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22話

「作戦会議はどこでやる?」


 今は教室で4人、放課後だった。

適当な口調、表情でミヤが言う。


「カイルの家で良いんじゃない?」


 カイルが見る。

すると、彼は笑って、言った。


「あれ、嫌?友達なんだからさ、もっと気楽にいこうよ」


「友達じゃない」


 彼らが好意を自分に持つならば、一方的にそれを利用するだけの支配の様な関係。

カイルはそう考えていたはずだった。


「まあそう言うなって」


「そうそう、仲良くしていこうよ」


 ビオス、ユウカが会話に入ってくる。


「とにかく俺の家はダメだ」


 断ると、ミヤは顔を近づけて来て言った。


「ダメな理由はもう2人とも知ってる」


「は?」


 信じるべきではなかったと後悔するより早く、カイルの顔を見て笑って言う。


「いや冗談だけどね、でもこれからは仲間なんだからさー」


「助け合う? 俺とお前らが? 実力差を考えろよ」


 直前まで利用しようと考えていたのに、反射的に否定してしまった。

それは彼の過去に原因がある。


 3人は、いやもう彼を除いて誰も知る者はいない。

まだダンテの婚約者の選抜候補の中だった、殺し合いの日々の中、過去に協力しようと持ち掛けられた3度全てに、裏切られて、死の危機があった事を。

そして、その度にもう信じないと自分に誓って、全てまた信じてしまった事を。



 彼女は、ダンテはどうだろうと少し昔を思い出す。

何故、信じてしまったのだろう。

彼女は最初、憐れみの視線を向けていた。

当時、カイルにはそれを理解出来なかった。

時が経つ内に、彼女の視線は親しみへと変わり、少しずつお互いに男女の差を意識し始める様になった。

最初の出会いを除けばよくある話だ。



 自分を変えてくれたのはダンテだと彼は確信を持って言うことが出来る。

その恩がある彼女は今明らかに狂っていて。

それを、救いたいと、思う。

彼女がいなければ今の彼はいない、それなら、このどうでもいい友情ごっこを一時的に利用して、救おうと、彼は思った、思う事が出来た。




「確かに純粋な戦闘能力じゃ負けてるかもしれないな」


「かもじゃなく確実に負けてるだろ」


 ここで少し、冗談っぽく笑ってみる。

嘲笑の類ではなく、普通に笑顔を見せてみた。

するとそれにビオスが笑い返してきて言った。


「でも、1人じゃ限界があるだろ」


「あるな」


 確かに、個人の力では出来ることに限界がある。

しかしチームに友情は必要ないはずだった。

作戦上でやるべきことをやればいいのだ。

お互いにカバーし合う為に馴れ合いは不要だ。


「まあ、今はいいでしょ」


「そうですね、どこ行きます?」


「私の家とか……」


 ユウカが控えめに名乗り出る。

別にここでも良いんじゃないかとカイルは思っていたがそれを言う事でまた家に来ると言われたくないので黙っていた。


「まあ、ホントはどこでもいいんだけどね、作戦会議って言っても話すことないし」


「は、話すことが無いってどう言う事だよ」


「場所以外の具体的な情報ゼロ、地図さえ無い、陽動は付けてくれるけどどこまで期待出来るかは分からない」


 なぜ、その状況で自分達学生が調査に行かなければならないのかと言いたいが言ってもどうにもならない事は分かっている。


「なら、何故実験場だと解る?」


「さぁ」


「…………忠誠かなんかのテストかよ」


「違うよ、正式な作戦だ」


「って事は成功したら色々貰えたりしますかね」


「多分希望すればくれるんじゃない?」


「そんな事どうでもいい、当日の集合場所だけ決めろよ」


「じゃ、カイルの家で」


 待てと言おうとして止める。

要は中に入れなければ問題はないのだ。

大事な作戦前に寛ごうなどとは、多分考えないという考えだ。

安直ではあるが彼らにとっても大切な任務だ。

成功すれば家の地位も少しは向上する。


「2人はそれで良いのか?」


「俺まだ覚えてない……学校が休みの日だからついていく事も出来ないしな……」


「私は覚えてるから大丈夫」


「分からなかったら連絡入れてよ、迎えに行くからさ」


 ミヤがそう言って、当日カイルの家に集まる事だけが決まった。


「分かりました、ありがとうございます」




「あ、おかえりなさい」


 出迎えてくれたナナを見る。

その瞳を、見る。

彼女はカイルやミヤと比べると弱い。

魔法で無理矢理、精神を支配して考えていることを吐かせたりする事も十分に可能だ。

本来それをすべきだ。

道徳だとか、主義の問題では無くやるべきなのだ。


 今やらなくとも、いつか必要になる可能性がある。

もしも彼女がグリセリーからの間者であるという可能性がはっきりと浮上した場合、ダンテの為に、自分は、それが出来るだろうかと彼は思いながら、答える


「あぁ」


「ずっと暇でした、遊んでください」


 追跡を受け続けていたとは思えない程に無邪気な瞳。

袖を掴んで引っ張られる。

やはり、彼にはそれを疑うことは出来ない。

甘さを捨てる程の強さがなかった。



「やだよ」


「こんな遊ぶ場所全くないとこに連れてきておいてその態度はなんですか!」


「お前が望んで居候してんだろうが」


 彼女が言った通り家の周囲には子供が遊ぶ事が出来る場所はほとんどない。

そもそも、外れの方とは言えエリートが集う第1地区なのだ。

遊ぶ場所など地区中探しても数える程だ。



 指摘され、怒った顔を引っ込めて言う。


「おやつどこにあります?」


「ない、そんなモン」


 そう言うと泣く真似をするのでカイルが言った。


「嘘泣きしてもないもんはない」


「……ウソじゃないもん」


 見つめられる。

ナナが意図して純粋な目を作っている事は彼にも一目で分かったがついつい言葉に詰まり気まずくなる。

結局、数秒睨み合ったが子供には逆らえなかった。


「………………分かった分かったよ、買いに行こう」


「やった!」


 一気に嬉しそうな表情になるのに苦笑する。


「分かってると思うが人通りがあるとこには連れては行かないからな」


「はい、それは理解してます」


「出かける準備しろ」


「はーい」


 途端にバタバタと慌ただしくなる。

カイルは念のため、行く前に先に外に出る。

そして辺りを見渡し、気配を探って何も感じないことを確認する。


「最近、監視がいないな……」


「出来ましたー!」


 背中を押され、少し前に体勢が崩れるが流石にナナの体重程度で倒れはしなかった。

彼女は小さなカバンを腰につけている。


「ん、顔に何か塗ったのか」


「まあ、今ならバレないとは思いますけどね」


 そんな会話の後、2人は小さなお菓子屋を目指して歩き出した。

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