34話
久々の家の前に着くと、やはり明かりがついていた。
何故か、扉の足元には桃色の封筒がある。
リボンが付いた表にはラブレターとだけ書かれていて、他に外側から読み取れる情報はなかった。
それを拾い、中を確認する。
同時に家の中から駆けてくる音が聞こえ始める。
扉が開くのを一歩下がり、避ける、が、カイルの意識はそちらには全く向かなかった。
読み進めると、内容は何かの研究である事が分かる。
難しい言葉ばかりで、はっきりと何がどうと理解は出来ないので一部飛ばして結論だけを読んだ。
そこに書かれていたのは、昔の資料に残っている神だとか、神獣、その手の人が勝手に妄想から作り出した存在しないはずの敵についてだった。
「おかえりなさい、何かあったんですか?」
聞き覚えある声に反応する余地がなくなる程度には、驚愕が心を支配してしまっていた。
信じる事は出来ない程に、嘘のような話だが、そこには魔法を知る者が読めば明確な理解ができるだけの理屈があった。
カイルは何故気付かなかったのかと自分自身が酷く愚かにさえ思えた程に身近な物だった。
「これは間違っていない。 当たり前だ、何故気付かなかった、というのは置いておくとしても、どうすれば……」
まだ猶予が暫くあると言う話ではあるが、ダンテがそれを早めようとしている可能性もある。
勝手に起こるはずのそれに抵抗しようとしているのであればこれを公開すべきだった。
しかし彼女は情報の公開などしていない。
それどころか、敵に回って戦争を始めた。
やはり、今の彼女は世界の敵だ。
ナナがカイルの持つ資料に気付いて覗き込もうとする。
それに、視線を向けずに言った。
「見るな」
「はい?」
これを公開すべきかすべきではないのか、まだ考える時間がある。
決断はじっくりと考えてからにしようとそう思っていた。
「それは一体……」
「ラブレターだ」
そう言って封筒を見せる。
「あぁ、そうですか」
興味を無くしたようにカイルを見る。
「家に誰か来たか?」
「来てません」
彼女は安易に姿を見せるとも思えない上、長時間玄関前に放置されていたとも考えにくい、となればこれは先程置かれたものである可能性がそれなりにある。
だが、ナナが側にいる状態で彼女と会うのは危険な気がした。
それに、接触したいときは必ず周囲を足止め、もしくは対処出来るよう万全な準備をしてから向こうから現れる。
今、姿が見えないということはもうカイルに用はないと言う事だ。
「そうか、まあいい。そういえば食事はどうしてた?」
これ以上今余計な事をナナの前で考えて、不安にさせるわけにはいかないと思い、話題を変える。
これは正解だったらしく怪訝そうな表情だったのが今では恐ろしく不満そうな顔になっている。
「ちょうど今朝全部家にあるものが無くなって半日食べてません」
「よく今日まで持ったな……」
カイルは基本的に家に食材は備蓄していない。
ちょっとしたお菓子などはナナが家に居座るようになってから多少置くようにしていたのだが。
「まさかお前お菓子だけ……」
「はい」
小さな子供が数日間お菓子だけを食べて生活していた、それはカイルにとって中々にひどい生活だと感じられた。
他地区では、その程度珍しいことではないのだが彼はそんな事を知らない。
「少し、待ってろ」
カイルはそう言って家に入らずに、Uターンした。
色々と買い物を終えて帰る途中、遊ぼうという誘いが来た。
何やら面白い遊びがあるのだと言うが、彼の感想は楽しみ、と言ったものではなく呆れただけだった。




