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3話

 朝、いつものように映し出した魔法放送を眺めているといつもと違い、司会女性キャストが慌てた表情になっている事に気付く。

因みに早朝、ブレイス家からの通知で絶縁する意味を持つ短文のみが送られてきていたがカイルに大した動揺はなかった。



「大変です! 今入った情報ですが我がブレイス国は宣戦布告を受けたとの報せがありました」


「ホントかよ……」


 だとすれば、昨日の学校や施設の襲撃の話は事実だと思われる。


「多分、分かっていたはずだ。 公開するなら何故、昨日の段階でそれを言わなかった……?」


「宣戦布告してきた敵というのは新興魔術組織のグリセリーと言う勢力だそうです」


「は、新興魔術組織が単独……? 勝てる訳がねぇだろ」


 カイルの声は落ち着きと同時に落胆を伴っていた。

だが、勝手に潰し合って疲弊してくれるのはありがたい事だと彼は考える。


「どうせ、すぐに鎮圧される。 今日もやるべき事をやらないと」


 今迄は実力を落とし過ぎていた。

これからはほんの少しだけ魔法の出力を上げる必要がある。

もしくは。


「やる気がない、という点を今まで以上にアピールしてみるか……?」


「いや、魔力の制御が上手くいっていない様に見せても……」


 自問自答。


「その場合、ヒト以外の力が絡む可能性が……疑われるな」


 今あげたヒト以外の力、とはブレイスが熱心に研究しているというデシアという存在の事だ。

ヒトに憑依する類の化け物で大きな力を供給してくれる代わりに心がひどく不安定になるのだとカイルは以前ダンテから聞いた事がある。

情勢に余り詳しくない、重要な情報をイマイチ与えられていない彼女が何故そんな研究の事を詳しく語れるのかは彼にはわからなかった。

だが、彼女を彼が疑う事はない。


「そろそろ行かないと」


 そう呟き、いつもの様に手ブラで学校へと向かう。


「お、カイルか」


 背後から近付いてきた男に肩を組まれる。

これは決して好意的な意味を持つ動作ではなかった。

彼は2日前にも絡んできたよくカイルに近付くブレイス・ノアの側にいる事が多いハウ・ビオスだ。

家族としての名と自身の名を持つのは名家の仕来りで、彼の家はそれなりに高い地位にある。


「ん、ノアは?」


「お前いつもあんだけやられといて、よく俺らに普通に接してくるな」


「じゃあやるなよ」


「は、嫌だね。 向上心のない奴がここに来る資格なんてない」


 向上心、というが本当に向上心を持っているのであれば自身に絡む時間を鍛錬に使うべきだと、カイルは思う。


「俺は来たかった訳じゃない」


「なら、その権力で辞めろよ」


 正論かもしれない、もしも辞める事が可能ならば。


「可能なら、とっくにやってるよ」


 その方が、力を隠すのも簡単だった。

多分、彼らに目をつけられる事もなかった。


「ノアは今日休みだ」


「ん」


「良かったな、遠巻きに眺められるだけで、済む! ぜ」


 そう言いつつも肩を組んでいた手を外し、逆の手で思い切り腹を殴って来る。

「もう既に、全然それだけで済んでねえじゃねえか……」

 先行く彼にはこの声は届かない。


「カイル君!」


 続いて背後から声がする。

あのユウカとかいう偽善者の声だった。


「面倒くせぇ」


「大丈夫!?」


「大丈夫だ」


来た方角を見てみるが今日は1人らしくいつもの彼女の周りにいる生徒は見当たらない。

だから何かが変わると言う事もなくカイルは相変わらず周囲からは蔑みの様な視線を感じていた。


「今明らかに……」


「いつもの事だ」


 心配そうに自分を見つめるユウカに彼はそう言って、1人で歩き出す。


 第一に、ここで馴れ合う事に意味なんてないのだ。

だから。


「消えろよ偽善者が」


 なんて、あえてこちらから突き離すような言葉を放つ。

これで彼女は、自分に抱く優しさの愚かさを知っただろうとカイルは思う。


「まあ、これでもう関わってこないだろう」


 少し寂しげな背中にかける声を持つ者はもう、誰もいなかった。



 それから、少し日が経った。

もうユウカが心配の声をかけて来る事はなくなった。

