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37話

登場が1ヶ月以上前なので一応補足しておくと27話の登場キャラです

カイルはリュウと共に赤のカーペットを歩いていた。

微かに見覚えのある風景に懐かしさを感じて、何度か立ち止まりそうになる。

不意に、リュウが剣を抜いた。

金属がぶつかり、擦れる音が響く。

受ける剣も、仕掛けた剣も、勢いが凄まじく、風圧だけで鼓膜を破壊されそうな程の衝撃だった。


 相手の姿を確認するまでもなく、殺意を認識したカイルの体はもう反応してしまっていた。


「待て」


 止めたのは襲ってきた暗殺者ではなく襲われた本人。

振り抜く前の姿勢のまま止まり、2人のどちらかの反応を待つ。

先に動いたのは暗殺者の方だった。


「流石にこの程度、なんともないか」


 そう言って武器を捨てる。

合わせてリュウも剣を引く。

側面を取っているカイルには暗殺者が剣を収納する類の装備を身につけていない事が見て取れた。

そして、彼は立ち方から、完全な一対一は不得意な暗殺しか出来ない奴だと推測する。



 ここでようやく顔を見て、以前に会ったことがあると気付く。

無個性な容姿とお調子者感を出す声。



 2人はカイルを気にせず談笑を始める。

途中、話が途切れたタイミングでリュウがカイルの方に目を向け、また視線を戻す。


「紹介する。俺の護衛のカイルだ」


「初めまして、カムだよ」


 知らないフリをして話しかけてくるのに、カイルは付き合って見ることにした。

差し出された手を握る。

すると、一瞬だけ、カムが気味の悪い笑みを浮かべた。

その理由は強制的に理解させられた。



『そいつを殺せ』とひたすらに脳内で声が響く。

衝動的な殺意が抑え込めないほどに膨れ上がる。

笑って話しかけてきているカムと名乗った男も、同様の感覚を感じている事がカイルの心に直接的に伝わってくる。


「俺の兄の部下だ」


 リュウのセリフはカイルには認識出来なかった。

ただの雑音として無視されてしまっていた。


「そう、か。カイルだ。宜しく頼む」


 こんなところで、力を暴走させてしまうわけにはいかない。

衝動的な殺意を懸命に堪える。


 手が離れた後も、心の中の囁きは消えない。


『そいつはお前と同じだよ。 分かるだろう?』


 カイルは何も答えない。

対話するにはタイミングが悪すぎる。

その上、化け物と話しても良いことなど、きっとない。


『俺にアレを喰わせろ』


 何の事か、彼にはよく分からない。

衝動が収まり、考える余裕は生まれたが、今は目の前の事に警戒が必要だった。


 何が起こったのかは理解できずとも、なにかをされた事だけは解る。

同時に、この力に詳しいとも考えられる。

だが彼はどう考えたとしても味方ではないだろう。

頼る事など不可能だ。


『お前はまた、ダンテを救うチャンスを逃すのか』


「なんだと?」


「どうかしたのか?」


 いつのまにか、カムは先に行ってしまっていたらしく、リュウが動かないカイルを待っていた。


『まあ、それでもいい。 今日はまだ俺にも何も出来ないからな』


「どういう事だ!」


「カイル、お前は誰と喋ってる?」


 リュウの表情が不審な物に変わっていた。

幸い、デシアの力とは結びつかなかったらしく心配気に言ってくる。


「ダンテに幻覚魔法でもかけられたか。 あいつはそういうのが得意だったからな」


「…………芝居の練習中だったんだよ」


「その時は見に行かせて貰うよ」


 抑えきれなかったひどく愉快そうな笑い声。

心底楽しげな顔に真面目な顔で応える。

ひとしきり笑い終えた後リュウも真面目な顔になる。


「さて、と、真面目な話をしようか」


「あぁ」


「これから会う奴は、一年以内に全員殺す」


「何故?」


「……まあもう説明しても良いだろう。 今回の会議の原因だ。 父、国王が死んだ」


 簡潔な一言。

そこには何の感情も込められていない事が明白だった。


「他の奴らも気付いてるだろう。 普段なら呼んでも返事すら来ないからな。 そんな奴らが全員一度に集結したんだ。 これからきっと探り合いが、下手したら殺し合いが始まる」


「何故死んだ? 病気か?」


「いいや、殺されてたよ」


「言い方から察するに犯人は不明……か」


「あぁ。 で、俺は国王になる為に他の後継候補を全員謎の犯人に暗殺、もしくは病死してもらう。 勿論建前上の、だが」


 それをカイルに頼もうと考えているのだろう。

だが1人では到底不可能だ。


「俺じゃ暗殺は不可能だ」


「暗殺?何を言っている?」


「違うのか」


「俺以外の候補についた奴は全員殺す。そうすれば暗殺が成立するだろう?」


 無茶苦茶な話だった。

だが、先ほどのリュウを狙った攻撃から考えて、他の候補からの暗殺計画が既に練られている可能性は捨てきれない。

多少無理矢理だったとしても、力で上回っているならば、先手を取るべきだ。


「無茶苦茶な話だ」


「後で言うが、その前にお前には先に済ませてもらいたい事がある」


「言わないなら気になる言い方をするなよ」


「はは、悪いな。 それじゃ行くぞ」


「待て」


 カイルが呼び止めたのは、純粋な疑問だ。


「仮に計画が全て上手くいったとして国王、そしてその家族がまとめて死んだというと国の混乱は免れないだろう。 お前にそれが抑えられるのか?」


「ふむ」


「お世辞にもお前達は良い王とは言えないだろう。 だから、必ず」


「勘違いしているようだが……国民は大半が王制であるとすら知らないよ」


「何?」


「この国の国民はブレイスに支配される為の存在だ。 みんなそれを受け入れている。 何故ならそれが当たり前になるよう教育したからな」


 ブレイスに対しては、絶対服従。

それがこの国の当たり前だった。

誰も違和感を覚える事が出来ない様に指導する。

それがカイルにとって当然となっていないのは彼が支配する側に立っていたからだ。

その意識も、行動もなくとも、立場は支配する者と同じだった。


「行くぞ、緊張しろ。 殺される可能性がある」


 殺される可能性があると、この国において最高の権限と実力を持つ支配者が言った。

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