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27話

家が見えた頃にカイルの背後には1つの人影があった。

それに気付かないはずもない、だが彼が反応を見せる事はなかった。


「おいおい、反応してくれよ。わざとこうして登場してんだからさぁ」


 聞いたことのない男の声。

お調子者感が強い、カイルの嫌いなタイプの声だった。

感じた想いを隠すことなく振り返る。

彼よりも背は低く、細いが細すぎる訳でも低すぎる訳でもない。

容姿においては、別段優れていると書くべき部分はないが、これといったマイナス要素のない特筆すべき要素がない物だった。


「……」


「あれ、見えてないのかなぁ。 おーい」


 そんなはずがない事は分かっているのに手を振ってくる辺り、普段からこう言う演技じみた行動ばかりなのだろうと彼は1人納得する。


「君の恋人から話を聞いた限りではすげぇカッコイイ上に優しいーって褒めまくりな感じだったんだけどこんな無愛想な奴がそれかよー」


 これを聞いてようやく口を開く。


「所属はそっち側か」


「そうそう、で、今日はカイルに会いに来たんだ」


「それで?」


「んー要は特別何かある訳じゃない」


「その為だけにここまで入ってきたのか」


「ま、君の恋人さんに少し補助はしてもらったけどね」


 それを聞いて、ダンテは国内にいるのだろうかという疑問が浮上する。

質問する前に答えは返ってきた。


「あ、もうここにはいないよ。 そろそろブレイス側も何か明確な対策を用意してくるだろうし前みたいな事は流石にねぇ」


「そうか、なら」


 カイルはリュウから渡されたばかりの腰の剣を掴む。

彼はこの重さにまだ慣れていないが、それでも誰が相手だろうとそう簡単に遅れを取る気はなかった。


「いやいや、やめようよ。 ここじゃ街の人がさぁ」


 周辺に街の人などいない。

そもそも彼の家の周りにはほとんど家がない。


 勧誘だとか、そんな雰囲気はない。

ただ会いに来ただけにしてはリスクが高過ぎる。

それとも、彼らにとって最早ブレイスは警戒対象ですらないのか。

何かのついでで会いに来たにしても、相当な余裕がある事だけは確かだ。


「周り見ろよ、街の人がどこにいる?」


「俺が本気を出せば……なんてね〜。 君なんでこんな誰もいないとこに住んでるの?」


「そんなの俺の勝手だろ」


「それもそうだねぇ、とりあえず今日は帰るよ」


「逃すと思うか?」


 カイルがそう言うとその男は彼の家を指差し言った。

実力がある程度分かっていれば、攻撃しても良いが未知数の相手だ。


「あの子を殺すのと、俺が死ぬのどっちが早いかなぁ。 少し考えれば分かるはずだけど」


 家にいるナナも全く自衛が出来ない訳ではないだろう。

もしかすると気付いている可能性もある。

だが、仮に気付いていなければ。


「…………さっさといけよ」


「ありがとうね〜。 じゃ明日、ダンテが待ってるよ」


 今日のリュウの話から行動が予測されている事ぐらいは想定済みだ。

それを利用して彼女を捕らえる事が出来れば彼の勝ちだ。


「まずは、待ち伏せしてるダンテをどうにかする」


それからの事は後で考えれば良い。

今は彼女を止めなければならない。

取り返しがつかなくなる前に、救ってやる必要がある。

利用出来る物は何でも利用すべきだ。

下らない友情だろうと、囮部隊だろうと、どれだけの犠牲を積んででも。


「絶対に、あいつは救う」


決意を声にして、家の中に入る。



中に入ると床を蹴った音が聞こえる。

飛んできた蹴りを片手で掴む。


「俺だ、落ち着け」


「なんだ、カイルですか」


 ナナは片足が空中で浮いたままの姿勢で答える。


「あれ、純真な子供に対して堂々と覗きですか嫌らしい」


「純真な子供が家に入った奴にいきなり殺意を向けるかよ」


 嫌味な笑みで答えながら離す。


「で、姿は見てませんがさっき家の前にいたのは? 直接は見てませんが友人って雰囲気は感じませんでした」


「さぁな、少なくとも知り合いじゃない」


 現状で彼女に情報を与えるつもりはなかった。

下手に情報を与えれば、彼女が危険な目に合う事になる。

彼女にも生きる為に何らかの考えはあるはずで、全く動かないという保証はないのだ。


「そうですか」


「それと明日は帰りが遅くなる」


「うーん、おやつは分かりやすい位置に置いててくださいね」


 この答えに緊張感が溶けてしまって。


「はは、嫌だよ」


「えーケチ!」


 少し気分が軽くなる。

彼女を家の中に入れたのは間違いではなかったかもしれない、なんて思いが彼の中に沸いていた。


「そういえば、テレビで反抗勢力を半壊させたと言ってましたが事実ですか?」


「ん、あぁ事実だ」


 聞いた事がないが、否定する意味もなく肯定する。


「まあ、どっちにしても家に居たら私は安全ですね。 そう何度もここが襲撃されるようならみんな色々と現実に気付いて国から逃げちゃいますし」


「あぁ、無駄に家からは出るなよ」


「はいはーい」


 注意を聞きたくないのか、カイルの部屋へと逃げて行く。


「どう考えても逃げる方向間違えてんだろ……」


 今は彼女の為に物置になっていた部屋を開けて、明け渡しているのだが、未だに時々ではあるがあまり物がないカイルの部屋にいる。

それも、今の状況で言えば微笑ましいものだったからこそ彼は笑う事が出来た。

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