カイルは相変わらず彼女の物を含んだ多くの視線を感じている。

イジメの続く毎日だったが意外と悪くないとすら思えてきてしまった。


「はは、ドMかよ」


「ん?」


 こうしてまた、今日のイジメが始まる、と彼もその周囲も思っていた。

教室の魔法ロックが解除される音がする。

扉が開く。


「今から、実技テストを行います」


「先生?」


「さぁ、行きますよ」


 どうやら生徒側の疑問に答えるつもりはないらしい。

周りが立ち上がったのに合わせてカイルも立ち上がる。

そして列の最後方を歩いていると、前にいたミヤが少しずつ後ろに遅れて来る。

自分に近づいて来て居ると気付いた彼は面倒そうな顔でそれを歩きながら眺める。


「君は何故、これが行われたと思う?」


「知るかよ」


 何の情報も無く推測など出来るはずもなかった。

ミヤの目が睨みつけられていると感じる程に鋭くなる。


「昨日ブレイス本家が存在する第1地区に奇襲があった」


「で?」


「必ず内部に手引きした奴がどこかに潜んでるっていうのが僕らの考えで」


「校内にいると?」


「あぁ、目星は何人かついてる。 内部調査が始まる。 君もその1人なんだけど」


 ここで、ミヤの手が魔力を纏う。

尖った剣の先の様な形が手を覆い、それがカイルに向かって飛んでくる。

教師陣からも贔屓されてるだけあって、ひどく強力な、この学校の教師でさえも受けられないほどの威力を持つ魔法だった。

当たれば、死ぬかもしれない。

カイルは一瞬悩んだ後に回避しない事を選択した。

彼の予想通り、顔を貫かれる事はなかった。


「やっぱり、反応出来ないか」


「天才の攻撃は早すぎて見えねぇ」


「それじゃ、君は死ぬ」


 この判断が正解だったのか、カイルにはまだ分からない。

少なくとも実力を見せれば疑われる、隠し通す必要がある事だけは確かだ。


「へぇ、傲慢だな」


「それがブレイスだと、もう知ってるはずだ」


「で、俺が死なないために手伝ってくれるのか」


「うん、嫌われ者とは言え人が死ぬのは見てて気持ち良い物じゃないし」


 彼の希望的観測は当たっていたらしく、先の判断は正解だったと内心ホッとする。


「始まる前に、降参するんだ。 僕も説得を手伝う」


「ありがたい事だ」


「ならもっと感謝しろよ」


「してるじゃないか」


「まあ、良いけどさ」


 感謝しているのは事実だ。

衆人環視の中、死なない様にボコられるという面倒なイベントを切り抜けるのを手伝ってくれるというのだから。

この学校では他の生徒を殺すことは禁じられていない。

その覚悟が有る者はそう多くないが半殺しの状態まで追い込まれる者は決して少なくない。



 着いたのは校内で最も大きな、全校生徒が集まる事もある集会所。


 そこにカイルのクラスメイトだけが集められていた。

入る前にキズだらけの違うクラスの生徒とすれ違ったので順番に呼び出しているのだろう。

ここで殺し合いまがいの事が行われるらしい。

救護班は100人を超えて各地に配置されている。

試験が行われるであろう正方形に盛り上がった空間、魔法障壁で仕切られている場所に20人が指示通りに動いた。

カイルは3度目の試験グループになっているがミヤは4度目らしい。

ミヤと当たるのが最も望ましかった。


「で、俺はどうすれば?」


「何もしなくて良い、ただ降参すれば良い」


「通るのか?」


「最低評価を付けろ、と僕が指示をする」


「お前って実は怖い奴?」


「さぁ、君はどう思う?」


「俺には分からないから聞いたんだ」


「ハハ、そういうの自分で言うもんじゃないでしょ」


 次のグループが動く。


「おーもう次かよ、緊張するな」


「どうせ、笑われるだけなんだからジッとしてなよ」


「口以外動いてねぇよ」


「それもそうだね」


 カイルを見てミヤが笑う。

それに、彼は笑顔を返すなんて事はせずにただ既に半分が終わった試験の様子を眺めている。

少しして、出番が来る。


「さて、行くか」


嘲笑を浴びに、皆の優越感を満たすために、試験場に向かう。

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