39話
タイトル変更しました
何話か投稿するまでは旧タイトルも付けておきます
『』を使用している会話は声に出したものではないと言う意味で使っています。
絶対に理解しておいてほしい場面では前書きに書く予定です。
「姉、というと話から察するに病気とかで死にそう、とかそんな雰囲気だったはずだが」
「あれは俺が暗殺の為に突き続けた嘘だ。ミラ、アイツはピンピンしてるよ」
「何故アイツだけ別に暗殺しようとする?」
「俺たちの争いを邪魔される可能性があるからだ。会えば分かるが、奴は変わった考え方をしているせいか支持者が多い」
「わざわざ俺がやらなければいけない理由は?」
「俺がある屋敷に閉じ込めたとは言え奴もブレイスだ。 誰にも気付かれずに、証拠を残さずに殺せる人材でなきゃダメだ」
「俺に暗殺の経験はないぞ。 それと、何故そこまで俺を信頼する?」
「理由か、優秀だからと言いたいがそれ以外の方を聞いているんだろう?」
「そうだ、お世辞は良い」
「はは、お世辞じゃないが……そうだな、理由を付けるとすれば俺がお前に対して人質を取れるからだ」
「人質? 俺がその程度で操られると思うのか?」
「思うさ、お前は幼い子供に情けを捨てられなかった」
「……」
「分かるな、アレが人質だ。 成功すれば黙っておいてやる」
あえて前向きに考えてみれば、彼女がブレイス側からのカイルの監視役の可能性が低くなったという事だ。
それが分かったところで、状況はひどく悪い。
どのタイミングか、ナナの存在を悟られてしまっていたせいで暗殺を断る事が出来なくなってしまった。
リュウが屋敷の門のロックを解除する。
音はしないが、微かに魔力の揺らぎが伝わる。
「期間は一月、奴を俺側に付いているお前が殺したと悟られれば、俺を責め立てる良い口実になる。 まあ、それに関してはお前が裏切ったとでも言えば良いが、貴重な手駒を失いたくない」
「だから、死ぬなって?」
「いいや、きっとお前はこれに失敗しないだろう」
カイルは断言したリュウの顔を見る。
信頼ではなく、確信。
確定した未来を語っているような口振りだった。
「マトモに暗殺経験のない俺に、保護下にあるやつを殺せと? ひどい無茶振りだ」
「最悪の場合は、皆殺しでいい。 数は多いが監視ごと殺せばバレないからな」
「口でやれって言うだけなら簡単だ」
「だが、やるしかない、だろ?」
「……」
今のカイルには返す言葉がなかった。
彼に明確なメリットがある訳でなく、その実力があるかも分からない。
しかし退路だけは既に断たれているのだという。
存在していたかさえ不明な退路だが、完全に存在しないと分かると心細さを感じるのも仕方のない事だ。
何も答えずに帰り道へと進む。
「動き出す日時は追って伝える。 あと、暫く登校はするなよ」
手をヒラヒラと舞わせて肯定を示す。
もう既に、拒否が考えられない程に彼の立場は変わってしまっている。
先の場に出た事により、一学生という立場を貫く事は不可能になった。
徹底的に調べ上げられ、警戒される事があれば相手側からの何らかのアクションが必ずある。
彼の意思とは関係無く強制的に国内の主導権争いに参加させられてしまった。
恐らくは、そうなる様に仕組まれている。
ダンテの言ったこと、してきた事から考えれば、その程度は大して不思議でもない。
カイルは彼女が黒幕だとは思わない。
彼女を変えた者がいると考えているからだ。
そんな希望に縋ったり、誰かに頼らねば彼には生きる意味を見出せなかった。
生きる意味をくれたのはダンテで、そんな彼女を助けたい。
しかし、その力がない。
だから他人を頼る。
それでも力が足りない。
何故なら敵は1人ではないからだ。
仮に1人だったとしても友情なんてくだらない物に頼っていては決して勝てない。
かといって、彼に情を捨てる決意が出来る訳でもない。
それが出来るなら、暗殺の任務で悩む必要がない。
そんな弱く、脆い存在に、世界の敵となるはずの彼女、ダンテに何が出来るのか。
「変わらなければ、勝てない」
変わったところで勝てる保証もない。
変わらなければ、何も出来ずに全てが終わってしまうかもしれない。
「この場において正しい行動とはなんだ?」
『情を捨てろ』
心の闇、と、言うべき存在がまた現れた。
それに頼るべきではない、だから反応は示さない。
聞こえないフリをする。
『聞こえないフリは意味がない。 そうだな、まずはナナとか言う裏切り者を殺せ』
「いや、それより前にダンテは何を抱えている? それさえ分かれば、ほかにやりようがあるんじゃないか?」
『ない。 年単位で共に暮らして気付けなかったお前に今更何が出来る?』
「……たしかに。 だがこれからは違う」
『本当にそうか? これまで、お前はアイツに何が出来た? ただ与えられただけだろう』
「だから、俺はアイツのために今変わる。 でなきゃアイツの俺にした行動の意味が消える」
『無駄だよ、お前には何も出来ない。 いいから俺を頼れ!』
今のままなら何も出来ない可能性は高い。
だからこそ変わるのだ。
その為に、まずは自分の気持ちの整理が必要だ。
自分自身の為に、カイルはまず言った。
「俺の事は、俺が決める。 部外者は黙ってろ」
心の騒音を無視して、歩く。
幼い子供が待っている家に帰る前に、まずは朝食の準備が必要だ。
「ひさびさに、少し奮発するか」




