そこの人なら知ってるはずだ。 ブレイスのやつだろ?」


 一致している、のだがその程度であれば知っていてもおかしくはない。

それ以上におかしいのは少し痛みを与えた程度で情報を吐いた点だ。

リュウを含むブレイスの者がその程度の暗殺者を所有しているはずがない。

10歳になる前に誰もが拷問訓練を受けさせられる国でそのような暗殺者に価値はない。

という事は。


「そうか」


 頭に右手で触れると、魔法陣が頭を完全に覆った。

意識を掌握し、可能な範囲で行動を強制する。

これはブレイス以外の国では違法となる行為だが、この国では関係ない。


「話せ」


「…………」


「やっぱり、か」


「どういう事?」


「彼らは自らの意思で暗殺に来たわけではなく、思考に何かしら細工をされています、それと、やめろ」


 自殺しようとした男を止め、何事もなかったように続けた。


「犯人はこの国の奴ではない事は確定と考えても良いでしょう。 この暗殺が本気だと考えるならば、ですが」


「この際だから聞いておくけれど、どうして私を助けたの?」


 カイルは思わず目を見開いた。

彼の任務は護衛という事になっている。

彼女を守るのは当然だ。

意表を突かれ、驚愕のせいで言葉を返す事が出来なかった。


「あなたの本当の任務は、暗殺でしょう?」


 彼女の眼の色が変わる。

その瞳には、もう優しさは存在しなかった。

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